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中空のふわふわした存在じゃない、実体のある一女子ですから 下


「それでしたら……どうぞその役割はセレネがぴったりだと思います。この同盟はいわばセレネが準備してセレネが作り上げた様な物。私は単なる飾りです。その盟主の役割はやはりセレネにこそ当てはまると思います!」


 フルエレは、はっきりと断言した。


「違うのです。私もこの同盟は裏でユティトレッドが準備している事は理解しているの。だけど、それをそのままセレネ王女が盟主の座に就けば、それこそユティトレッドの為の同盟になってしまう。それでは旧ニナルティナ王国の横暴の再現です。だからこそ貴方を見込んでお願いしているのですわ」

「ちょっと待って下さい、私なんて家出中の行商見習いの喫茶店のウェイトレスです! とてもじゃないですが、同盟の盟主なんてありえないです、無理ですお断りするわ」


 フルエレは必死に手を振って拒否した。


「貴方さっき人間の力で魔ローダーの攻撃を防いでいたわよね? あんな力普通の女の子が持っている訳無いじゃない。それに貴方家出中……と仰っているけど、きっとどこかの、失礼だけど無名の王国の王女ですわよね?」

「……何故?」


 フルエレは警戒して俯く。


「貴方、普通ならただの町娘がこれだけの王国の要人に囲まれていれば、物怖じして平静で居られないわ。それが人々を率いる様に振舞っている、きっと小さい頃からお城で暮らした者でなければ出来ない振る舞いよ」


 実際美魅ィの言う通りだった。現代人の我々の観点で言うと、アニメやまんがの影響で町娘が王子や王に物怖じせず横柄な態度をしたりするのは普通の感覚だが、本来身分の差がきっちりしている世界では、王や王族の前では平民はいつ手討ちになるかと、緊張してまともに目も見れず平伏するというのが普通なのだった。


「ああその子は特別無神経なだけですわ」


 七華が半笑いで言った。美魅ィが七華を無視して話を続ける。


「私は別に平民を差別する訳では無いですが、各国の頑迷な王や貴族にも納得させるには、盟主は最低限どこかの王族であって欲しい物ですわ。きっとフルエレさんは中部小国のどこかの無名国のお姫様、それで充分です。そしてさらに重要な事は、それでいてフルエレさんがどこの国とも利権やしがらみが無く、ふわふわとした中空の存在である……という事なんです。だからこそ盟主の座にぴったりなんです」


 美魅ィの言葉を聞いてフルエレが急にキッとした険しい顔になった。


「私、別に中空の存在? とかふわふわした存在とかじゃありません。ニナルティナに在住している実体のあるいち女子なんですから。なんだかバカにしているわ」


 おっとりして簡単に言いくるめられると思い込んでいたフルエレが、急に言い返して来たのでびっくりする美魅ィ。


「ほおらごらんなさい、その子は可愛い顔して実は相当気が強いのよ。それでいつも相手を騙すの」


 七華も相当気が強くなったのか、ゴーレムに囲まれ、魔ローダーが向こうで激しいバトルを繰り広げる中でフルエレに毒づいた。またも七華を無視して発言する美魅ィ。七華は全く面白く無かった。


「中空の存在がお気に触ったのでしたら取り消します、申し訳ありませんでした。でも貴方の気の強さにますます惚れました。あの圧倒的な魔力の量と、各国の要人や王族にも物怖じしない態度、そして……そして……圧倒的な美しさがあるのです。私は、どうせ仰ぎ見るならば、美しい御方が良いの……」


 そう言って美魅ィは少し赤面して、まるで男性騎士の様に跪くと、フルエレの手を取った。今度は璃凪(りな)がそんな態度の美魅ィを、じとっとした目で睨んだ。


「あ、あの……貴方が勝手に決める事じゃないわ。皆さんの同意が必要な事よ……」


 フルエレは赤面して跪き手を取る美魅ィに戸惑った。


「皆さんはどう思いますか? 戦闘中の最中の今、この場で決を採りませんか?」

「僕はもとより……フルエレ君が良い様に利用されるよりも、ある程度発言権があった方がフルエレ君の為になると思うし、フルエレ君の可能性も発揮されると思っている」

「アルベルトさん……ちょっと……」


 アルベルトが真っ先に応え、フルエレは戸惑った。


「ウェカ王子とやらは寝たままだな。メイドさんにでも聞くか?」

「わ、わたしにそんな発言権はありませんよっ!」


 イェラが言うと、セクシーなメイドさんはブンブンと手を振った。


「私はどちらでも良いですわ。何にしてもあんな瞬間移動する様な敵を防ぐ、ユティトレッドの高度な結界魔法機器が欲しいだけですわ」


 七華が面白く無い! という態度で吐き捨てる様に言って、あらぬ方向を向いた。シィーマ島国とブラザーズバンド島国の使者、伽耶クリソベリル役をしている侍女も当然同意した。


「ここに居る皆で強く反対する者は居なさそうですが?」

「だ、だめよ……そんな事今すぐ決められる事じゃないわ!!」


 それでもフルエレは言い様のない不安感を感じて、そうした物に巻き込まれる事に拒否感を示した。


(一体何をしているの砂緒!!)


 フルエレがそう思った直後だった。

 キィイイイイイイイイイイイイイイイーーーーーーー

現代人の感覚で言う所のジェット航空機の騒音の様な、凄まじい轟音が響いて来た。


「何々!? 何の音?」

「ぎゃーーーーーうるさいですわね!?」

「皆さん何を言っているのか分かりません!!」


 ガッ!!!

 びゅーーーーーーーーーーーーーーん。


「きゃーーーーーーーー!!」

「助けてーーーーー!!」


 空から猛スピードで急降下して来た鳥型に変形していた蛇輪が、一瞬でココナツヒメのル・ワンをかっさらい、そのまま急上昇したのだった。当然人々には目に見える速さでは無かったので、突然騒音の後に凄まじい突風が吹いただけの様に感じた。


「かーーーーーー今度は半透明消えたーーーー!! 訳わからーーーんん!!」


 操縦席のメランも、突然目の前でル・ワンがガッと掴まれて消えた事に戸惑った。その頃、ル・ワンは鳥型蛇輪に首と片腕をガッチリ握られたまま、凄まじいスピードで急上昇していた。クレウを肩にのせたまま……


「ぐ、ぐぐぐぐ、吹っ飛ばされる……ぐわーーーーーーーー」


 当然人力で掴まっていられるスピードでは無かったので、吹っ飛ぶ透明魔法中のクレウ。それをココナツヒメのル・ワンの巨大な掌がぱしっと掴んだ……

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