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砂緒とフルエレ、魔ローダー日蝕白蛇輪、黄金の翼の祈り 上

 回復魔導士が脈や呼吸を調べる。まだセレネの生命は微かにあったが終末は近付きつつあった。


「どうすればいいの……どうしてこんな事になったの……」


 フルエレが呟くが誰も何も言わない。七華は深刻な事態だが、初対面の相手でもあって、どう対応して良いか分からず、遠くで黙ったまま見ていた。フルエレに優しく声を掛けようかとも思ったが、自分自身でらしく無いと思い、黙ったままだった。その間も砂緒はセレネの手を握りながら泣きじゃくっていた。


(あんなに砂緒が泣いて……一体どういう関係の娘なのだろう?)


 顔に文字が書いている様に分かり易い時と、何を考えているのか分からない表情に乏しい時と落差が激しいな……なんて事を考えながら推移を見ていた。自分自身で冷たい女だなと思った。


「セレネ……」


 ピーーー

砂緒が何か言いかけたと同時だった、メランの乗る速き稲妻Ⅱの特殊スキル回復(弱)の再始動ブザーが鳴った。


「あ、あの……回復(弱)可スタンバイですが……どうすればいいの?」


 メランが操縦席から遠慮がちに聞く。セレネを診ている回復魔導士数人が、無言で小さく首を振った。


「待って下さい」


 ずっとセレネの手を握り、幼児の様に泣きじゃくっていた砂緒が、涙も拭かず突然すくっと立ち上がった。


「砂緒?」


 フルエレが砂緒を見る。


「………………メラン、回復(弱)発動と同時に飛び降りて下さい」

「え?」

「瑠璃ィ、私とフルエレを大急ぎで操縦席に届けて下さい、早くっ!」

「は?」

「メラン、確実に飛び降りて下さい、後は知りませんから」


 周囲の者は何を言っているのか理解出来なかった。殆どの者は頭がおかしくなったとしか理解していなかった。


「砂緒……分かったわ……、イェラお願いメランを受け止めて! メランごめんね、言う通りにして上げて……」

「えぇ……本気なの!? フルエレさんまで?」

「よし、メラン君が落ちそうな場所に男達はマントを貼るんだ!! 落ちた場合の治療も!!」

「えぇ……」


 メランは血の気が引いた。何かの手段でセレネさんを助けるのだろうけど、私の安全も考慮してよと。


「息のある内に早くっ!!」

「よっしゃ、行くで、嬢ちゃんも行くで!!」

「きゃっ!」


 瑠璃ィは砂緒とフルエレを両脇に抱えると、造作も無くピョンピョンと装甲を伝って、二人を魔ローダー日蝕白蛇輪の操縦席に届けた。


「フルエレ、すいません……無理な事を言って。すぐに理解してくれましたね」

「砂緒と旅して結構経つもの、当然じゃない……」

「砂緒さん、何をするのか分かりませんが、セレネさんに再度回復(弱)行きます!」


 メランが魔ローダー速き稲妻Ⅱの巨大な両手でセレネを包む。


「ふーーーーー、怖いよ……飛び降りろって何よ……」


 メランは全高約二十五Nメートルの魔ローダーの、十数Nメートルの場所の腹部に位置する操縦席から下を覗く。約五階建て程の高さだった……メランは両手に風系の魔法を纏わせる。


「では、行きますよ!」


 メランの合図で蛇輪が尖った指先で手刀のポーズを決める。


「いつでもどうぞ!」


 砂緒がいつもとは別人の様な、きりっとした男らしい顔になっていた。メランは深呼吸をした。


「ふぅーーーーーー1、2、回復(弱)!!! てやっ!!!」


 シュバア!! キラキラキラ……

セレネを包む巨大な両手が真っ白に光り、セレネも真っ白に光った。

 ガシュッッ!!!


「きゃーーーー!!」


 無言で速き稲妻Ⅱの胸に手刀を打ち込む蛇輪。メランはそれこそ死ぬ気で飛び降り、瑠璃ィとイェラが恐ろしく正確に、二人で落ちて来た布団でも掴む様にしっかり受け止めた。


「何をする気なんだ!?」


 速き稲妻Ⅱの胸に巨大な手刀を打ち込んだまま、じっとしている二人の蛇輪。


「フルエレ……どうですか? 来てる感覚ありますか??」

「ごめんなさい、分からない……やってみるしか……」

「では!」


 砂緒は速き稲妻Ⅱから手刀を引き抜くと、皆に倒れない様に、肩を持って、ゆっくり後ろに寝かせた。それでもかなりの衝撃が響き、セレネの身体も揺らした。


「フルエレ、怖いです、一緒にお願いします」

「ええ、私も、一緒にやりましょう」


 操縦席で一つの座席に二人で座り、二人で操縦桿を握った。


「………………回復!!」


 シュバアアアアアア!!!! キィーーンン!!! キラキラキラ……

メランの速き稲妻Ⅱの回復(強)より何倍も激しく光る掌。

 ピーーー

さらには瞬時にスタンバイのブザーが鳴った。


「来たっ! 能力吸収成功です!」

「行くわよ!! 倒れるまでするわ!!」

「はいっ!!」


 人々が避ける中、今度は魔ローダー蛇輪の両手で優しく包む様にセレネを覆った。


「回復!!」


 シュバアアアアアア!!!! キィーーンン!!! キラキラキラ……


「回復!!」


 シュバアアアアアア!!!! キィーーンン!!! キラキラキラ……


「回復!!」


 何度も何度も吸収したばかりの特殊スキル回復を繰り返す二人の蛇輪。しかしセレネはピクリとも動かない。


「回復!!」

(治ってくれ……!!)


 砂緒とフルエレ、二人共ずっと涙を流しながら必死に回復を掛け続けた。何度も何度も激しい光がセレネを包む。砂緒は必死に回復を繰り返す間、短い間だったが、セレネと出会ってから、喫茶猫呼で一緒に過ごした日々が浮かんで離れなかった。

 キモイキモイ連呼する顔も、不機嫌な顔も、鬱モードの姿すら愛おしく思えた。


「回復!! 治れ!!」


 繰り返し繰り返し何度言ったか分からない程回復と連呼する内に、砂緒はだんだんトリップする様な感覚に囚われて行く。今が起きているのか寝ているのか分からない、フルエレの回復という叫びもだんだん遠い音の様になって来た……気を失いかけているのか? 段々と周囲が暗くなった。

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