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ユティトレッド魔導王国の美しき王女


「って云う事なのよね、砂緒の告げ口によると」

「告げ口って言い方」

「その、あたしの正体知ったら……今まで通り接してもらえんかもしれん……てのが曲者よね。私の勘だと十中八九大した正体じゃないわよ」


 猫呼がいつもの様に大きく反り返って、後頭部で腕を組んで言った。


「身も蓋も無い言い方するわよね」

「セレネが自分でハードル上げていくスタイルとは思いも寄らなかったぞ……そんな言い方したら、正体は魔王でした! くらいじゃないと誰も納得しないぞ!!」


 当然セレネは魔王では無い。


「私もし将軍や重臣の娘でした~レベルだったとしたら殴るかもしれません」

「女の子殴っちゃダメ」


 猫呼が遂に核心を突いた。


「もうどうせユティトレッド魔導王国の王女なんでしょ、それ以外無いじゃない。あ~~~恥ずかしい。私の正体知ったら今まで通り接してくれないかもしれん……だってさー、お笑いよ。王女が何だってのよ、自分の事王族だからって、特別視してる証拠じゃない??」


 猫呼は目をつぶり、肩をすぼめ両手を開いた。外人さんが良くやるアレだ。猫呼自身が元王女なので何か思う事があって、いつも以上に辛辣なのかもしれない……


「猫呼、いつからそんな性根が捻じ曲がったのですか? あの年代の子は、しゃーしぃーしゃーしぃー連呼したり、私が可愛い訳無い……とか言いたくなるお年頃なんです。その一環で王女である事も彼女にとって大きな精神的な負担なんですよ、あんまり私の前でセレネの悪口を言わないで頂きたい」


 さっきは大した事無い場合殴ると言った癖に、突然砂緒が熱っぽくセレネの擁護をして一同シーンとなった。


「へ、砂緒って……そうだったの?? フルエレは諦めたん??」

「諦めてる訳ないでしょう。友達として擁護しているのです」


 フルエレが砂緒をチラッと見た。


「とにかくセレネを傷付けない様に、王女だった時のパターンと重臣とか将軍の娘程度だった時のパターン、さらには盗人や魔族だった時のパターンも組んでおけば良い」

「盗人って事は無いでしょ……さすがに」

「とにかく……セレネがまた此処に戻って来やすいように仕向けて下さい、いいですね」


 フルエレ、イェラ、猫呼三人は思った……砂緒がまともな事言ってる、遂に壊れたと。


「熱あるのかしら?」


 フルエレが砂緒の額に手を当てた。


「久しぶりに触ってくれる理由がそれですか……」




 ―ユティトレッド魔導王国王城


「おじい様、新ニナルティナから戻りました」


 ユティトレッド魔導王国の王様の前で、セレネは可愛らしくお辞儀をした。その姿は真っ黒なシックなドレスを纏い、頭にはティアラが輝いていた。セレネは思い切りただのユティトレッドの王女だった……


「おおおおおおお、待っておったぞ~~、心配しておったぞ。新ニナルティナに居る間、セクハラタッチやセクハラ発言を受けたりせなんだか? 何か嫌な事は無かったかな?」


 ユティトレッド王は孫のセレネを溺愛していた。


「大丈夫です」

(その両方とも砂緒から経験しました……けど意外と大丈夫でした)

「おお、そうかそうか良かったのお、それに大役ご苦労じゃった! セレネのお陰で同盟が成立する所まで行きそうじゃ……大儀じゃったのお……」

「フルエレさんは少し不安定な所がありますが、必ず最後は同盟成立に協力してくれるでしょう」

「おおそうか、それは良かった良かった……そうじゃ砂ナントカというのは、どんなヤツじゃ?」

「え? 砂緒ですか……それは、良く分かりません……あんまり関わっていませんから」


 セレネは少し戸惑った様に目がキョドった。同時に髪をかき上げた時に、砂緒から貰ったイヤリングがキラッと煌めいた。もちろん王はそんな事は知らない。


(おや……いつにない反応が……どうしたのじゃ……もしやセクハラ被害か!?)

「……おじい様、本当に各国から参加の意志があったのですか? 例えば旧ニナルティナの荒涼回廊にある飛び地なんて、音信不通なのではないでしょうか?」


 セレネは話題を換えた。


「ニナルティナの飛び地ではないぞ、ワシらの、ユティトレッドの飛び地じゃ。あそこには何れ使者を立て、連絡を再開させる。あそこにはゴールドやシルバー、それにオリハルコンやミスリルなどの重要な鉱物資源があるからの。それを回収せねばならん」


 セレネは矛盾を感じた。


「あの、連絡を再開させるとは……? 今現在は音信不通だとすれば、同盟の使者はどうするのですか??」

「ああ、そんな物は適当な偽物を立てれば良い話じゃ! おおそうじゃな、そこのメイドさんよ、お前は今から荒涼回廊にある飛び地の館の主、伽耶クリソベリルじゃ! 式典では頼むぞ」

「えええええっ!?」


 突然指名された侍女は驚いた。


「そんないい加減で良いのでしょうか……」

「いいんじゃいいんじゃ、どうせ戦になっても兵を送ってくるような位置にはおらん、だとすれば代役でも偽物でも何でも良い、ふぉっふぉっふぉっ」

「…………では」


 セレネは一礼すると、王の前を立ち去ろうとした。


「どうした、どうした、前はおじい様おじい様と抱き着いて来たではないか……」

「もうその様な年齢ではないのですよ」

(……怪しい……)


 ユティトレッド王はしずしずと去って行く、長い髪に見え隠れする美しく背中が露出された、成長したセレネの後ろ姿をじっと見つめた。


(もう知らぬ内に娘になっておる……)

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