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荒涼回廊の館の主、伽耶クリソベリルに情勢を聞く……

 蛇輪はそのまま北上を続けた。


「もうすぐニナルティナ上空だけどどうする? 一回降りて行くか?」

「いえ良いです。 フルエレはどうせまたあのド変態野郎のブラジルとイチャイチャしてるのでしょうし、正視に耐えられません。通り過ぎて一気に荒涼回廊に行きましょう」

「意地でもブラジル通す気か?」


 等と言い合いながらも飛び石の様に、ブラザーズバンド島国シィーマ島国の上空を経て、遂には域外の帝国から突き出ている北の荒涼回廊の沿岸に辿り着く。


「飛び地の館はこの辺りなんだけどなあ、皆生きてるかなあ?」

「いい加減ですねえ」


 セレネは地図を見ながら地上の建造物を必死に探した。

 バンバン!!

その時突然破裂音がした。対空攻撃だった。


「うわ、撃って来た!! なんでだよ!!」

「まあ、我々はれっきとしたUFO、未確認飛行物体ですからねえ」


 最初の攻撃を合図とする様に、次から次へと激しい対空攻撃が始まり、空に黒い煙の塊がぽつぽつと発生して浮かんで行く。


「まー、魔ローダーはこんな攻撃ちっともダメージにはならんけどな」

「ちょっと待ちなさい! 蛇輪は大丈夫でもコンテナは普通にダメージくらいますよ。中にはフルエレの大切な魔輪も載せてるんです。急上昇しましょう」

「……ゴホウラ貝はいいのかよ? お前は本当にフルエレさん大好きっ子だな……あたしがフルエレさんにムカついて来た!」

「いいから、早く急上昇!!」

「あいあい」


 ゲーム感覚で対空魔法攻撃を避けていたセレネが、一気に急上昇する。みるみる対空砲火の黒い煙の塊の層が絨毯の様に眼下に広がっていく。


「これではラチがあきませんね……では対空砲火の中心位置で私飛び降りますので、交渉が成功したら合図します」

「お、おい大丈夫なのかよ?」

「大丈夫大丈夫。とっとと中心地に向かって下さい」

「あいあい」


 セレネは蛇輪を旋回させ、対空魔法砲火の一番厚い中心地と思われる所でホバリングを始めた。


「ではセレネ一尉、後を頼む……」

「まだやってたんか……て、もう飛び降りちゃった!」


 セレネの言葉通り砂緒はハッチを開けると無造作にあっさり飛び降りた。直後オートで閉まるハッチ。そして空中で硬化した砂緒はみるみる真っ白い肌に変わって行く。そのまま降下を続けると、至近で対空魔法砲火が炸裂を始める。

 バンッ!!


「痛っ!!」


 思い切り対空砲火が命中する。しかしそれが目測となったのか、さらに次々命中して行く。


「あいたっいたた、いでででで、くそっ!! 痛いですねっ!!」


 降下していく砂緒を綺麗にトレースする様に、対空砲火がやがてマシンガンの様な連続する弾丸の光線となり、吸い込まれる様に砂緒に当たっていく。


「いででででででででで」


 地上では大混乱となっていた。謎の飛行物体が現れた直後、キラリと光る白い謎の物体が降下を始めたのだ。何かの攻撃だと思い、皆必死に応戦を続けた。


「クリソベリル様、全く効果がありません! 一直線に降下して来ます!」


 双眼鏡を持った家臣が館の主に報告する。


「まだまだ! 諦めちゃだめよ! この館は私が守る!! おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!!!」


 頭に鉢巻を巻き、両手に大型のマシンガンの様な魔銃を持った館の主、伽耶クリソベリルが空中の砂緒に対して、綺麗に弾丸の筋を当て続ける。

 ガガガガガガガ


「おらおらおらおらおらおらおら!!! 死ねええええええ!!!」

「いでででででででででででで」


 ズシャッ!!

弾丸の雨を浴びながら、遂に砂緒が地面に両手を付いて着地する。もはや衣服はボロボロだ。そのまま目をギラリと輝かせ、両手を綺麗なフォームで振りながら、恐ろしい形相で一直線に走って来た。


「ぎゃあああああ!! 何か来た!! 走って来た!! ヤバイ」

「クリソベリル様!! 一体これは!?」

「皆の者うろたえるな!! 諦めずに最後まで撃ち続けろ!!」


 館の主は砦の壁の上で、さらに両手の連発式の魔銃を撃ち続ける。しかし砂緒は一向にダメージを受けず、遂に館の砦の正門を拳で潰しにかかる。

 ズガーーーン!!

魂を込めた拳で一発で粉々に破砕される金属製の正門。


「バカな!? 一発で人間が門を砕くだと? 化け物か??」


 動かない物にはめっぽう強い砂緒だった……


「いい加減にせんか!! 私はニナルティナの使いであるぞ!! いでででで、コラッ! 聞け」

「な、何かニナルティナの使いとか言っているようですぞ!」

「え?」


 撃ち続けていた伽耶クリソベリルの動きが止まった。



「も、申し訳ありません! もしやニナルティナの御使者様だとは、重ね重ね謝罪申し上げます!」

「いや、もう結構。男なら殴り殺している所ですが、そなたが妙齢の女性と分かった以上は一切怒りはありませぬ」


 砂緒はボロボロの服で正座して出されたお茶を飲もうとする。


「ハッ! 忘れており申した! 実は上空でユティトレッドの王女が待機しております。急いで合図せねば。魔法発煙筒は二本ありますか?」



 魔法発煙筒を二本渡された砂緒は、蛇輪が着地出来る広い中庭の中心で、両手でぐるぐる発煙筒を回転させると、両膝を折って感動的に背中から倒れた。


「あれは……何の演出なのでしょうか?」

「分かりませんが……何か重要な意味があるのでしょうね」  


「あの馬鹿何やってんだよ……」


 等と言いつつ蛇輪は地上にゆっくりと降りた。



「これはこれはユティトレッドの王女殿下、先程は失礼の段平にお許しを!」

「良い良い。当たっていたのは砂緒だ。どうせ砂緒の事だ、館の主が今も女と分かった時点で一切怒らなかったのだろう」

「こ、これは申し訳ありません。挨拶が遅れました。私はニナルティナの飛び地の主、第七代伽耶クリソベリルと申します。以後お見知りおきを」


 クリソベリルは質素なスカートをぴらっと持ってお辞儀をした。


「あーニナルティナなら滅亡しました。今は新ニナルティナと申す」

「えええ!?」

「あと、ここはニナルティナの飛び地じゃ無くて、ユティトレッドの飛び地な!」

「えええ!?」


 砂緒とセレネから立て続けに衝撃の事実を知らされ、ショックを受けるクリソベリルだった。


「して、何故いきなり対空砲火を浴びせて来たのですかな? 見た所クリソベリル殿はその様な乱暴者には決して見えませんが」

「そりゃ見た事無いもん飛んでたら普通撃つだろ」

「い、いえ……それだけでは無いのです。実はこの砦はたまーに金属を狙う異民族から襲撃を受ける事がありまして……てっきり今回新手の敵かと……ご容赦を」

「敵とな?」

「異民族とか敵とかってここ超過疎地帯だよな?」

「クリソベリル殿、このセレネ王女はあの子ちょっとヘン……等と影で言われながらぼっち学園生活を送っている学校のレポートで、ここの実情を調べに来たのです、教えてもらえぬかな?」

「い、いらん事言うなよ……ぼぼぼっちちちがうわっ」

(え、何でバレた!?)


「はい……実はここ北の地の荒涼回廊には、実は簡単に分けて三種類の人間が点在して住んでおるのです。一つは域外の帝国から下って来た移民。もう一つは我々、ここの砦や館の住人の様に、はるか古代からセブンリーフ北部や、東の地から小舟で渡って来て南部地域に住み着いた人々」


「未知の東の地からも……」


「ええ、東の地の北側の沿岸部から広範囲に渡って来ています。そして最後の集団は、我々とも域外の帝国の民とも違う人々が、空白地帯に邑という村落共同体を作って点在して居住しているのです」


「村落共同体……」

「邑……」


「はい、その邑ゝの中には、域外の帝国の政治犯や政争に破れた一族がやって来て、邑を乗っ取って邑長を名乗ったりした邑もあれば、南岸に居ついた我々の一族とは違って、東の地からいきなり中央の邑に入って行って、やはり邑長になったり、邑長の補佐役になったりする猛者が出現した邑もあるのです」


「なんだかカオスだな」

「つまり、そうした邑が急成長して襲いかかって来ると?」

「はい、今この荒涼回廊中部には有力な三つの邑が出来つつあり、やがてそれらが総力を挙げて襲い掛かってくるのではないかと、南岸の人々はいつも危惧しているのです」

「よっし! ではそれらの邑々を全部攻撃して来ましょう!」

「駄目だろ! 別にまだ全部から侵略された訳じゃあるまいし」

「いえ、今こうして御二人が訪ねて来て下さって、ここの人々は忘れ去られた訳では無いと安心しております」

「安心しろ! 今セブンリーフは戦争続きでごたごたしているが、もうすぐ新しい女王の元一つになり、こことのやり取りも活発化させるつもりだ! その時は大増援を出すぞ!!」

「おお、今その様な事になっているのですね。きっとその時は増援をお願いします……」


 話の最中に砂緒がお茶をすすり、おもむろにくわっと目を見開いて言った。


「時に第七代伽耶クリソベリル殿、今域外の帝国はみっつの王国に分裂しているのはご存じかな?」

「……恥ずかしい、最近聞いたばかりの話を……さも」


 セレネは赤面して片手で顔を覆った。

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