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エピローグII セブンリーフのモザイク模様 3


 ―新女王就任、記念スピーチ会場。


「フルエレくん、落ち着いて、君なら出来るから」

「は、はい有難うございます!」


 アルベルトが軽くフルエレの手を握りながら励ました。


「何をしているブラジル? 貴様はセレネ殺しの下手人ではないか、軽々しく口をきくで無いわ!」


 砂緒がアルベルトの手を払いのける。砂緒が言っているのは、サッワからの魔戦車の砲撃を防ぐ為にセレネが瀕死の重傷を負ったのは、そもそも魔戦車の管理を怠ったアルベルトの責任である、という理屈らしい。


「こらこら勝手に殺すな! 私はこうしてピンピンしておるぞ、アルベルトさんすいません、あの人頭がおかしいんです、相手にしないで下さい」

「いや……砂緒君の言う事は一理ある。僕が魔戦車を空けたばかりに君を酷い目に……本当に済まない」


 アルベルトは誠実に頭を下げた。


「いいんです!!」

「いいの!!」


 セレネとフルエレが同時に言った。


「……しかしどうしてセレネはあれ以来、抱き着いてきてキスをしてくれないのでしょうか? 私はいつでもスタンバイOKなのですが」

「……気が動転してた時の事を何時までも……今度言ったらマジで眼球を突くからな!」


 セレネが剣を抜き、砂緒の眼球一Nミリ前でプルプルして制止する。


「OKOK! 眼球を突かないで下さい、もう言いませんから」


 そうこうしている内にスピーチの時間となった。



「あーーー俺、偉大なる新ニナルティナ公レナード様が女王とお呼びするたった一人の偉大な方、雪乃フルエレ様からお言葉がある。皆も心して聞く様に」


 有未レナードが仰々しく雪乃フルエレを招いた。いつぞやフルエレやセレネ達が迷い込んだ、大きな池がある離宮公園の特設会場の、魔法マイクが多数立つ壇上に雪乃フルエレが現れた。


「わ……こほん、私が、この度、同盟の……女王を……拝命した……ゆ、雪乃フルエ……です」


 緊張でフルエレの声はめっちゃ震えていた。


『どうしたんだ、声が小さいぞ……』

『美しい声だが何を言っているかわからない……』


 スピーチが続くが人々がざわざわする。


『フルエレさん頑張って!!』


 小さな幼女の声が響いた。声質から梅狐の声だとフルエレは思った。会場はシーンとなった。


「……今セブンリーフ大陸中部ではメドース・リガリァが各地に侵略を行っています。これに対してすぐさま出兵、干渉するべきという声が重臣からも上がっています」

「ああ、フルエレさんが予定に無い事を言いだしたぞ」


 セレネが警戒した。


「私も当然侵略を行うメドース・リガリァを許す訳には行かないと思っています。しかし今は我が国は壊れた港湾都市の再建、何よりもまずは再建を進めるべきだと思っています! 住む家を無くした人に新たな家を与え、親を失った孤児たちに新たな居場所を与える、この事を同盟各国に伝え、わが同盟からの率先した戦争への干渉については一定期間禁止すると宣言します!!」


 スピーチの予定では、この場で同盟各国全軍を上げてメドース・リガリァの非道を討つという事を高らかに宣言するはずだったが、フルエレは勝手に真逆の事を言った。


「やられた……勝手な事を……侵略を放置して良いのか!!」


 セレネは苦虫を噛み潰した様な顔をしてフルエレを睨んだ。しかし群衆はそのフルエレの言葉を大歓声で迎えた。


『おおお!! フルエレ様万歳!!』

『中部の事なんか知ったこっちゃないわ!!』

『どうせ田舎の事でしょ?? 新ニナルティナは盤石よ!!』


「おお、凄い大歓声ですなあ、しかし家出中で行商人見習いと口走っていたフルエレが、なんだか良く分からない間に同盟の女王に……行商人の見習いはどうするんでしょう?」


 砂緒が演壇の後ろから人々の歓声を覗き見て言った。



 全ての予定が終わった。


「ふぅ~~~~やっと帰れるわね! やれやれだわ」

「ちょっとフルエレさん! あのスピーチは何ですか? 全く予定と逆の事を言いましたよね?」

「えーだって私女王様なのよね? 何で貴方に忖度しなきゃいけないのかしら??」

「何ですって?? 侵略を放置してむしろ戦禍が拡大すると私は言っているのです!!」

「まーまーー、私を取りあうのはおよしなさいって言いましたよね」


 また砂緒が二人に割って入った。


「誰もそんな事言ってねーわ!?」


 今度はセレネは砂緒に食ってかかる。


「それにしても帰りの魔輪、どの様な席順で乗りますか? フルエレが運転するとして、私がフルエレの腰を掴んでタンデムするのか、それともサイドカーに私が乗っかり、膝の上にセレネを乗せてガッチリとホールドするか、どちらが興奮、いや、安定するでしょうか……」


 砂緒が顎に手を当てて真剣に考えている。猫呼とイェラはレナードにプレゼントされたリムジンタイプ魔車で既に帰ってしまっていた。


「何を言っているのよ? 乗るとすれば私とセレネがタンデムして、砂緒がサイドカーに一人で乗るに決まっているでしょ! セレネもそれで良いわよね?」

「は、はい……それで良いですけど」

「そうですか……ではセレネ、膝の上に乗って下さい」

「話聞いてるか? 眼球突かれたいか??」


 そうして三人は魔輪に乗り込んだ。フルエレはなんとパレードの衣装のまま、魔輪でビルに帰って行く。


『ちょっとアレ見て! さっきのパレードの女王様が魔輪に乗っているわ!?』

『そんな訳ないだろうが! ……あれ本当だな、パレードの来た道を逆走してるぞ?』

『目の錯覚よ! それでなければ影武者だわ!!』


 パレードの後、女王が魔輪に乗って爆走していた……そんな都市伝説が生まれた。



 数日後、喫茶猫呼。


「お、お嬢ちゃんかわいいね、ていうか名前が雪乃フルエレって言うのかい??」

「それじゃあ新女王様と同じ名前じゃないかい??」

「ええ、凄く良く言われるんです」


 フルエレは目を細めて遠い目をして言った。

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