フルエレとセレネの再会、いきなりの不機嫌
「ふおーーー止めるなメア!! 僕は今から依世ちゃんと涙の再会を果たすのだっ!!」
「だーめーーでーーーす!! あの方は依世ちゃんではありません!! 年齢が違います!!」
「年齢の事は目をつぶる!! 見た目が依世ちゃんだから依世ちゃんだっ!!」
「やーーめーーーて下さい!! これ以上馬鹿と思われたらどうするんですかっ!? 各国の前で恥を晒すのはダメです!!」
ウェカ王子とセクシーなメイドさんのメアは激しく争っていた。
「仕方が無い……この手は使いたく無かった!! マル秘奥義おっぱいタッチ!!」
突然ウェカ王子はメアの大きめの胸を両手で触った……
「きゃっ!! ちょっと嬉しい!?」
メアは押し留めていた王子の手を離し、赤らめた頬に手を当てた。
「開いたっ!! 遂に依世ちゃんと感動的なご対面の日がっ!!」
(あかんあかん、第一村人女にあんまり会いたない……)
「メアちゃん、各国の前で王子が醜態晒すのは許されへん、ちょっと気絶させてええか??」
「あ、どうぞどうぞ!! やっちゃって下さい!!」
ドボッ
「あうっ!? ガクッ」
美魔女剣士R子こと瑠璃ィは物凄い速さで走り出した王子に追いつくと、どぼっとみぞおちに一発食らわせた。ぶくぶくと泡を噴いてガクッと気絶する王子。
「ふーーーっっ危なかったわ!」
米俵の様に瑠璃ィの小脇に抱えられた王子は手足がプランプランしていた。
「わーうるさい王子が黙ってくれて、これで休憩出来ますねっ!」
メアが腕を伸ばしてあくびをした。
「あんたほんまに王子の事が好きなんか……」
そんな騒動など知る由も無く、雪乃フルエレとイェラと猫呼は係員に誘導されて更衣室とされるテントに連れていかれた。当然男のクレウはテントの前で険しい顔をして警戒している。
「え、うそ……これを着るの? 豪華過ぎないかしら??」
フルエレは係の女性から渡された、ウエディングドレスの様に純白の豪華なドレスを見て困惑した。
「えーー綺麗で可愛くて良いじゃない! 何が文句あるの??」
猫呼が何時もの様に頭に腕を組んで言った。
「本当にそうだな! 私が着たいくらいなのだ……」
イェラが羨ましそうに言った。
「いや、違うのよ、ただのファッションじゃないの! 各国の代表者が揃って同盟の締結するのよ? 私は単なる仲介人、それも怪しいわ、私は単なる見届け人よ、必要以上に目立ちたく無いのよ」
「あの……これも被って頂きます」
今度は女性から輝くティアラを渡された。
「私の話聞いてますか? こんな物被らないし、服は持って来たスーツを着ますから」
フルエレは渡された輝くティアラを見て、ますます困惑した。
「そんなに我が王家の伝来のティアラがお気に召しませんか? 私の母上もお付けになった物です」
聞き慣れた声がして、フルエレはビクッとした。振り向くとシックなドレスに身を包んだ、見るからに王女王女したセレネが居た。
「フルエレ、パターンA王女パターンよっ!」
猫呼がフルエレの耳元で小声で囁く。
「え、ああ、まあっ!? セレネその服装は? もしかして貴方は……ユティトレッドのおうじょ」
「はい、私はユティトレッド魔導王国の王女ですが何か」
フルエレが入念に組んだ言葉を遮って、食い込み気味にセレネが答えた。
「え、えーと、その……」
「私が王女だと何か不都合ですか? そんな事どうでも良いでしょう」
仏頂面で淡々と話すセレネ。砂緒から聞いていた感傷的なモードとは随分違った。
「え? う、うん……別にいいの。再会出来て嬉しいわ」
「はい」
フルエレがひたすら気を遣って話し掛けても、セレネは一切の感情を表に出さず、淡々と切り返すだけだった。
(なんだか悪化してるー)
その場に居た三人は思った。
「あ、あのねセレネ、私は持って来たスーツで良いと思うの。あくまで同盟締結の主役は各国の代表よね。私が目立つ事は無いと思うの」
「いいえ、フルエレさんには用意した純白のドレスと黄金のティアラを装着して頂きます」
「何故?」
余りにもセレネが強引な為に、フルエレが少しずつ怒り始めているのを二人は察知した。
「ふ、フルエレ、穏便に行け」
「そうよ」
「本当の事を言いますと、今回の北部海峡列国同盟締結は前座の様な物で、おじい様いえユティトレッド王は、フルエレさんを中心に据えた約三十か国の同盟の成立を画策しておられます。その為、今回の締結式は雪乃フルエレさんのデビュー戦と考え、徹底的に目立つ様に演出を考えています。だから貴方の魔ローダーも密かにこちらにお運びしています。会場でお披露目する予定ですので、その御つもりで」
セレネはだだっと一方的に今回の締結式の裏に隠された、ユティトレッド王の思惑までバラしてフルエレに伝えた。カチーーンという音が聞こえそうな程フルエレがキッとなった。
「ちょっと待って、私帰る。そんな話聞いてない」
「お待ち下さい。貴方がそう言うだろうなと考えて言っていませんでした」
「何それ怒るわよ」
「はい、だから今度お会いした時は、貴方達は私の事を嫌いになるかもしれないと、それとなく砂緒に伝えてありました」
「そういう事なの? いいわじゃあ私帰りますので」
フルエレはくるっと反転してデントを出ようとする。
「……ふぅ、貴方は一体どこまで私をガッカリさせるのですか? いつも男の事ばかり考え、人々の暮らしや平和は二の次、それにダラダラと自堕落な暮らし、性格や人格だけなら同盟の仲介人の資格などとうに無いと思っていますよ」
「はぁ? 貴方が無理やり誘っておいて資格が無いですって?? 何様なのかしら? それに男の事ばかり考えてるって、私は標準的な女の子だと思います。逆に貴方がちょっと潔癖的過ぎて、常識からかけ離れているのじゃないかしら??」
「あの……二人共落ち着いて……」
「まあ男の事は良いでしょう、確かに私は人気も人望も無い性格悪い女ですから。ですけど、貴方は人も羨む様な無尽蔵な魔力を持っていながら、それを何に使っていますか? 結局自分のレジャーや行楽や男遊びに使って来ただけですよね? それだけの無尽蔵の魔力があって、しかも最強の魔ローダーまで持ってて、なんでちょっと魔王を倒しに行って来るとか、世界を平和にして来るみたいな事が思い付かないのですか?? 私には貴方が本当に理解出来ません。それだけの魔力という天賦の才を与えられたのだから、同盟の仲介人くらい嫌でも従って頂きます。拒否権は無いですよ、それが持つ者の義務ですから」
「はーーーーーー? なんで私の人生の事まで貴方に指図されなきゃならない訳?? 持つ者とか天賦の才とかって何よ? 私別に望んで魔力がある訳じゃないですから」
「そんな事魔力が欲しくても無い人間の前で言えますか? 少なくとも皆自分に出来る事は何か探しながら生きているんですよ、フルエレさんはもう今は同盟の仲介人として、セブンリーフの平和を作る様に運命付けられたんです。諦めて従って下さい。みんな嫌でも何かの制限に従って生きてるんです」
「もう絶対に嫌! 絶対にセレネの言う事は聞かない!!」
「はあ? しゃーしぃーわ 私だって貴方にはガッカリさせられ続けですよ!」
「あのーーーお取込み中すいません、セレネ、フルエレ何を怒ってるんでしょう?」
そこにテントの端っこをめくって、ひょこっと砂緒が入って来た。
「お前のせいじゃーーーーーーー!!」
ガッッ
セレネはいきなり砂緒に飛び蹴りを食らわせた。
「あうっ」
砂緒は床に叩き付けられた。
「ここは女子更衣室だぞ……」
イェラが地面に食い込んだ砂緒の前でしゃがんで言った。
「あのー、セレネ……これを落としませんでしたか?」
めり込んだ地面から顔をだした砂緒がイヤリングの片割れを見せた。腕を組んで横を向いていたフルエレがチラッと輝くイヤリングを見た。
「あーそれ私のだわ、お前がフルエレには内緒だよってくれたヤツ!」
(そんな事は言ってませんが……)
「何よそれ……」
フルエレがピクッと反応する。
「これ、お返ししますので、受け取ってもらえますか? それにそのドレス綺麗ですよへへ」
後ろめたい事があり、どこまでも卑屈に出る砂緒だった……
「あーありがとな、どこで落ちたんだか」
言いながらセレネはどこで用意したのかピンセットで受け取ろうとする。
「それはーー?」
「あーーー何が付着してるか分らんからな」
「そ、そうですねへへ」
砂緒はちらっとフルエレを見て冷や汗を掻いた。
「あーーそうだフルエレさん、さっき確か七華リュフミュラン王女だっけか? そんな人も歩いてたぞ。彼女もあんまり乗り気じゃ無いらしいが、義務だから式典に出るらしい。それにアルベルトさんも魔戦車まで海上輸送して、この会場の警備及び式典参加もする。当然新ニナルティナ代表としてです。レナード公はなんか嫌という理由でアルベルトさんが代わりに出るのです。それでも逃げるのですか?」
「あ、あ、あ、セレネさん? ごくり」
砂緒は余計な事を告げ口されないか慌てた。
「………………いいわよ。七華まで出るのなら今回の式典からは逃げないわ。でも、次の三十か国の同盟の話? それはアルベルトさんともしっかり相談して、私絶対にやらないから。それだけはここでハッキリさせておくわ」
「あーーーーそーーーーですか? お好きにどうぞ」
「ふんっ」
「ふんっっ」
フルエレとセレネは揃って反対を向いた。
「まーまー仲良くしませんか? お二人共」
砂緒が笑顔で割って入った。
「しゃーしぃーわっ!!」
ガスッ
セレネは砂緒に再び飛び蹴りすると、そのまま怒って出て行った。
「砂緒、ここは女子更衣室よ、早く出てって」
猫呼が地面にめり込んだ砂緒に言った。
「は、はいはい出ます出ます」
「ちょっと待って、貴方七華に会った?」
「ギック……い、いいえ会ってませんが? それでは私はここで」
砂緒は急に涼しい顔をしてテントをめくって出て行った。
「でも……セレネ、砂緒が来てから急にいつもの様子に戻りかけた気がする」
猫呼が腕を組んで分析した。
「……そ、そうね」
フルエレは複雑な心境だった。




