第一回セレネ対策会議
―新ニナルティナ、喫茶猫呼の一室。第一回セレネ対策会議会場。
「セレネ本当に国に帰っちゃったのね」
雪乃フルエレがソーダ水を飲みながら言った。
「どうせまた砂緒がセクハラとか痛い発言とかして怒って帰ってしまったのよ」
珍しく猫呼も居た。
「皆さん、セレネは北部海峡列国同盟締結の日取りが決定して、その準備の為にユティトレッドに帰ったと知っているではないですか、何故そんな方向に話を持って行くのです」
「はぁ~~~、同盟の締結なんて半年とか一年後とかそんな話だと思ってたのに、参加国が知らない内に凄い増えてて、最初に聞いてた話からだいぶ変質してて、凄く嫌だわ、どっか行きたい……」
フルエレが両手で顔を覆って呟いた。
「で、では、一緒に人里離れた場所に行きましょう! 二人で静かに暮らすのです!!」
砂緒は立ち上がって力説した。
「ああ、でもダメ、アルベルトさんも平和の為に同盟に賛成だし、私が立会人になるの凄く期待してる……逃げれない……」
砂緒の発言を無視して話を進めるフルエレ。
「でも……砂緒もセレネを壁に押し付けてキスを強要してただろう、あれが帰国の原因の一つだと思うぞ!」
イェラが皆の前で余計な事を言った。
「知ってたんですか……」
「何て事するの、セクハラで犯罪よ」
「あんた、いやお兄様とうとう冗談で済まない事をしてしまったわね」
フルエレと猫呼二人に白い目で見られる。
「セレネと私は高度な信頼関係があり、その上で発生したイベントです。単にセクハラとかそんな問題ではありませんから……」
砂緒は冷や汗を拭った。
「へ~~~~~高度な信頼関係ねえ?」
(ブラジルとあんなヤバイ公園に行っていた、貴方に言われたくはありません!)
「それより、ちゃんと本題の対策会議に入りましょう」
砂緒は必死に話題転換を図った。対策会議の議題はセレネが国に帰った事では無くて、違う部分にあった。
「そうなのよね、帰っちゃった物は仕方無いのよね、問題は今度会った時にどうするか……よね」
セレネが帰国する直前に時間を遡る。
「セレネ、一緒にいろいろな物資の買い出しに行きましょう!」
「大丈夫です」
セレネはしばらく前から以前の瓶底眼鏡姿に戻っていた。
「大丈夫って何語ですか? 一緒に行くのですか行かないのですか? 眼鏡可愛いですよ!」
「大丈夫です、行かないです。可愛くないです」
「何故?」
「いや、大丈夫です」
セレネは記憶がリセットでもされた様に、また砂緒との距離感が大幅に開いていた。
(あれ……どうしたのでしょう……)
「そうだセレネ、休日に魔輪に乗ってどこかに行きましょう!」
「……大丈夫です」
「……やーい貧〇! 貧〇!」
「……大丈夫です。もう行っていいですか?」
砂緒の言葉を待つまでも無くセレネは歩いて行く。砂緒の能力では対処不能な事態だった。
「セレネどうしちゃったの? 何かあったの? 最近何だか元気がないみたい……」
成り行きを見ていたフルエレが、遂にセレネ鬱問題に口を開いた。
「実は……ユティトレッド本国から伝令があり、北部海峡列国同盟が近く成立しそうなので、その事を雪乃フルエレさんに伝える様に言われていました」
「ええええええええ、そうなの!?」
セレネはフルエレに対しても無表情に話した。
「はい奇跡的に、荒涼回廊にある飛び地、シィーマ島国、ブラザーズバンド島国、ラ・マッロカンプ国、私のユティトレッド、ここ新ニナルティナ、リュフミュラン、ユッマランドの全てが一致して同盟に参加する事を表明してくれました」
「で、でも急過ぎないかしら!?」
「いいえ、各国がその気になっている時に早く手を打たないと、直ぐに気が変わる可能性があります。逃す前に同盟を成立させてしまいます」
「なんだか発想が詐欺商法みたいだな~」
イェラが半ばあきれて言った。
「フルエレさん、この機を逃さない様に式典で同盟仲介人の役割……お願いします」
「何をするの?」
「同盟締結する時に、各国の使者や王達の前で締結宣誓するだけの簡単なお仕事です」
「言い方が一番やっちゃダメな、危険なお仕事のヤツに感じるのだ……」
「そ、そう考えておくわ……アルベルトさんにも相談したりして」
その場の話は、それで終わりとなった。
そしてそのしばらく後、喫茶猫呼店内で偶然砂緒とセレネ二人きりになる場面があった。最近はそんな時はセレネはササッと遠ざかっていたが、その時はセレネは逃げなかった。しかし最近の事もあって砂緒はセレネに話しづらい感じがしていた。砂緒にもそんな程度の感情を読む知能は発生していた。
「今日は……何も言って来ないな?」
(うっ……セレネから話し掛けて来ましたよ。二人きりだから? 二人きりボーナス? 何と言えば良い? 貧〇? 今日も可愛い? 普通の会話?? 分かりません……)
「セレネ、好きですから安心して下さい」
練りに練った第一声がそれだった。
「分かってる。前のイヤリングありがとうな。お前は異常に裏表が無いって分かってるから自然に話せるわ」
(ホッ……元に戻った?)
「何かあったのですか? 何か皆を避けている気が?」
「お前の知能でもそこまでわかる様になったんだな、少し感動した」
「普通だったら殴っています」
セレネは思い詰めたように言った。
「いつか……私は本国に帰らなくちゃならない……その時が近付いてる。私が帰ってしまったらどう思う?」
「帰るって、一旦帰ったらまた戻ってくるんでしょう?」
「忘れてるだろうが、一応これでも学生なんだ、ここにずっと居れる訳じゃない」
「困りましたね……セレネにはここに居て欲しいです。居なくなると凄く寂しいです」
「お前は本当に溜めが無いなー赤面するわ、でもまー半分はフルエレさんの身代わりなんだろうけど」
さすがに砂緒でも、そうですよ! 等と言う事は無かった。
「じゃあ週三くらいで魔ローダーに乗って飛んで来れば良いです」
「でも……式典の時に……あたしの正体知ったら……今まで通り接してもらえんかもしれん」
セレネはそれ以降黙り込んだ。
 




