中空のふわふわした存在じゃない、実体のある一女子ですから 上
―セレネと砂緒が上空でいちゃつき始めていた頃、地上の魔ローダーのみなさん……
「なんでぇ!? なんで砂緒さん飛んで行っちゃったの? 加勢してくれるんじゃないの?? フルエレさんは乗っているの??」
「戦闘中の油断は命取りですわよっ!」
ココナツヒメの魔ローダール・ワンが切り掛かる。
「おっと、セレネ様が戻るまでは絶対にここは守る!」
一般魔導士の乗る青いSRVがメランの速き稲妻Ⅱを助けに割って入る。
ガキーーーン!!
巨大な剣と剣が鍔迫り合いを繰り広げる。
「こっちもよ!!」
さらに体勢を立て直したメランも切り掛かる。ル・ワンは今度はメランに対応する為にSRVから離れた。その直後、ガクッとSRVが巨大な膝を地面に着く。一般操縦魔導士は既に相当疲弊していた。
「青い人、手を貸して!!」
「は?」
「早く!!」
メランがSRVの手を握ろうとする。
「させませんわよ!!」
すぐさまル・ワンがメランの速き稲妻による回復スキルを阻止しようとした。
パパパン
すっかり忘れ去られていたが、クレウによる魔法ナイフの炸裂攻撃が再開される。
「ちっ本当に何ですのこれは!?」
激しく鬱陶しい攻撃に、巨大な掌で巨大な顔の前を払うル・ワン
「今です! 回復(弱)!! 次はニ十分後ですから!!」
「かたじけない!!」
手を繋いだ速き稲妻ⅡとSRVが白く発光して気力魔力体力が回復した。SRVの操縦者だけでは無くて、メラン自身も同時に回復しているが、これを半日とか連続で繰り返すと、さすがに体への負担がかかり、死んでしまうだろう。
「ちっ、これではキリがありませんわ……」
ココナツヒメの脳裏に撤退の文字が浮かんだが、目の前のスピネルはともかく、戻らないサッワを放って帰る訳にはいかないと思った……
同、地上の人々。
「ドタドタしてますが、銀色はどこに行ってしまったのでしょうか?」
「ユティトレッドのセレネ王女が乗っていた魔ローダーも破壊されたままですね」
「どういう状況なのでしょうか?」
「これ以上は近づけませんな」
南の港への脱出を諦めたフルエレ一行が、魔ローダー達が争う現場のすぐ近くまで戻って来た。口々に不安を呟く人々。
「砂緒はどうしたんだ? セレネは無事なのだろうな?」
ウェカ王子を背負ったままのイェラが心配そうに言った。
「き、きっと変形して飛んで行ったのよ、きっとそうに違いない……でも、凄く心配になって来た……もう既に負けてたりしてないわよね、砂緒が死んじゃったりしないわよねっ!?」
半泣きの勢いで逆にイェラに聞き返すフルエレ。
「そんなに心配なら、普段もうちょっと優しくしてやれ……」
「う、うん……帰って来たら優しくする。だから戻って来て欲しい」
黙って聞いていたアルベルトが、動いた。
「ゴーレム達を撃ち続けている魔戦車の隊員が疲れて来ている。ここにいる人々で魔力の供給出来る人は順番に交代して欲しい」
「あ、はい! それなら私がっ!」
フルエレがすぐに返事をした。
「いいや、フルエレ君はその防御腕輪で最後の砦としての役割があるので温存したい。他の人々で順番にやって欲しい!」
月まで行ったフルエレの魔力をいまいち肉眼で見てないアルベルトは、常識的な対応でフルエレに魔力の温存を指示したが、実際にはフルエレが魔戦車に魔力を供給し続けても全く問題は無かった。しかしアルベルト含めて魔戦車隊員が降りて、魔力持ちと順番に交代して主砲をゴーレムに撃ち続ける。人々は魔戦車を先頭に防御陣形を敷いて、自軍魔ローダーの勝利を祈りながら静かに過ごすしか無かった。
「あの……フルエレさん、いいですか? 私ユッマランドの美魅ィ王女と申す者です以後見知りおきを」
「は、はい?」
休憩するフルエレに美魅ィ王女が軽く一礼して話し掛ける。フルエレも一礼で応えた。
「この正体不明の賊は確実にメドース・リガリァの刺客だと思っていますわ。私達の国が一番最初にメドース・リガリァに攻められたから分かるんです。あのグレーの機体は確実に私達の国を侵略した魔ローダーに似ていますもの」
「は、はぁ……」
「今回の襲撃は北部列国が一致団結してメドース・リガリァに対応する事を阻む為の攻撃です。各国要人を一網打尽にして出鼻を挫く事が目的だと思うのです」
「は、はい……」
「でもこの事で各国は危険が他人事では無いと気付いたはずです。私は提案します。今回のこの同盟の結束をもっと高める為に、雪乃フルエレさん、貴方を単なる仲介人だとか見届け人では無くて、旧ニナルティナに変わる北部列国の盟主としての地位に就任して欲しいのです」
「へ? 何でそうなるの?? お断りします。私はただ同盟の見届け人と聞いたから来たのですから」
フルエレは、この美魅ィという王女が、セレネの様な性質を持ち、自分を巻き込もうとしている事に警戒心を抱いた。




