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ココナツヒメの魔ローダー

 ―メドース・リガリァ軍、東部最前線陣地。


「凄いですよスピネルさん! 僕の魔ローダーディヴァージョンの代わりに、新しいのがやって来ました! 見ましたか?」

「ああ見た遠くからな。新しいのが来て良かったな……」


 前回ユッマランドに侵攻して返り討ちに遭い、ボロボロになったサッワの魔ローダーディヴァージョンは早期の修理は不可能と判断されて、ココナツヒメにいつのまにかに持ち去られてしまっていた。


「もう一度一緒に見に行きましょうよ! スピネルさんのデスペラードも強化されたらしいですよ! おいコラ団長、炭酸が足らんぞ、いつも切らすなと言っているだろうがっ!」


 サッワは空の瓶を団長に投げ付けた。


「す、すいませんサッワ様、すぐにお持ちしますヘヘ」


 負けて苛立つサッワは、サッワさんからサッワ様に昇格していた。


(どんどんヤバイお子様になったな)



 サッワに案内されて行くと、確かに真新しい見覚えの無い魔ローダーが立っていた。しかしそれだけでは無く、見知らぬ人物も立っていた。


「あら……もしかして貴方達が噂の魔ローダー操縦者の方達かしら?」


 人物は近付くとその異様さが際立った。技術者達の中心に立つその女性は、激しいシースルーの青いドレスを着た、妖しい美しさを持った女性だった。


「お初に御目に掛かる。スピネルと申す旅の剣士にてデスペラードの操縦者でござる」


 スピネルは軽く頭を下げた。


「ああ貴方がスピネル様……うーん、とても美しいお顔立ちね、ウフフフフ」


 スピネルはなるべく目を合わさない様にした。


「あ、あの……あの、僕はサッワと言います」

「あら~~~可愛い!! 貴方がサッワ君なのね、凄く可愛いわ、連れて帰りたいくらいにねウフフ」

「あ、ああ、ああああ、あ」


 ココナツヒメはサッワに近付くと、子猫にする様に頭をなでなでした。ココナツヒメのシースルーのドレスは重要な部分がたくみに色の濃い生地が使われていて、辛うじて猥褻物陳列罪を免れる風情だったが、接近して見るとそんな工夫はまるで関係無いくらいに裸体その物に見えた。


「ごくり……」


 サッワは接近して来たココナツヒメの肢体を、正気を失うくらいにじっと見つめてしまう。


「所で貴方はどなた様なのかな?」


 魅入られそうなサッワの正気を取り戻す様に、スピネルがわざと低いトーンで聞いた。


「まあ、素晴らしい騎士の方お二人の前で無礼をお許し下さい……私はメドース・リガリァに少しだけ色々援助させて頂いている、ココナツヒメと申す物、以後お見知りおきを」

「はい、それはどうも」


 スピネルは何か不気味な物を感じて、なるべく視線を逸らした。少なくとも彼の好みでは全く無かったから。


「所であの新しい魔ローダーは……」

「ええ、あれはサッワちゃんの新しい魔ローダー、エリミネーターですわ。以前のディヴァージョンにも劣らない素晴らしい機体ですわよ、うふふ」


 ココナツヒメが軽く手を差す方に立つ魔ローダーは、ディヴァージョンよりも禍々しさが増したデザインになっていた。


「それがしの機体まで勝手にいじられてますな」


 スピネルは意図的に憮然とした口調で言った。事実として一度でも自分が乗った機体を、勝手にいじられた事に不満を持っていた。


「まあ! 率直な殿方なのね、好きよウフフ」


 ココナツヒメはスピネルにしな垂れかかろうとしたが、スピネルはサッと避けた。ココナツヒメは苦笑いして魔ローダーに向き直した。


「あれはデスペラード・サイドワインダーカスタムですわ。以前の時より一・五倍程パワーもスピードもアップしてますの。なにしろ貴方は素晴らしい操縦者らしいですからウフフ」


 見た目には良く分からないが、パワーアップは有難かった。


「それより……貴方はアッチの方が、ご関心がおありのようですわね……」


 ココナツヒメが言う様に、事実スピネルは二人に与えられた魔ローダーの他に、その奥に立つ存在感が在りまくりの機体が気になった。その機体は青い半透明の装甲が施され、内部機構が妖しく光る、ココナツヒメのイメージを具現化した様な特別製の存在に見えた。


「あれは……私の仕えるご主人様のご先祖様、偉大なる王永嶋フィロソフィー様より受け継し私専用の魔ローダー、ル・ワンですわ。何か気になる事がありまして? 今は特殊スキルを使って、魔ローダー運搬に大活躍ですの。ウフフ」

(ル・ワン……)


 スピネルはしばしその異様な魔ローダーを無言で見上げた。


「知っていますの? ル・シリーズは遥か古代、遠く東の海を越えたクラウディア王国で作られたとか……」

「さあ、それがし、そうした事には疎くて」


 スピネルはぷいっと横を向いた。


「あ、あの……僕の機体も、凄いのですよね」


 二人が話し込む事に嫉妬する様にサッワが割って入った。


「あらあら、僕ちゃん御ジェラッちゃったのね、可愛いわ~~こちらにいらっしゃい」


 そう言うとココナツヒメはサッワをシースルーの胸元に寄せ、ぎゅっと抱き締めた。


「ああああ、あ、あ、ああああああ、あ~~~」


 サッワの頬を感じた事の無い柔らかな感触が覆った。


(冷たい……けどヒンヤリして気持ちいい……)


 サッワはバレない様に少しだけ頭を押し付けてみた……


「サッワ君の機体も素晴らしい物よ、貴方の女王様の為に頑張るのね……」

「は、はい……ココナツヒメさまの為にも、頑張ります」

(女王だったら何でも良いのか? 女王マニアのお子様か……)


 スピネルは異様な光景を目を細めて見つめた。


「それでは、我々はブリーフィングがあります故、行くぞサッワ」


 スピネルは強引にサッワの腕を引いた。


「あ、サッワさんもう少しだけ……」


 名残惜しそうにココナツヒメに抱き着こうとするサッワを、無理やり引き剥がす。そしてそのままココナツヒメからなるべく遠ざける様に、その場を後にした。



「スピネルさんブリーフィングなんて予定されてませんけど」


 サッワは珍しくスピネルに反抗的な目をした。


「君はエリゼ女王の騎士ではないのか? そうと決めた相手が居るのならば、ふらふらと浮気をするでない」


 珍しくスピネルが長文を、しかもサッワの初心をビシッと思い出させてサッワはハッとなった。


「そ、そうでした……僕は、私はエリゼ女王を守る為に魔ローダーに乗ったのでした。有難う御座います!! ではテントに戻ります!!」


 サッと敬礼して自分のテントに帰って行ったサッワを確認して、自分もそろそろ帰ろうと思った。


「ぐふふ」


 そこに突然両手に葉っぱの沢山付いた小枝を持った、弁当屋の娘が現れた。


「な、何だ居たのか……」

「全部見ていたわよっ!」


 弁当屋の娘は登場直後から猛赤面していた。


「何を見た?」


 スピネルは何か魔ローダーの軍事機密かと思った。


「あんなエロい女が突然現れたのに、剣士さまったら必死に見ないふりしたり袖にしたり、よっぽど私の事が頭にあって、浮気しちゃだめだって思っているのね、自意識過剰よっ!」


 スピネルは欠片も考えていない事を言われて唖然とした。


「そこまで私、剣士さまを拘束しようなんて思ってませんからっ!!」


 弁当屋の娘はくるりと反転すると、背中を向けてしゃべり続けた。


「で、でもちょっと褒めてあげようかしら……よく誘惑に耐えました!!」

(単に嫌いなタイプだっただけだが……)

「今日は……アレはお持ちかな?」

「もーーーーー! 剣士さまってば、お弁当にしか興味が無いフリばっかりして、恥ずかしがりやさんなのね……」


 本当に今の所弁当にしか興味が無かった。と言えば言い過ぎか、少しは娘の事が気になり始めてはいた……


「実は……そなたの事を考えておった」


 適当な事を言ってみた。


「もう、嘘ばっかり言って!! 騙されません」

(どう言えば正解なのだ)


 スピネルの視線は娘が持つ弁当に向けられた。


(早く渡すなら渡してくれ)


 完全に胃袋を掴まれていた。

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