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魔戦車とゴーレムは秒で倒すけど……

「行ってらっしゃ~~~い、気を付けて下さいね~~~~~」

(でも……本当に二人で大丈夫なのかしら……)


 お后さまがお城のベランダから手を振る。その周辺で侍女達や家臣達も手を振った。恐ろしくアットホームな小国の様だ。セブンリーフ北部列国が、結構アレな王様が多く国内がギスギスしているのとは対照的に見えた。砂緒とセレネの魔ローダー蛇輪はジャンプすると鳥型に変形し、少し飛んで街の外れに出ると、再びプレートアーマーをそのまんま巨大化した様な人型に変形して着地する。一連の全ての動きは一瞬だった。


「どらどら敵はどんなもんだ? 砂緒見えるか?」

「はい、敵は前衛の魔戦車とゴーレム部隊が既に街の前、一Nキロの地点まで来ていますね。夜陰に乗じて一気に小さき王国を占拠するつもりなのでしょう」


 海と山とに挟まれた小さき王国は北方列国の各大国と違って、城壁や堀は小規模で簡素な作りだった。敵の千人を越える大部隊の侵入には、持ち堪えられそうに無かった。千人なんて少なっ! と思うかもしれないが、中部小国群の国々には千人の敵兵は大軍だった。


「んじゃ、全部隊が見えた時点でお前の雷ビリビリで秒で倒そうか!」


 セレネは余裕しゃくしゃくという態度で、頭の後ろで腕を組んで背筋を伸ばしてくつろいだ。


「え、ええ、そうですねえ……フルエレと違ってセレネは躊躇が無いので好きです!」

「やらなきゃやられるからな! 当たり前だ!」


(生身の人間を魔ローダーで攻撃しないでっ! しないでっ! しないで ないで いで で……)


 突如砂緒の脳裏に、以前フルエレと魔ローダーに乗っていた時に言われた事が、エコー付きでリフレインする。


「ふぅーーーーー」

「どしたあ? はよやれや」

「あのーーー魔戦車とゴーレムは雷で秒で倒しますが、セレネは滅茶苦茶強い訳ですから、兵隊さんの方はビシッと剣と魔法で戦ってみませんか!?」

「へェーーーなんで?」

「なんでと言われましても……」

「……大方フルエレさんに魔ローダーで直接人間攻撃するのは、非人道的とかなんとか言われたんだろ?」

「……違いますよ。フルエレは笑いながら魔ローダーで、人間をグーパンチしろと言っていました!」

「嘘つけよ」

「とりあえず魔戦車とゴーレムは消しますから! ね?」

「ね? ってなんだよ」


 砂緒はセレネの会話を遮る形で片手を上げると、天に向けて雷を発生させる。いつもの様に雷雲がもくもくと発生して、雷雲に何本もの雷が横に走り始める。

 バリバリバリドゴーーーーーーーン!!!

雷雲から地上に向けて何本もの雷が落ち、二十両程の魔戦車と約百体のゴーレムが一瞬で消え去る。後にはシューっと煙を上げる黒い塊だけが残った……


「あの中にアルベルトさんみたいな人がいっぱい乗ってたんだろうな」

「そういう事言わないで頂きたい」

「なんだよ結局どんどんフルエレさんに影響されて来たな? ほっとけばそれが街に攻めて来て、住人殺したりお后さまを連行したりしたかもしれんのだぞ?」

「分かってるからやったんですよ! 降りますよ!!」

「へいへい」


「部隊長、前衛の魔戦車とゴーレム部隊が全て消失した模様!」

「何!? 今の雷でか??」

「雷ってニナルティナのメッキ野郎じゃないか? 何故ここに?」

「もしメッキ野郎が出て来たらどんな場合も撤退と言われているぞ!?」


 侵攻するメドース・リガリァの後衛の部隊は大混乱となった。


「報告です! 雷を出した魔ローダーの乗員と思われる者二名、着座するといきなり降りて生身でこちらに向かっております!! どうされますか??」

「何!? 乗員が生身で??」

「よし、隊を二手に分ける。特に腕の立つ者を特殊部隊百名に分け、王国に突入させ王族を捕縛する、残りは魔ローダー乗員を倒す!」

「九百名も必要ですか? 半々に分けた方が?」

「いや、メッキ野郎の乗員は異常に強いという報告もある。乗員を倒し次第、残り全軍で王国に突入するぞ!」

「はい!」


「うーむ、騎兵や重装歩兵や魔導士はそのままなのですが、百名程の歩兵部隊が枝分かれして、王国に潜入に向かった様です」

「よく見えるな……」


 砂緒は屋上有料双眼鏡の能力を使った。


「王国とて少数の兵達は居るのですから、潜入部隊の方は自力でなんとかしてもらいましょう」

「だな、じゃあ残りの兵隊あたしゃ八百名くらい倒すから、お前百名がんばれ」

「……出来ますかね? 私一人で百名なんて」

「あ、硬化も重くなるのも禁止な」


 等と会話していると、向こうの方からビュンビュンと弓矢や魔法の遠距離攻撃が飛んで来た。普通に会話する二人の近くにドコンドコン命中する。


「んじゃ行ってくるわっ!」

「あっ待って下さいよ」


 セレネは砂緒を無視して素早く走って行った。

 シュバッババッ


「うわっ」

「なんだ? 何者だ!?」


 敵軍の騎兵や重装歩兵の間を一本の線の様な黒い影が駆け抜けて行く。セレネは歩兵の中の硬い前衛を無視して駆け抜け、真っ先に後ろから展開して遠距離攻撃魔法を撃ち続ける、魔導士に狙いを定めた。


「うわっ、うわああああ」

「きゃーーーー!!」


 味方に守られていると思い込んでいる魔導士達の前に、突然剣を持ったセレネが現れる。


「情け無用!! 御免っ!!!」


 セレネは一言呟くと、剣で次々に魔導士を切り裂き始めた。もともと近距離攻撃に弱い連中なので、あっさりとバッサバッサと切られて行く。


「きゃーーーっ、お願い助けて!!」


 恐怖に戦き、弩を放り出し腰を抜かして後退りする、魔導士護衛の若い女性弓兵が居た。


「チッ」

「あうっっ」


 セレネまでフルエレに影響されたのか、同性のよしみで剣の柄頭で気絶させると、次のターゲットに移った。後衛の魔導士や弓隊や魔銃隊が攻撃されている事に気付いて、前衛の騎兵や重装歩兵が慌てて引き返す。


「おや、魔法攻撃が止んで、前衛のみなさんが引き返して行きますね……うーむ、セレネが後ろで一人で頑張ってくれてるのでしょう……ではこちらは後退する部隊を、後ろから卑怯に攻撃しましょうか!」


 砂緒は剣を二本抜くと、わぁーと叫びながら走って行く。何しろ相手はセレネ一人なので、数十人で取り囲んで戦っても、残りの人々はただじっと渋滞を待つだけの状態だった。


「くそっ何が起こっているんだ??」

「よく見えない」


 セレネと戦う為に渋滞している部隊に程なく辿り着く砂緒。砂緒は躊躇無く背中を向ける重装歩兵の頭に向けて剣を振り下ろす。

 カチーーン!!

砂緒の持っていた剣はあっさり折れて飛んで行く。


「やっぱ硬化しないと無理でしょ!」

 

 砂緒は硬化すると、敵兵の鎧や馬をガンガン殴り倒して行く。


「はぁああああああ、ブリザード!! スノーストーム!!!」

「ぎゃーーーーーー!!!」


 一人一人剣で倒すのがめんどくさくなって来たセレネが魔法を唱えると、一気に数十人くらい氷と雪が混じった竜巻に吹っ飛ばされる。


「す、凄い……本当に一人で八百人くらい倒せそうだ……」

「警戒しろ! 後ろからも敵が来たぞ!」


 ようやく砂緒のちまちました攻撃も気付いて貰えた。


「うわー向かって来た、ま、何人来ても死ぬ事は無いんですが」


 久しぶりに全身シュワシュワと真っ白い大理石の色に硬化すると、走りながら徐々に重くなって加速度を付け、勢いで向かって来る騎兵や重装歩兵を次々に殴り倒して行く。巨像の基部を破壊した必殺の拳や、手から出る雷を使えば砂緒もセレネ並みに敵兵を瞬殺出来るのだが、何故か砂緒は逃げれる余地を残してやりながら戦う事にした……



「結構減って来たなー、もう三分の二は倒したか?」


 セレネは全く疲れる様子も無く、ザシュッザシュッッとまだまだ余裕で次々に敵を倒して行く。


「おおおーい! セレネ、見えましたよ!」

「よお砂緒! 再会だな!」


 前と後ろから戦う砂緒とセレネが、敵を挟んで再会して能天気に挨拶する。


「部隊長、魔ローダーの乗員、やはり飛んでもなく異常に強いです。どうされますか?」

「このままでは全滅です!」


 三分の二が倒されているのだから、普通はもう既に全滅と言えた。中には逃走を始めている者も居た。


「よし、撤退!! 敵と戦わず、すり抜けて逃げろ!!」


 部隊長の命令を聞いて、周囲から一斉に逃亡を始める残存部隊。総崩れが始まった。


「あ、逃げ出しました!!」

「あ、卑怯だぞコラ!!」

「もう良いでしょう、しばらくは戻って来ないでしょう!! 城に向かった潜入部隊を追撃しましょう」

「んだな」


 バシュッ!!


「うぐっ」

「セレネ!!」

 

 突然飛んで来た矢がセレネの足に突き刺さった。セレネが飛んで来た方を見ると、確かに最初に気絶させた女性弓兵だった……セレネは驚愕したが、直ぐに意識が遠のいて行く。しびれ薬か何かが塗ってあった様だ。


「この屈辱忘れん、この女貰い受けるっ!!」


 ガクッとその場に崩れ落ちそうになったセレネを、撤退中の騎兵がガッと掴んで連れ去った。


「セレネーーーーーッ!!」


 砂緒は硬くなったり重くなったりは出来るが、重くなって加速しても超スピードが出る訳では無い為、全力で逃げるだけの騎兵を追いかけて捕まえる事は出来ない。雷を出そうかと思ったが、セレネまで被害が及ぶ可能性があった為諦めた。


「どうすれば!? どうすれば良いんだ??」

 

 どうする事も思い付かず、砂緒は焦燥した。美しい娘であるセレネが敵兵からどの様な目に遭うか……考えただけで気が遠くになりそうだった。

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