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急上昇・急降下の二人、 そして特殊スキル瞬間移動(長)

 ギュウウウウウーーーーーーーーーン

恐ろしい加速力で急上昇する、ル・ワンを足で掴んだままの鳥型蛇輪。

 バシャッ!!

前向きに牽引されているル・ワンのハッチが開き、凄まじい量の空気が流れ込む。一瞬息が出来ないココナツヒメ。その操縦席に大きなル・ワンの掌が掴んだクレウがぽいっと放り込まれる。方向的に進行方向に向かって慣性と空気の流れが出来ているので、しゅるっと吸い込まれる様に操縦席に入り込んだクレウ。もしル・ワンが背中向きに牽引されていたら、いくらハッチに放り込もうとしても、ポロリと掌からこぼれてどこかに飛んで行って落下して死亡していただろう。

 パシュッ!!

クレウが転がり込んだ瞬間に閉じられるハッチ。凄まじい空気の流れは止み、ココナツヒメの舞い上がった長い髪がくちゃくちゃのまま落ち着く。


「あら、男前さんいらっしゃい」


 クレウの透明魔法は、操縦席に放り込まれた瞬間にショックで解けていた。ココナツヒメはまるで場末の閑古鳥が鳴いているバーのママの様な風情で、何事も無いようにクレウを招き入れた。


「今からこの機体は限界まで持ち上げられて、そこから地表に激突させられちゃうのよ、その前に瞬間移動を繰り返して、なんとか激突のショックを和らげるつもり。お分かり?」


 クレウは激しい重力がかかる中、魔法ナイフを投げる構えを見せる。


「あら? 何の為にそんな事をするの? 貴方を見捨てた仲間の為? 美しいご主人様の為だとか何だとか? 私が本気を出せば、貴方なんて一瞬で凍り付いちゃうのよ!! お客さんは大人しくしてて頂戴な……」


 クレウが魔法ナイフを構える指先を見ると、確かに凍り付く様に霜が付き始めていた。強大な魔力を感じ、あながち嘘では無いかもしれないと思った。クレウは腕を収めた。


「瞬間移動(短)!!」


 ピーーーーー!!

ココナツヒメが魔ローダーの特殊スキルを発動させた途端、瞬間移動(単)発動残り回数三回の警告ブザーが鳴った。


「セレネ! 掴んでた半透明が消えたっ!! どこですか??」

「今探してんだ!! そんな遠く無いはずだ、お前も探せバカ!!」


 掴んでいた半透明、つまりル・ワンが忽然と空中で消え、見失ってしまった鳥型蛇輪の二人。


「あそこやっ!! 三時の方向、約九百Nメートル向こう!!」


 突然気配を消していた瑠璃ィ(るりい)が叫んだ。二人が見るとキラリと光る物があった。


「砂緒、加速が切れた。急上昇は諦める! 掴んでそのまま叩き落とす!!」

「はい」


 鳥型蛇輪はビューーーンと飛んで、自由落下を始めていたル・ワンを再び足で掴むと、今度は下向きに急降下を始めた。

 ガシンッ!!

ル・ワンの操縦席では鈍い衝撃と共に、下向きに急加速している様子が魔法モニターに映し出される。


「どうやら地面に叩き付けるつもりらしいですわね、しつこいですわ~~~。地表に激突させられる寸前に、残り三回の瞬間移動(単)を連発して、落下衝撃を出来る限り逃がしますわ!! 貴方は何か適当な物にお掴まりなさい…………あ、おっぱいは禁止ですわよ」

「………………」


 言われてクレウはようやくココナツヒメが、異様なシースルーのドレスを着ている事に気付いた。そしてスタイルの大変良い美人さんである事にも。


「今の笑う所ですわよ……今の笑い逃したら、もう笑う場所はないですのよ……」

「………………了解」


 クレウは絞り出す様に応えた。正体不明の敵であるが、想像していた凶悪な男と違い、透き通る様な美人かつ、冗談なのか本気なのかよくわからない態度に困惑した。


「セレネ、相手はまだ瞬間移動を温存しているかもしれません、ギリギリまで足を離さないで下さい!!」

「オーケー!! チキンレースだな、地表ギリギリまで掴んでてやんよ!!」

「セレネ……」

「ん?」

「なんか急降下していると欲情して来ました。とても綺麗ですセレネ」

「前から頭おかしいと思ってたが」


「女敵さん、ここで瞬間移動しませんか?」


 クレウが急降下する操縦席内でぼそっと聞いた。


「駄目ですわ、中途半端な場所で使うと掴まれて再上昇されて、地表に激突した時に使う分が無くなりますわ。地表ギリギリで連発する以外無いですのよ!!」


「ギャーーーーウチはまだ二十九なんや、若い身空で死にたくないんや! もう足離して飛び立とうや!!」


 地表が近付くにつれ、瑠璃ィの足がすくんだ。


「私は地表に激突しても多分大丈夫ですが、セレネはどうなります?」

「そりゃ大変な事故死だな」

「もう良いでしょう、ここら辺で足を離して下さい」

「いや、ギリギリまで掴んで行く!!」


 砂緒はセレネを炊き付けて失敗したと思った……


 キィイイイイイイイイイイイインンン

地上の人々の耳にも再びジェット航空機の様な騒音が聞こえ出した。


「またあの音だ!! 砂緒達が帰って来たんだわ!!」

「何だか音が変だ! 真っすぐに突っ込んで来る様な音だ!!」

「あれよ! 光っているわ!!」

「ここに向かってない? 何考えてるのよ!!」


 猫呼がイェラの足元に抱き着いた。


「よし、地表すれすれ、足を離して離脱!!!」


 鳥型蛇輪は地表すれすれで、第二次大戦の急降下爆撃機の様に掴んでいたル・ワンをぱっと離した。そして地表ギリギリで急上昇してすっ飛んでく。


「ぎゃーーーーーーーーーーー!!」

「ひぃいいいいいいいい」


 フルエレ達と共に居た人々は凄まじい騒音と暴風に、地面にしゃがんだり伏せたりした。


「今よっ」

「瞬間移動(単)!」 

「瞬間移動(単)!!」

「瞬間移動(単)!!!」


 ピーーーーーー

一瞬で三回連続発動すると、ル・ワンの瞬間移動(単)の一日回数制限が尽きた警告が鳴った……直後に機体が地面にかすった。ココナツヒメは落下のベクトルを横に逃がす様に、三回連続で瞬間移動を繰り返したが、地面にこすった瞬間に凄まじいエネルギーが発生していた。まるで交通事故再現マネキンの様に手足の力無く、ゴロゴロと転がるル・ワン。


「きゃーーーーーーーーーーーーーーー!?」

「ぐおおおおおおおおおおおお」


 神殿の小島の端から直線距離2.5Nキロ程転がって、反対側の島の端っこで力なく停止した。


「つつつ……あら、おっぱいは掴んじゃだめっていいましたわよ」

「は、これは失敬」


 いわゆる少年漫画のラッキースケベ的な体勢で、席から転げ落ちたココナツヒメの身体の上に乗っかり、両胸をむんずと掴んでいたクレウは思わず謝罪して手を離した。


「困りましたわ……機体の方はイッちゃった様ですの……」


 ココナツヒメの言葉通り、ル・ワンは情けない脱力した姿のままピクリとも動かなくなっていた。


「ギャーーーーーー砂緒さんの馬鹿野郎!! 誰か巻き込んでたらどうするのよっ!!」


 メランが声を上げたが、幸運な事にと言うべきか、うじゃうじゃ発生したゴーレム達のお陰で、既に人々は港から船に逃れたか、ゴーレムにやられて死亡したか、はたまたフルエレ達に保護されていたかのどれかなので、巻き込まれて死亡した人は居なかった……


「黒い人!! 早く止めを!! ご一緒に!!」


 青いSRVがメランより一瞬早く立ち直って剣を振り上げて走り出した。


「ああ、そうね! 止めを刺す!!」


 メランの速き稲妻Ⅱも立ち上がって剣を取って走り出した。


「あら~~~困りましたわねえ……ハッチも下向きに落ちているので開きませんし」


 本当はココナツヒメには一日に二回だけ使用出来る、瞬間移動(長)という奥の手があった。ここにもそれでやって来ていた。しかし彼女はスピネルとサッワを置いて逃げる決断が出来なかった。

 ザンザンザン!!

 二機の魔ローダーが剣を振り上げて、動かないル・ワンの背中目掛けて、揃って一撃を加えようとした瞬間だった。

 ザシュッ!! ガチュッ!!


「何!?」

「何時の間に!?」


 振り下ろされた二機の剣は、ル・ワンの背中の上に滑り込む様に倒れ込んだ、片腕のデスペラード改の持った剣によって阻止されていた。


「ココナ、サッワは諦めろ! 瞬間移動(長)だっ!」


 突然スピネルが命令口調で魔法秘匿回線で叫んだ。


「な?」


 ココナツヒメは戸惑った。サッワを待っている事を見透かされた事も、スピネルが命令口調な事にも。いつもの余裕たっぷりの態度が消え、どう対応すれば良いか迷った。


「お聞きなさい。今はそれが最善かと」


 何故か自然にクレウが耳元で囁いた。


「はぁーーーーーー!! まだまだ!!」


 メランの速き稲妻Ⅱがデスペラード改ごと突き刺そうと、剣の先を下向きに握り、思い切り振り下ろした。


「瞬間移動(長)!!!」


 ココナツヒメが言った瞬間、ル・ワンとそれに重なって接触していたデスペラード改が忽然とシュッと消えた。



「何か敵が消えてもう戻ってきません!! 我々は引き続きゴーレム掃討に向かいます!!」


 メランがハッチを開けたままの速き稲妻Ⅱで歩いて来た。


「ふーーーやれやれ……勝った? 私達勝ったのよね!?」


 イェラと共に伏せていた猫呼が言うと、みんなが立ち上がった。


「濃い魔ローダーさん、ゴーレムの召喚魔法陣がどこかにありますから、それを潰して下さい!!」

「はい!! 行きましょう青い人」


 美魅ィ(みみい)がメランに向かって叫ぶと、メランは青いSRVと共に勝利の余韻に浸る間も無く、二機揃って歩いて行く。それと同時にばさっばさっと鳥型の蛇輪がゆっくりと降りて来た。

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