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海と山とに挟まれた小さき王国へ……

 次の日。


「どうした? えらい爽やかな顔してるな?」

「え、そ、そうですか……至って普通だと思います」


 セレネに与えられた寝室に迎えに来た砂緒に、セレネは美魅ィ王女から聞いた海と山とに挟まれた小さき王国の事を話した。


「ほほうそれは面白そうですね、是非とも私も行ってみたい物です」

「よし、ここに長居してても意味が無いな、さっさと出発しようか」


 二人はすぐさま部屋を出て、美魅ィ王女に別れの挨拶をした。


「ええ、もう行ってしまわれるのですか!? もう少しいらっしゃれば良いですのに……」

「ああ、私達も出来ればここに長く居たいのですが、何分役割があって致し方無いのですよ、是非またお招きして下さい。そして私の国にもおいで下さい」


 セレネは心にも無い事をスラスラと言えるようになった。


「そうですかー、とても残念ですわ」


 美魅ィ王女はセレネの手をしっかりと握って目を見つめた。その奥では侍女璃凪が砂緒に向けて、可愛く少し舌を出してウインクをした。璃凪はただ遊びたかっただけで、別に砂緒をハメる訳でも何でも無く、当然誰にも言っていなかったが、砂緒はどきどきして冷や汗を掻いた。


「はい、こちらも。ん? 砂緒、どうした、何かあったのか??」

「い、いいえー、別に何も無いですよ、昨日はぐっすり眠りました」

「へェー」


 二人は城の皆に別れを告げ、早速魔ローダー蛇輪で鳥型に変形し飛び立った。早速砂緒が勝手にセレネの操縦席に入って来る。


「よ、エセエロ男爵の根性無しさん、昨日はよく寝たか?」

「はい、凄く良く眠れましたよ。ぐっすり完全に眠れました、完全に熟睡で完熟です」

「どうした? えらい熟睡を強調するな。所でこれから行くルートだが、このままユッマランド南を真西に進むと、セブンリーフ大陸の中心にある大火山ファイアバードを横切る」


 セレネは蛇輪の複座の上の自分の操縦席にやって来た砂緒に、今後のルートを説明してやった。月まで飛んで行った蛇輪の事だから、本気を出せばどこにでも一瞬で飛べるのだが、魔力が無尽蔵な雪乃フルエレと違い、普通の者よりはるかに強いが、やはりそれでも限界のあるセレネの疲労を考慮して、どこへ行くにもなるべく陸伝いに低速で飛ぶ事にしている。


「ほほう、大火山ファイアバードですか? 何か近〇日本鉄道の特急的な感じがしますが、凄い火山なんでしょうね」

「大火山ファイアバード近辺からがまおう軍のテリトリーだからな、かなり気を付けて飛ばないと。海と山とに挟まれた小さき王国はそこの際にあるらしい」

「微妙な場所にあるんですねえ……」


 蛇輪が飛び続けると、もくもくと巨大な煙を吐き続ける巨大な火山が遠くに見えた。


「ほほう、あれがファイアバードですか」

「ああ、だからまおう軍の地域は炎の国と言われている」

「暑そうで嫌ですね」

「実際暑いらしい」


 そのまま蛇輪が飛び続けると西側の海が見え始めた。


「多分あれだな、まおう軍の森のぎり北に位置する海に面する小王国……」


 セレネが地図を見ながら言った。


「ほんとですねえ、大きな川があって風光明媚な所そうです、さっそく突っ込みましょう」

「よーし来た! ユッマランドでは街に降りてえらい騒ぎになったから、城に直接乗り込んでやろうぜ! くへへ」


 砂緒のダメな面をどんどん吸収してしまうセレネ。蛇輪を加速させ、接近した小さき王国の範囲に突入しようとする。

 バーーーーーーーーン!!!


「ぎゃーーーーーーー!?」

「何事ですか!?」


 突然見えない壁に阻まれ、というか激突して急降下する蛇輪。すぐに体勢を立て直すセレネ。

 

「降りるわ」

「はい」


 体勢を立て直し、姿勢を制御すると地上に接近して、着陸直前に人型に戻ってズザザっと滑りながら着地する。操縦技術は明らかにフルエレよりも上だった。フルエレとセレネが同時に乗れば誰も敵わない最強状態になってしまうだろう。

 バーーーンバーーーーーン

巨大な手で相撲の張り手の様に、見えないバリアを押してみる蛇輪。その度に巨大なタライを響かせる様な変な音が鳴り響く。


「強力な結界だな……どうしようか……これ以上進めんぞ」

「結界ですか……前にセレネが渡してくれた結界くんNEOみたいなやつでしょうか」

「結界くんNEOなあ……そうだ砂緒、お前手から雷が出るヤツを蛇輪で放出出来るんだな?」

「ええ、不思議なんですが、この蛇輪は能力を吸ったり、私の能力を何倍にもして放出したり出来るんです」


 セレネはしばし考えた。


「うーむ、だったらあたしの結界突破魔法も拡大して放出してくれるかな? やってみよう」


 セレネは操縦桿を握り直して呪文を詠唱し始めた。


「イントルージョン!!」


 最後にセレネが叫ぶと、外では蛇輪が両掌を見えない結界に当てていたが、何かが光り輝くと、結界らしき物がシャボン玉が弾ける寸前の様に、ぱーーっと不思議な文様を描いて消えて行った。


「やば、ただくぐり抜けたいだけだったのに、結界全部消えたみたいな気がする」

「迷惑行為ですかね? いいんじゃないですか別に」

「ま、いいか、行こか?」

「ええ」


 結界が消えた事で蛇輪は走り出してジャンプすると、そのまま空中で鳥型に変形し、城を取り囲む小さな街を飛び越して、いきなり城の中庭に降り立った。城を護る兵達も中にいる家臣達も全く気付いていない。ごく少数の見張りの兵達が気付いただけだが、最初あっけにとられて動けずにいた。慌てて数名が報告に走る。


「すいません、決して怪しい者ではありません。私はユティトレッド魔導王国王女のセレネと申す者。今天下の情勢を調査する為に旅をしております。お騒がせして申し訳ありません、王様に取り次いで頂きたい」


 セレネはハッチを開けると、文字通り上から目線でいきなり魔法マイクの大音量で叫んだ。十分怪しいし失礼な行為だが、小国だと舐め切っていたのでこんな事をしてしまった。普通だったらいきなり攻撃されても仕方が無いだろう。当然警備兵たちがぐるりと取り囲んだ。


「結局刺激してしまいましたかね」

「いいんじゃないの~~」


 セレネは応答が来るまで座席に背伸びして座り込んだ。


「ん? 何だろ」


 しばらくして取り囲む兵達がざわつき始めた。


「王様御妃さま、危険ですお止め下さい!!」

「何者か分かりません、お下がりください!!」


 兵達が口々に騒ぐが、その取り囲む兵達を掻き分ける様に、立派な身なりの王様とお后さまと思しき二人が出て来た。てっきり家来が出て来て取り次いでくれる物と思っていたセレネは驚く。


「おお、そなたが大国ユティトレッド魔導王国の王女さまか? 是非ともお話したい、こっちに来て下さらんか」


 王様は自ら大声で呼びかけた。威嚇したり尊大な部分は全く無く、恐怖を感じてる風でも無くまさに泰然自若という感じだった。つまらない小者が出て来るとばかり思っていたセレネは、相手国の王様がいきなりお出ましして、お声がけまでしてもらって、自分達が酷く失礼な事を恥じた。


「失礼致しました」

「わっ!!」


 セレネは恐ろしい脚力で、操縦席からピョンピョンとあちこちの装甲を伝い飛び降り、王様の前で膝を着いて頭を深々と下げた。

 ズシャ

硬化した砂緒もそれに続いて頭を下げた。


「おお、頭を上げて下され。この国は訪れる者も少ない。大都会からお客人が来るなど珍しい事、是非とも歓迎したい」

「そうですわ、美しい若い女性の方なんてとても嬉しいの。にしてもよく結界を突破して入れましたわね」


 王様に続いてお后さまらしき上品な女性が話し掛ける。年齢にも関わらず高貴で美しい女性だった。


「……申し訳ありません、よく分らずこの魔ローダーの能力で突破した時に破壊してしまいました」

「まあっ」


 お后さまは両手を頬に当てた。


「まあ良いではないか、一週間もあれば結界も復活する。大して事ではないぞ、気にせんで下され」


 王様もお后さまもとても優しくておっとりした雰囲気だった。セレネはこうした人々にいきなり舐めた態度で不法入国してしまった事を激しく恥じた。最初から正式に入国の手続きをすれば簡単に入れてもらえたかもしれないと後悔した。


「皆の者、このお二人はこれよりは大切なお客人、決して失礼の無い様に丁重に接する様に。それとそこのぴかぴかの魔ローダーにも、誰にも指一本触れさせぬように警備を厳重にな」

「何から何までお気遣いありがとうございます。私どもの無礼な入国の仕業、重ねて謝罪申し上げます」


 セレネは何度も深々と頭を下げた。


「いやいや気になさらんで、ささ、中に入られよ」


 いわゆる悪者が相手を油断させる為の演技などでは無く、本当に王様は気さくで良い人に見え、二人を上機嫌で城の中に招き入れた。セレネとしては逆に不用心過ぎる程にお人好しではないかと要らぬ心配までした。

挿絵(By みてみん)

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