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フルエレ君が壊れたッ、フルエレさんを追いかけろ 上

「今日は何だか色々な事があったね、また今度の会合が待ち遠しいね」

「え、はい……でも会合が無くても、その会えれば嬉しいなって」

「…………うん、そうだね」


 二人は公園の中を、通路の道筋一点だけを見つめ、その他の情報は一切仕入れない様にして出口に向かった。


「でも……アルベルトさんが凄く真面目で、誠実な人だという事が分かりました」


 フルエレは斜め下から上目遣いに恥ずかしそうに言った。


「えーなんだかつまらない人間みたいだなあははは」

「違います! 本当に……とってもいい人だなって思ったんですよっ!!」

「つまり……真剣な形で二人の関係を考えてもいいのかな……」


 アルベルトさんは立ち止まって言った。フルエレはどきっとしたが嬉しかった。


「………………はぃ」


 砂緒(すなお)が聞いていたら、確実に蟹レベルで泡を吹いて気絶しそうな場面だった……



 帰りの路面念車はさらに空いていた。フルエレは一番端っこのシートに座った。


「夕方になるとまた風景は一変するね」

「はい、とても綺麗な所ですね」

「そうだね、フルエレ君が必死に守ってくれた場所だね」

「………………」


 何か言おうと思ったが、嬉しくて感動して言葉に詰まって、何も言えなかった。しばらく二人は無言で景色を見ていた。無言でも何一つ気まずさは無かった。


(あ、寝てる……)


 いつしかアルベルトさんは寝てしまっていた。フルエレは普段は直視出来ないアルベルトさんの寝顔をまじまじと見つめた。

 ギギギギギギギギキキキーーーッッ

突然激しいブレーキ音と共に路面念車に緊急ブレーキが掛かり、凄まじい慣性で車内の人々が進行方向に転んだりよろけたりした。

 バフッ


「キャッ」


 念車は徐々にスピードを下げ、しばらくして完全停車した。寝ていたアルベルトさんは、体ごと横を向いていたフルエレに突っ込む形で倒れ込んだ。アルベルトさんの頭はフルエレの若い胸の膨らみに、包まれる様に倒れこんでいたが、すぐに目を覚まして起き上がった。


「いや、済まない、寝てしまっていたようだ。倒れこんでしまった。痛くなかったかい?」

「い、いえ大丈夫ですよ! どうしたんでしょうか?? 事故??」


 寝ぼけていたのか、アルベルトさんはフルエレの胸に倒れ込んだ事に気付いて無いと思ったので、敢えて触れない様にした。


(今……何かとても嬉しい感触に包まれていた様な……)


 半分気付いていた。


「何だ? こんな所で止まってどうしたんだ??」

「なんだか運転魔導士さんが死んだ目で運転してたワ、過労かしら?」

「まあ惨い……」


 まばらな客が口々に話しながら、立って窓の外を見たり、降りようとドアに向かったりした。


「お客さんの中に魔力回復魔法をお持ちの方、もしくは高等魔車運転士の方はいらっしゃいませんか?」


 前の車両から若い女性が叫びながら後ろに来た。


「どうしたのかな?」

「あ、はい、どうやら過労の為か運転魔導士さんが倒れてしまった様で……前の車両では大騒ぎです」

「フルエレ君は……魔法は無理だったね。僕も魔力回復魔法なんて高度な物は使えない」


 アルベルトさんは顎に手を置いて考えた。


「……あの、二人で運転してみませんか?」

「え?」

「だってアルベルトさんは魔戦車乗り、私は魔ローダー操縦者、路面念車も多分動かせますよ!」


 フルエレは小声で話した。


「そんな物かなあ??」

「あの……何か?」

「はい! 私達運転出来ると思います!! 運転して駅に着いて、早く運転手さんを降ろさなきゃ」

「え? え、本当に大丈夫なのかな」


 アルベルトさんは慌てたが、彼は知らなかった、フルエレが乗り物好きだという事を。



 男性の乗客とアルベルトさんが慎重に運転手さんを運び出し、頭に衣服で作った枕を挟むと、アルベルトさんが体力回復魔法を使って、体調だけは回復させた。


「う、ううぅ……」


 しかし目覚める事は無く、そのまま眠り始めた。


「み、皆さん、ご安心下さい、私が運転して駅まで送り届けますから!!」


 フルエレは下を向いたまま、少し興奮して運転室に入り込み、それにアルベルトさんが続いてバタンとドアを閉めた。


「今の女の子が運転するのか?」

「大丈夫なのか?? 下を向いて目も合わせなかったぞ!」

「なんだか怖いわ、命預けて大丈夫なのかしら??」


 少し興奮気味に運転室に入って行ったフルエレを見て、皆異様な不安に駆られた……


 

「ほ、本当に大丈夫なのかい? 無理しない方がいいよ」


 運転席に座り、キョロキョロ運転台を見ているフルエレを見て、アルベルトさんも不安に駆られた。


「大丈夫です!! 私も色々な死線を潜り抜けていますから!!」

「運転の知識はあるんだよね?」

「無いです!! でも大丈夫ですよ」


 フルエレは取り敢えず、まずは魔ローダーと同じ要領でレバーを握ると、前に進めと念じてみた。

 シィーーーーーン

高度な魔法技術が投入されている魔ローダーと違い、路面念車は魔輪と同様に運転者は魔力の投入は必要だが、運転自体は運転者の直接入力が必要なタイプだった様だ。


「ど、どうしたフルエレ君? 何をじっとしてるんだい? 止めてもいいんだよ」

「い、いえ大丈夫です。精神集中してただけですから。レバーが三本じゃなくて一本のタイプなので割と運転は簡単です!」


 フルエレは軽く嘘を言うと、レバーを軽く引いてみた。逆走するというベタなミスは発生せず、するするとスムーズに進みだした。


(きっとこの小刻みな数字は加速よね……無理さえしなければ行けるわ!! 楽勝よっっ!!)

「凄いよ、凄い!! ちゃんと動いてる。さすがフルエレ君だね!」


 アルベルトさんはいつになく、興奮気味に進みだした景色を見た。


(切は絶対動力との接続を切る事よね……という事はその逆は逆走かブレーキ……)

「あは……あは……あは」


 今日一日の緊張から解放された為か、むしろ初運転の興奮からかフルエレの様子がおかしくなった。


「ふ、フルエレ君!?」


 雪乃フルエレは初めて乗る路面念車に興奮し、遂に壊れ始めた。



「あともう少しだけ、もう少しだけ遊びましょうよ」

「子供か……いい加減にしろよ」


 砂緒は先程目撃したフルエレとアルベルトさんの逢引シーンが頭から離れなくて、とにかく何でも良いからセレネと遊び歩きたい気分だった。


「お願いします! ここで土下座しますよ」

「最悪なヤツだなーしろよ、置いて帰るから」

「お願いします~~」


 砂緒は本当に子供の様に服の袖を引っ張った。


「離せっ! キモイわっっ」


 セレネは砂緒の手をパシッと払いのけた。もうキリが無いので今度こそ帰るつもりだった。


「え~ん、え~~ん、本当にお姉さんだったのに! どうして信じてくれないの?」

「ね、梅狐ちゃん、そんな事ある訳無いじゃない、大きなお人形さんで助けてくれた金髪のお姉さんが、路面念車運転してるなんて……見間違いよ!!」

「………………」

「……それって絶対」

「でしょー?」


 偶然流れて聞こえて来た親子の会話に、セレネと砂緒は顔を見合わせた。


「そこの美しい主婦の方、詳しく教えてしんぜぬか?」

「は?」


 突然目付きの悪い少年に話し掛けられて、母親は怪訝な顔をする。


「不審者かよ。すいません、この人の事は無視して下さい、どうしたのですか? 教えてくれませんか」


 初対面の人には緊張するはずのセレネが、するすると普通に話し掛けられた。


「はい……この子が例の竜騒ぎの時に、巨大な魔ローダーていうのですか、それに乗った金髪のお姉さんに助けられたといつもいつも話してて、いつかお礼がしたいと……」

「もう確実にフルエレでしょう」

「だね」

「そしてそのお姉さんが今、大爆笑しながら路面念車を運転して行ったと……」

「大爆笑しながら?」

「何故? でもそれももうフルエレでしょう、そういう事するのは」


 砂緒はいつもはお淑やかだが、興奮すると突飛な行動をするフルエレの性格では、あり得ると思った。


「よし、お姉さんが、その金髪のお姉さんに会わせてあげようね、奥さん私の後ろに乗って! お嬢ちゃんはそこの箱に乗ってね!!」

「え? え??」

「急いで下さい!!」

「は、はい」

「あのーーー私はどこに??」

「あーお前はここら辺の路上で寝てろ。他人様の迷惑になるなよ!」


 いきなり知らない少女に促されてちょっとびっくりしたが、母親と梅狐はサイドカー魔輪に乗り込んだ。乗り込むとすぐに魔輪は進みだしてしまった。


「あーーー、本当に置いて行ってしまうのですね、ふふふ無情な物です」


 本当に砂緒は歩道にそっと寝てみた。街行く人々が都会の無関心で避けながら進んで行く。砂緒は少しだけ涙が出た。

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