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敵が攻めて来てしまった……

 二人はその後街を案内されたり綺麗なお庭を案内されたりして過ごし、夜になると晩餐会にも招待された。その場では天下の情勢だとか深刻な話はなるべく避け、個人的な出来事や趣味の話など当たり障りの無い会話を続けた。


「しかしここの海産物はとても美味しいですな。全てここの海とか湾で採れた物ですか?」

「ええ、そうなのよ、若い女性が素潜りで雲丹とかアワビとか大型の海老とか獲ったりするのよ」

「おお……若い女性が……」

「おいおい変な事言うなよ、サラッと流せよ」

「やはり、その素潜りの若い女性というのは裸……なのでしょうか?」

「ええ、そうよ全裸で獲るの」


 お后さまがさらっと答えた。


「え、本当ですか? 害獣に襲われたり胸を噛まれたりしないのですか?」

「なんで胸限定なんだよ……」

「ええ、害獣を避ける為のまじないの入れ墨が流行した事もあったわ……」

「ほほう? 入れ墨ですか……」

「私も若い頃は、全裸素潜りをよくした物よ……入れ墨はしていないのだけれど、うふふ」

「何と……奥様も全裸で……それは堪りませんな」

「まあっ恥ずかしいわ」

「ははははは、先程から儂の存在を忘れておるな」


 等と和やかに会話は続き、夕食会は終わりとなった。


「これ……夜宵と依世の似顔絵を必死に描いてみたの……こんな子達が居たら声を掛けてみて欲しいのよ」

「おお……こ、これは!?」

「え、どんなん?」

「あ、後で後で見せますから」


 砂緒はお后様が必死で描いたという似顔絵を見て冷や汗を掻いた。そして二人はそれぞれ自分に与えられた部屋に戻ると、砂緒はしばらく時間を置いてからセレネの部屋を訪ねた。

 コンコン


「はい、いらっしゃいどうぞ」


 セレネは既にお風呂に入った後なのか、可愛らしい女の子らしいパジャマに着替えていた。


「先程お后様が渡してくれた似顔絵なのですが……見ます?」

「当たり前だろう……」


 セレネはどさっとベッドにうつ伏せに寝転がると、肘を着いて頬杖をして砂緒が広げた似顔絵の紙を見た。


「こ、これは!? ……訳がわからん……ていうかお后様ってば、絵がちょっと……下手?」

「でしょう……私も最初見た時に、一瞬ゐゝてふの絵かと思いましたよ」

「なんだよ、いいてふって」


 セレネは引き続きベッドにうつ伏せに寝転び、頬杖を着いて似顔絵を見ながら、すらっとした足をパタパタさせた。同じベッドに斜めに腰を掛けた砂緒は、お風呂上りで少し湿ったセレネの美しく長い艶々の髪が、肩から華奢な腰にかけてふわさと広がる様子を見てどきっとした。足をぱたぱたさせる度に、パジャマの中で小さなお尻が揺れている。乱暴な所もあるが、外見だけはセレネもフルエレに負けないくらいの美少女なのだから、本来なら凄くどきどきする場面だった。


「これでは全く参考になりません。お后さまにもっと特徴を聞き出そうかと思いましたが、失礼かとも思いまして」

「まあ本来の私らの役割でも無いし、この事は心の内に収めておこう」

「ですねー、確か猫呼もフルエレもセレネ自身も家出みたいな物なので、私達の周辺家出娘だらけですねえ」

「いや、あたしは家出じゃないし」

「………………」

「どうしたどうした? 急に黙り込んで」

「と、いう感じでそろそろ私は部屋に戻ろうと思います」

「なんだよ、別にもう少し居てもいいじゃん」


 セレネは砂緒の服を掴んだ。


「またこのパターンですか? もう今夜は自室もある事ですし戻りますから」

「お前……急に私の事を避けまくるの、出発する前にフルエレさんに釘を刺されたのを忠実に守ってるんだろ? 手を出すなよって言われた事」


 セレネは唐突に出発前の事を言い出した。


「ち、違いますよ……そ、そんな事言われるまで、今の今まで忘れてました」

「あからさまにうろたえてるじゃん、どうしてそこまで忠実に、機械みたいに言い付けを守るんだよ? 好きだから?」

「……最近では自分でも良く分かりません、テヘー」

「だったらもういいじゃん、自由に生きたら」


 セレネに自由に生きたらと言われて、えっ私って自由では無かったの? と改めて考えてみると、もしかしたらフルエレに最初に出会ってから、何か知らない物に縛られていた様な気がして来た。


「最初は私の方からちょっかいを出したのに、最近は私の事を真剣に考えてくれてて、凄く可愛いセレネにそこまで言われて、本当に嬉しいです、男冥利に尽きます……」

「砂緒……」

「と、いう訳で部屋に戻りますね、じゃあ失敬!」


 砂緒は久しぶりにピッと手刀を切った。


「おーい、全然変わってないだろうがあ!?」

「いや、本当にいいんで、帰ります」

「なんでだ? うりゃ、地獄車っっ!!」


 砂緒は両腕を掴まれると、軽々とベッドに投げ飛ばされる。


「……なんだかそこまで嫌がられると、あたしも変な趣味に目覚めて来た。襲っちゃおうかな」


 仰向けにベッドに寝ころがされた砂緒の上に、素早く四つん這いで乗っかるセレネ。長い髪がだらりと肩から流れ、砂緒の顔の横に掛かる。シャンプーしたての良い香りがした。ふと視線を下げると、パジャマのボタンの一つ外れた胸元から、四つん這いのポーズで強調された白い胸の膨らみがちらりと見えていて思わず視線を逸らす。普段は喧嘩友達の様なセレネのあからさまに女性的な部分が次々に強調されている。


「なんで視線逸らしたの? 砂緒の好きなおっぱいじゃん」

「なんの事やら分かりません。とにかく前みたいな事になりたく無いのでどいて下さい」

「眼球の動きで分かるからな。もっと見ればいいじゃん」


 言われて意識し過ぎて砂緒の眼球が、非常にストレスがかかった様に不自然な、あらぬ方向を見始める。


「ほ、ほんとにいい加減にしないと、いくら理性的で紳士的な私ですら、決壊して襲いかかりますよ」

「ふーん、だったらもっとやっちゃお」


 セレネはそう言うと、前にやられた仕返しの様に、砂緒の両手首を抑え付けると、妖しい顔でにっこりと笑い、ゆっくりと唇を近付けようとして来た。


「はわはわわ、やめやめ、止めて下さい」


 砂緒は顔を背けて必死に防ごうとする。


「うふふふふふ、なんか可愛い気がして来た」


 バタンッ!!

その時、突然ドアが開き、同じ体勢のまま二人はドアの方を向くと、口に手を当てたお后さまが固まって見ていた。


「あらあらあら、まあまあまあ、最近の若い方は……まあまあまあ、ごめんなさいね」


 バタンとそのままドアは閉められた。

光の速さで反応し、ドアを開けてお后様を呼び止めるセレネ。


「ち、違うんです! 今のは全然違うんです!! フィットネスなんです、それよりも一体今頃何用でしょうか?」

「良いのよ、二人の御用事を済ませてからでも……終わってからお知らせするわ。どのくらいの時間が必要なの?」


 お后さまが赤面しながら聞いてくる。


「お后さま誤解です! それよりもご用件を早くお知らせください」

「そう? 後でも良かったのだけど。それがね、結界が消えちゃった事でやっぱり敵が攻めて来て。砂緒さんが仰ってたメドース・リガリァかしら? 困ったわねえ。でももう王様と降伏しちゃおうかって相談してた所なのよ」


 お后さまはご近所の噂話でもする主婦かの様に、頬に片手を当てて言った。


「それ、凄く急がなきゃいけない話でしょう! それにいきなり降伏って何ですか?? 今すぐ王様の所に行きます!」

「セレネの言う通りです。早まった真似はしないで下さい」


 砂緒とセレネは急いで王様の元へ走った。



 玉座の間。王様と重臣達が会議を開いている。


「おお、砂緒殿とセレネ殿ではないか、儂らは早速降伏するので、お主らは早く脱出して下され!」

「ちょっと待って下さい、どうしていきなりそうなるのですか??」

「どうしてと言われてもな。物見の報告によれば夜陰に乗じて、魔戦車が二十両程、ゴーレムが百体、それに騎兵隊や魔導士など混成の兵隊が千人程も攻めて来たようじゃ。残念だが儂らの国はずっと結界頼りだった故、そんな大軍に抗う力は無い。だから降伏するしか民を守る手立てが無いのだよ」

「でも降伏するだけで許してくれるかしら? どうせなら夫婦で自害しませんこと?」

「おお、それが良いな」

「そう思って綺麗な短剣を二本用意しておいたの、これでお互いを……」

「用意良すぎでしょう!!」


 お后さまは美しい銀色の短剣を王様に渡した。


「いや、やはり痛いのは嫌じゃ、そうじゃ昔暗殺に良く使っていた毒薬があるであろう? あれなら苦しまずにあの世に行けるわい」

「ええ、そうね、それがいいわ!!」

「なるべく美しい瓶の物を選ぶのじゃぞ」


 王様に言われて早速お后さまが、買い物にでも行く様に毒薬を取りに行こうとする。


「ちょっと待って下さい! いい加減貴方達は何なのですか? いきなり民の為に降伏して自害する等と、放り出された民はそれこそ良い迷惑です! 貴方達の様な立派な王様がどうしてそんないい加減な事を平気で言うのですか? それに失踪した貴方達の娘さんが帰って来る国が無くなって良いのですか? もし貴方達が亡くなったらどれ程の人達が悲しむと思ってるんですか! たとえ冗談でも簡単に自害等と仰る事は、私が許しませんから!」


 セレネは目に涙を貯めて、突然長文で王様とお后さまに説得を始めた。しかし砂緒も気持ちは全く同じだった。セレネが瀕死になった時の引き裂かれる様な気持ちが蘇っていた。


「そうじゃな……済まぬ。謝罪しようぞ。しかし……我々には本当に戦う力が無いのじゃ。こういう時の為の真実の鏡の力、強い力を持つ姉妹、その両方が今国には無いのだよ」

「ありがとうね……優しいのね、でも勝つ見込みが無ければ降伏するしか……」


 説得にも関わらず、自害はともかく降伏の意志は固いようだ。砂緒が口を開いた。


「王様お后さま、信じられないかもしれませんが、先程の報告程度の戦力なら我々二人と魔ローダー蛇輪で秒で倒せます。というか、もっと大軍を倒した事もあります。我々を信じてどうか安易に降伏を言うのはお止め下さい」

「秒で?」

「秒で」


 王様とお后さまはいまいち信用していない様だが、確かに今の砂緒とセレネはそれ程の実力があった。


「ではセレネさんや、とりあえず秒で敵を倒しておやりなさい」

「お前も来いって。行くぞ!」


 二人は心配する王様とお后様を後にして、魔ローダー蛇輪の元に走った。

挿絵(By みてみん)

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