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東西クラウディア王国の対立と神聖連邦帝国への恭順いきさつ

「これはまだまだ僕たち兄弟が少年の頃の話なのですが、長年クラウディアを平和に統治して来た父王が突然引退を表明されてしまって……そしてクラウディア王国を東西に分割して、西クラウディアを双子の兄の猫名(ねこな)が、東クラウディアを僕猫弐矢(ねこにゃ)が受け継ぐ事になったんだ……」


「美しい猫弐矢さまの双子……」


 クリソベリルは想像してときめいた。


「パパ王殿は楽隠居ですな」


「そんなある日、東の神聖連邦帝国のスィートスの将軍が、数名の屈強な男達を引き連れてクラウディアに乗り込んで来たんだ」

「おおお、そこで血みどろの大虐殺が発生した訳ですな?」

「可哀そう……」

「起こってません!!」

「いちいち話の腰を折るなよ……」


 セレネがイライラする。


「やって来た彼女や彼らは、神聖連邦帝国の聖帝がクラウディアの国宝神宝を見たいと仰せだ、早く渡せと言い出したんだ」

「そこで拒否したお前らは大量虐殺される訳ですな?」

「可哀そう……」

「いや、その時偶然兄の猫名はセブンリーフの夜の歓楽街に豪遊に行ってて僕一人だったから、父王から僕一人で考える様に言われて……」

「夜の街に豪遊て嫌なガキだな」

「それで拒否したと?」

「しつこいな」


「いいや、僕は深く考えずに、おっけーどうぞどうぞと言って貸してあげる事にしたんだ。すると突然彼女や彼らは豹変して、神宝を見せたるは服属の証なり、今日よりクラウディアは神聖連邦帝国の配下に入った!! とか言いだして……」


「あー本当の名前を教えたら結婚しなきゃいけないみたいなネタか……違うか」

「おおお、そこで遂にブチギレたお主と戦闘が始まり、大量虐殺になったのですな?」

「可哀そう……」


 伽耶クリソベリルは両手をぎゅっと握って猫弐矢を見た。


「いや、だから大量虐殺は起きていないよ!! でもそこで多少キレた人々が居て、僕がだったら穏便に力自慢で決めようよという事になって、次々にクラウディア中の力自慢が将軍の彼女や彼らに挑んで行ったんだが、ことごとく将軍の女性に打ち負かされて……力自慢だった男達は泣きながら国を出て方々に散って行ったよ……それで仕方なく僕はもう正式に神聖連邦帝国に降る事を決めたんだ。父王も僕が決めた事なら良いよと言ってくれて。それ以来このクラウディアは、恋人を無くした美しい乙女や、夫を突然失った物憂げな人妻ばかりの寂しい国になってしまった……」


「ここに……住みます!」

「おい」

「虐殺が無くて良いのですけど、何だかなーという滅び方ですね」

「僕たちは滅んでません!」

「すみません」


「でもそっから微妙な注文を次々されて……ここには古代クラウディア大帝国があった事にしよう、その方が神聖連邦の箔が付くと言い出して……」

「あーー倒した敵はデカい方が自慢出来るからなぁ」

「まず要らなくなった連邦各国の神宝を集めて、ここに全て埋めてしまおうと言い出して……それで遠い未来に、此処にクラウディア大帝国があったと勘違いする人が出て来るだろうと……」

「夢のあるゴッドハンドですなあ」

「……そうですか?」

「ほんでほんで?」


「ああ、それから今度は東クラウディアに元々あった我ら神殿を、この地西クラウディアに移転しよう、もっと凄いのを建ててやろうと言い出して……えーーっありがた迷惑だなあ~みたいな感じでね。ここに壮麗な巨大神殿を建ててやるので、クラウディア大帝国が国を譲った証にして欲しいと」


「おおー良かったじゃないですか。思わぬビッグボーナスじゃないですか」


「は~~~そうでも無いよ。クラウディア大帝国の話が独り歩きして、将来この地で大戦争の大虐殺があったに違い無いとか、クラウディアの民が怨嗟の念を抱いているとか、父王が皆の前で首をはねられたに違いないとか、その怨霊を鎮める為に大神殿が建てられたとか、デタラメな事を吹聴するおかしな人達が出てこないか心配だよ~~大変な重い役割を背負ってしまった気がする」


 猫弐矢兄さんは可愛い猫耳の付いた頭を軽く抱えた。


「うーむ、神聖連邦帝国の権威を高める為に作られたお話が、逆に違う物語を派生させてしまう訳ですなあ……」

「油断ならないな神聖連邦帝国……」

「猫弐矢さま、大変な重責を背負われて……」


「あのー何か忘れてないですかな?」

「ああそうでした! 忘れていましたよ……そんな感じの時にいい感じで酔っぱらった猫名兄さんがフラフラと千鳥足で帰って来て……ひねくれ者の兄さんは何故自分が居ない時にそんな重要な事を勝手に決めた! と何故か大激怒してしまって。本当に心が狭い兄で……」

「狭くねーわっ! 当然だろが……」


 セレネは兄に肩入れして激怒した。


「そんなある日兄は突然、猫耳以外真っ裸になって一緒に水浴びしないかっ? 等と不気味な事を言い出して」

「ええっ!? 猫弐矢さま双子の兄弟で、猫耳以外真っ裸でみみ水浴びですか!?」

「どうしたのですクリソベリル、君らしくも無い、異常興奮していますぞ」

「い、いえ……それで??」

「はいー不気味な事もある物だと思いつつ、しゅるしゅるっと服を脱いで兄弟で猫耳以外裸になり、水浴びを始めたんだ」

「ごくっ……」

「先程からどうしたんですかクリソベリル、血走った目をしてますぞ……」

「しかし……兄が突然、ふふ我が弟ながら美しい身体をしているな……等と口走り出して、おやこれはとうとう怪しいぞと思い逃げ出したのです。後で知ったのですが兄は私の剣を木にすり替えていて、油断した所を切り殺そうとしていたのでした……恐ろしい」

「伽耶、鼻血鼻血!!」

「ほんとだ」


 セレネが言う様に、砂緒が指をさすと本当にたらーっと鼻血が出ていた。


「ぎゃーーーー!!」

「大丈夫かい??」

「い、いえ大丈夫ですえへへ」


「しかしその出来事を家臣達が勝手に神聖連邦帝国に報告してしまって……直ぐに再び将軍達がやって来る事に……我らの恭順の意を聞いてこんなんやってられるかーと、兄は勝手に我が国の旗機魔ローダーである、ル・ツーを持って出て行ってしまったのです……それ以来此処でこうして兄の帰国を待っているのです。しかしなかなか神殿の建設が始まりません……」


「おおーめでたしめでたしですな?」

「どこがだ」


 セレネが呆れて言った。


「しかしそれだけでは済まなかったのです……それからしばらくして猫名兄さんを大変慕っていた猫呼(ねここ)という大変可愛い妹が、兄を探して家を出てしまったのです……それが兄の失踪なんかより何百倍も悲しくて……兄が消えた時は割と何とも思っていなかったのですが……妹が消えた途端に寂しくて力が抜ける程悲しくて。まーガサツな兄は半分諦めていますが、妹だけには心から帰って来て欲しい……そう、思ってるんだ」


「酷い本音が出たな」

「ときに猫弐矢殿、親類縁者の名前を百名程よどみ無くスラスラと言って頂けませんかな?」

「やめろって……」

「はあ? 親類の名前ですか?? 猫亜 猫依 猫卯 猫絵 猫尾 猫香 猫来 猫九 猫毛 猫湖……」


「いや、もう結構でござる! すでに猫呼(ねここ)猫湖(ねここ)が被ってござる、何百人聞いても同じでござろう」

「前々から気になってたんだが、お前そんな話し方だったか?」

「猫弐矢さまお可哀そう……妹さまは何処に?」


 砂緒とセレネが顔を見合わせた。


「猫弐矢殿、貴方にはお伝えせねばならぬ事がある様ですな。妹さん、猫呼さんは元気に暮らしていますぞ!」


 砂緒は猫弐矢の肩に手を置いた。


「おおお、それは本当なのかい?? 貴方達は猫呼の行方をご存じなのですか?」

「ご存じも何も、私は猫呼とマブのダチ、一緒の建物に暮らして寝起きしておりますぞ。何なら臨時代用お兄様でもあります!!」

「要らん事を伝えるなよ、話がややこしくなるだろ……」


「臨時……代用お兄様……?」


 猫弐矢はブルブルと震えた。


「ほらほら、遂にブチギレて殺されるぞ……」

「ありがとう!! 寂しい猫呼の臨時代用お兄様になってくれて……とても感謝するよ!!」


 猫弐矢は涙を流しながら砂緒に抱き着く勢いで腕を掴んで振った。


「猫弐矢さまはどこまでもお優しい方なんですね……」


 伽耶クリソベリルはもらい泣きしてハンカチで目を拭いた。


「そうですなあ……今度サクッと猫呼を此処にお連れしましょう!! まあひねくれた兄の方は諦めて下さい!!」

「またあたしの魔力を勝手に……運転するのあたしだろうが」

「ほ、本当かい!? 本当に連れて来てくれるのかい?? 神様……砂緒さんを遣わしてくれてありがとうございます……」


 猫弐矢は天に向かって祈った。


「良かったです……兄妹の感動の再会……その場に居合わせたい……」


 伽耶は我が事の様に猫弐矢の喜ぶ姿を見て感動した。


「そうだ……そんな素晴らしい事を教えてくれた砂緒さん達に、何かお礼がしたいよ!! 僕に出来る事だったら何でも言って欲しい」

(来たーーーーーー!!)


 砂緒はコンテナの中に積んでいる、オリハルコンとミスリルを思い出してほくそ笑んだ。

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