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キィーナール島国へ 

 海と山とに挟まれた小さき王国を出発した魔ローダー蛇輪の中で、砂緒とセレネは早速揉めていた。


「早くこのまま、ビューンと南に向けて飛んで下さい!」

「だからダメだと言っているだろうが!! 一旦まおう軍を避けて東に飛び、東側の海岸を沿って南に行く!」

「なんでそんなまどろっこしい事を、しなければいけないのでしょうか?」

「だから何回言わせる気だ? まおう軍を無用に刺激しない為だと言っているだろうがっ!」

「へェーセレネって案外チキンなんですね」

「チキンじゃねー」

「キャハハくすぐったいぞ砂緒!」

「はいはい」

「チキンじゃねー、おじい様からこっちから仕掛けるのじゃなくて、あっちから仕掛けさせるのが理想だと言われてるんだよ。まおう軍とメドース・リガリァは同盟結んでる可能性高いからな」

「キャハハ上手く行ったか?」

「鏡があれば良かったんですが……」

「お、おい……さっきから何をしてるんだ? ヤバイ事じゃないだろうな……」

「何って、抱悶ちゃんの髪型で色々遊んでます。今はオーソドックスに三つ編みをしていますよ。とても可愛いです」

「可愛いじゃろうきゃはははははは」

「仲いいな……じゃない! マジでお縄になる様な事だけはするなよ?」

「……先程から何を嫉妬してるんですか? 可愛い妹みたいな物ですよ」

「嫉妬じゃねーわ」


 嫉妬だった。


「私の知識で言う所の通話モニター的な物は無いのですか? セレネ、下の状況を前の窓で観たいと念じてみて下さい」

「あっ一瞬で出たわ ……可愛いな、じゃない! 何で急にお前らそんな仲が良く」

「セレネ! ちょっと待って下さい、今海岸線に面白い物を見つけました!!」

「何だ? 遺跡か? 軍事施設か??」

「違います! 砂浜でカップルがいちゃついています! 是非ちょっかい出しに行きたいです!」


 セレネは座席でコケた。


「お前……」

「お願いします! 私昔からTVドラマで出て来る、カップルに絡むチンピラの役に憧れていたのですよ」

「憧れんなよ……」

「そんな事言いながら、最後は泣きながら抱き着いて来て許してくれるのでしょう?」

「つ、遂にお前……ネタにし始めた??」


 等と言いつつ結局は砂緒の言う事をついつい聞いてしまう、甘ゝなセレネだった。



 ―ユーイン温泉東の海岸。この辺りには内陸部のユーイン温泉の他にも、この海岸地帯にはププッピ温泉という別の温泉もあった。とにかく温泉がやたらあちこちにある場所だった。


「美柑、あちこちに温泉の湯けむりが上がっているね……」

「そうね……風情があるわよねっ!」

「……入る?」

「入りませ~~ん」

「だよね、ちょっと言ってみただけだよ、気にしないで」


 紅蓮と美柑は海岸の砂浜で、二人共三角座りをして遠くを見つめていた。


「……この海岸線をずっとずっと南に南に行けば、僕の祖先達が冒険の旅に出発した太陽に向かう浜があり、神聖連邦帝国発祥の地もあるんだ……壮大な話だよね……」


 紅蓮は小石を海に投げたりして語った。


「急にロマンチックな話題に切り替えたのねっ!」

「違うよ、そんなつもりは全く無かったんだ。ただ何となく美柑に一族の事を教えてあげたくて」

「ありがと……そういう話好きよ、もっと聞かせて」

「最南端の未開地の内陸部の山や森には、さらに昔の祖先達が住んだ地があるんだ。そこで何代も平和に暮らしていたのに、何故突然海を越えて東の未知の地に旅したんだろうね? もう果てしない古代の事で僕達自身にも分からない事が多くなってしまっているんだ」

「……単純に飽きたんじゃない?」

「おー斬新な意見だね」


 美柑がくすっと笑った。


(…………今だっ!)


 紅蓮は慎重にそーっと美柑の手の上に自分の手を重ねようとした。


「だめよ……」

「ち、違う違う、カニさんがいたんだ。挟まれてない?」


 再び美柑がくすっと笑った。フェレットは肩で眠っている。


(紅蓮、貴方と結ばれるのは夜宵お姉さまよ……それまで中途半端に温存してるだけ、ごめんね……でも一目夜宵ちゃんを見たら、貴方も必ず好きになるはずよ……貴方ならどんな事があっても絶対に死なない)


 キィイイイイイイイイイイイイイインン


「?」

「??」


 二人同時に音のした方を見る。何か光る物が遠くに降りた。


「何?」

「さあ」


 最強の二人は大して動じる事も無く、再び海岸線の夕日になる前の午後の太陽を見ていた。


「おうおうおうおうおうおう、ニィーちゃん、可愛い子つれてんなあ? けけけけけけけ」


 激しくがに股で歩き、ポケットに両手を突っ込んだ砂緒が、完璧にガラの悪いチンピラを演じきって砂浜の二人に絡んでいく。少し後ろで激しく赤面し、両手で顔を覆ったセレネが立っている。抱悶ちゃんは興味が無いらしく、蛇輪の側で砂浜をいじっていた。


「こんな事がやりたかったのかよ、もういいだろう、そのカップルも困っているぞ、ちゃんと謝って帰れよ……」


 後ろでセレネが小さい声で言うが、砂緒は耳に入って無い。


「おうおうおうおう、シカトかコラー?」


 激しくガラの悪い感じで首を左右に動かして紅蓮に絡む砂緒。無言ですくっと立ち上がる紅蓮。


「だめよ……殺しちゃだめ……ほうっておきなさい」


 いつぞやの誰かさんみたいな事を言う美柑。紅蓮は構わず無言で背中の大剣、エイチファイヤーブレードの柄に手を掛ける。


「おうっ兄ちゃんやるって、の……」

「せっかく……美柑と……いい感じに……唸れファイヤーブレード!! 羽撃け火の鳥焦熱の炎鳳凰の舞!!」 


 キシャアアアアアア

紅蓮の剣から何だか良く分からない炎の鳥的なイメージが一瞬現れ、砂緒の身体を包む。とにかく必殺技ぽかった。


「アーーーーーーーーッッ」

「あっ」


 廬山〇龍覇的な攻撃を受け、完全に綺麗に垂直に天に向かってすっ飛んで行った砂緒は、そのままキラッと光ってお星さまになった。


「済まない、彼は死んだ。諦めてくれ」


 カチャッと剣を収める紅蓮。


「そこまでする必要ないだろーーーーっ!」

「何っ!?」


 いきなりセレネも剣を抜いて、紅蓮に襲いかかった。激しく何度も切り結ぶ二人。セレネは本気で殺すつもりで攻撃を繰り返すが、全て紅蓮の大きな剣に弾かれる。


「馬鹿なっ!? そんな重い剣で全てかわすだと!」

「信じられん……女性なのになんて強い剣?? 只者では無い!!」


 美柑を放置して、砂浜を走り抜けながら剣を交わす二人。紅蓮は炎の技を、セレネは魔法を一切使わず、まるで相手の剣の冴えを鑑賞する為の様に、剣技だけで切り結び続ける。


「僕は紅蓮、君の名前は?」

「名乗るつもりは無い! 死んで無いとは思うがやり過ぎだ! 謝れ!!」

「死んだに決まっているだろう! 向こうが先に仕掛けて来た!」

「仕掛けたって、絡んだだけだろうがっ!」

「君を殺したくない! そろそろ剣を収めよう!」

「ふざけるなっ!」


 激しく言い合いながらも火花を散らし剣を交わす二人。突然ビュッとセレネが蹴りを綺麗に入れるが、一瞬で狙われた顔を避ける紅蓮。


(何なんだこの男は? ムカツクくらいに強い……!)

(何だろう……流れる髪……しなやかな身体……美しい……)


 紅蓮はいつぞやの砂緒の様なゾーンに入っていた。

 キィイイイイイイイイイインン、ズシャッ!!

天に飛ばされた砂緒が綺麗に落下して来た。


「ふしゅーーーーっ、お前……許さん……絶対に倒す!!」


 全身を真っ白に硬化させた砂緒が、両手に電気を走らせて紅蓮に向かう。完全に逆恨みだった。


「ハァ!!」


 砂緒が片手を掲げると、指先から眩い稲妻がほとばしる。しかし紅蓮は恐ろしい反射神経とスピードで大幅に避けて難を逃れる。


「何だ今のは!?」

「馬鹿なっ! 初めて電気を避けられた!?」

「隙あり!!」


 危うく電気をギリギリで避けた紅蓮に、後ろから容赦無くセレネが切り掛かる。それをも寸でで避け、地面に手を着いて回転して距離を取る紅蓮。


「よし、砂緒! 今度こそ逃がさず同時にやるよっ!」

「はい、連携すれば倒せるはずです!!」

「こっちも本気で行かなきゃダメなのかな?」


 紅蓮を挟んで前後から、殺気を放って間合いを測る砂緒とセレネ。息が詰まる緊張が三人を包む。


「やめーーーっ! ストーーーーープッ!! どうして戦ってるの? いい加減にしなさいっ!」


 突然美柑が魔法の杖から次々にランダムに火球を放って、三人をばらばらな方向に散らばらせる。


「魔法使いがいた! あたしもありっったけの魔法を使ってやるよ!」


 紅蓮との剣技の戦いで、すっかり魔法の事を忘れていたセレネが吹雪がほとばしる片手を掲げる。


「んーーーーーーーーー?? あ、あれその女の子、なんだかフルエレを縮小化した様に見えませんか?」


 自己中の塊の様な砂緒が、緊張する戦闘中な事もすっかり忘れて、今度は金髪の魔法使いの少女に興味が湧く。


「い、いやー? 似てるっちゃー似てるかもしれないけど、違うっちゃー違うんじゃね?」


 剣を構えたままのセレネが、少女をちらちら見て首を傾げる。


(フルエレ? ……雪乃フルエレ??)


「オーケー、二人共もう剣を収めないか? 僕ももう何で戦っているのか良く分からないよ。それに僕と同じくらい強い人間が二人も居て嬉しいよ」

「いや、ギリお前の方が微妙に強い。が、次に会ったら負けんぞ」

「うーん、フルエレに声まで似てる様な……でも微妙に違うかな、このくらいの女の子が金髪にしてると、誰でもフルエレに似てるのかもしれません」

「おいおいいい加減だな」

「あ、あの……そのフルエレさんって……」

「おおおーーい! 二人共何をやっておるのじゃ! もう砂浜で山を作るのも飽きて来たのじゃ! 早く行くぞ!」


 抱悶ちゃんがこっちに来ようとしていた。


「抱悶ちゃんが来たら微妙にこっちの方がパワーバランスが上になりそうですね」

「でもまあ……フルエレさんに少し似てる事に免じて許してやるか?」

「ですねえ、そろそろ行きますか? じゃ、失敬!!」


 砂緒は大変身勝手にも、絡んで来て謝罪もせずに去って行った。


「お、おいあんた達!」

「ちょっとフルエレさんって……何なのよあの人達……」


 ポカーンとする二人を無視して、砂緒とセレネは抱悶を迎えて再び蛇輪に乗り込んで去って行った。美柑、ウェカ王子が探し求める依世ちゃんは、今度も姉夜宵の居所の情報を掴み損ねた。

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