プロローグ III白雪 後
夜宵は旅の準備をして、しばらく住んだ個室に別れを告げ、売り物の荷物を持ち一路リュフミュランに向かった。
「この森を抜けて行くのね……信じるしか無い……」
『ええ、確実に貴方を救います……』
夜宵は半分になってしまった真実の鏡を抱え、どんどん森の奥に進んで行く。何か不思議な力に守られていると信じ、普段は気弱な夜宵だが全く恐怖心は無かった。
『ここで……また一旦お別れです……』
「え? どういう事??」
『ここで私は再び過去に飛びます。そしてもう戻る事はありません』
「え? どうして??」
『それはここで、貴方を守る為だけの絶対に死なないナイトが現れ、貴方をお迎えにあがりますので……』
「わたしをまもるための、ぜったいにしなない、ないとがあらわれる??」
そんな素敵な事が私に起こって良いのかしら?? と夜宵は胸がときめいた。
『最後に此処で……もう一度その素敵なドレス姿を良く見せて下さい……』
「良いわ……どうかしら?」
旅に出発する時に着替えた白いドレス姿を、鏡に良く見せてあげた。
『……御名残惜しいですが、では!』
シュッ
鏡は姿を消した。
「ふぅ……私を守る為のナイトが……」
夜宵は目を閉じ、どきどきしながら待った。
「どきどき……」
待った。ひたすら待った。
「え……」
現れなかった。
「……やっぱり……そうなのね……」
夜宵は突然泣き出した。
「うっうっ……疲労と悩みで心を病み……鏡が話すという幻覚にさいなまれ……こんな姿で森をうろうろして……気が付けば国宝の大切な鏡まで失う……そうなのね……私どこまで馬鹿なの」
夜宵は呆然としたまま背中に袋を背負い歩き出した。
「見ろ! こんな森の中に女がいやがる! しかもすげえ上玉だぜ!!」
「捕まえろ!!」
(しまった! 一番ダメな人達に見つかった!!)
盗賊か何かに見つかったと思った夜宵は泣きながら走って逃げた。
―そしてニナルティナ軍の兵士に掴まった夜宵の前に少年は現れた。
(え、目付き悪い……全裸……変態……なにこれ……これ???)
夜宵の頭がくらくらした。
(………………思ってたのと違う!!!)
「では私はこの辺で失敬」
全裸の少年は片手を上げ、夜宵を無視して立ち去ろうとする。
(アッ通り過ぎよる……マジデッ!?)
「ちょっと待って下さい! 助けて」
(え? この子?? 違うわよね!? 思ってたのと違う!!!!!)
しかし男達をあっさり倒してしまった少年を見て夜宵は思った、この子に賭けよう、今はこの子に向き合うしか無い、少し無理をしてでも!!! と。
「ハッ!!」
ガシャンガシャンと複雑な音を立てて山道を下って歩く魔ローダー、日蝕白蛇輪の操縦席で、はっと雪乃フルエレが目を覚ました。目には涙の跡があった。
「あれ、ここ何処だっけ?」
「フルエレ、何を寝ぼけてるんですか? ニナルティナ港湾都市の新居に行く途中でしょう、ていうか寝てたんですか。フルエレはどんだけ寝てる子なんですか」
「ごめんごめん、何だか昔の夢を見てたみたいなの……」
「昔の事ですか? あー私昔の事に全く興味無いのです。今フルエレとこうして一緒にいれれば。ぐふふ」
「そうね……嬉しいわ……」
突然ガラガラッと下の操縦席からのシャッターが開く。慎重にゆっくりと猫呼が目だけ見える範囲で頭を入れ、二人を凝視する。
「……変な事してないわよね? 大丈夫よイェラ」
等と言いながら猫呼とイェラが上の操縦席に入って来る。ほぼ満員になった。
「狭いですけど」
「ええ、本当」
「良いじゃないの、もう少しで着くのでしょう? 記念よ」
「早く着いてお風呂に入りたいぞ……」
「私達の新しい新居、立派で綺麗でハイソな所なんでしょうね? もし粗末な所ならイェラと一緒に、あのセレネとか言う眼鏡の子をとっちめてやるわよっ!」
「猫呼、私まで巻き込むな……私は屋根があれば良いのだが」
静かだった操縦席が急にごちゃごちゃして来た。
「……今の所は大丈夫みたいよ……」
フルエレは突然一人でぼそっと言って、遠くを見て笑顔になった。
「どーしたのですか? 何か言いましたか?」
「ううん何でも無いの」
フルエレが首を振って魔法モニターを見ると、ニナルティナ港湾都市がはっきりと見えた。
最初から読んでもらう方への印象を考えて、いろいろ考えた挙句、プロローグI II IIIを一まとめにして後半位置に移動する事にしてみました。その結果、エピローグの直後にプロローグが位置するという奇妙な事になってしまいましたが、しばらくこの位置で行こうと思います。今後も読んで頂けると幸いです。
2023 3 15
再び分割しましたすいません……
 




