濃い魔ローダーひみつ修理研究所、小さな再会
セレネが運転する魔輪は適当に海岸線を流した。砂緒はセレネに言われた通り、セレネを眺めながら雪乃フルエレと一緒に走った日々を思い返していた。
「やっぱり結構あちこち破壊の跡があるよなー?」
「そうですねー、砂浜でも大きな穴が開いてたり、ん? あれ何でしょうか??」
砂緒は久々に屋上有料双眼鏡の能力を発動した。なにか丸いドーム球場の様な物が見えた。
「真っすぐ進んでもらえますか?」
「ほいきた」
現地に到着すると、巨大な白い半球場のテントだった。
「まさか本当に野球場なのでしょうか? 中に入っても怒られませんでしょうか」
「ヤキュ? 何それ……」
二人は魔輪に乗ったまま、巨大なテントを眺めた。
「お、おお? おーーー!!」
砂緒が突然声を上げると、魔輪を降り、ドームの入り口に向かって走っていった。
「何事だよ……」
セレネは魔輪のまま砂緒を低速で追った。
「あ? あーー?? あーあー!!」
ドームの入り口前に、黒いトンガリ帽子を被った黒い魔導士姿の少女が居て、砂緒に向かって駆け寄って来た。
「おおお、メランではないですか!!」
「砂緒さんっ! お久しぶりですよ!!」
二人は何故か笑顔でハイタッチした。
「何故に貴方が此処にいるのでしょう?」
「これ読んで、ほら」
メランはドーム入り口の看板を指さした。
「ん、濃い魔ローダーひみつ修理研究所、とな?」
「そうなんですよ! ユティトレッドの魔法技術者が、全力で群青色の魔ローダー修理してくれてるんだけどさ、最終チェックはやっぱり操縦者が必要って事で、テストドライブしてるの!!」
「あーそれ、本来は私達が貴方に知らせるヤツだったですね」
「あれーそう言えばフルエレさんは?? いつも一緒でしょ……」
メランはキョロキョロして、一瞬セレネと目が合って視線を逸らした。
「あ、いえ、フルエレはとても元気ですから、ご安心を……」
「それよりあのとても、神秘的な美人さんは誰なのですか? 何だか只ならぬご関係とか!?」
メランは、わくわくして言った。セレネとメランはリュフミュランギルド前で、何度かすれ違うレベルの出会いをしているが、お互い意識していなくて初対面だと思っていた。
「そうなんですよ、先程も一緒にデエトして来た所です!」
「キャーーー!! 今そんな凄い事になってるんだ!?」
メランはピョンピョン飛び跳ねた。
「ち、ちょっといい加減な事言うなよ」
遠巻きに見ていたセレネが遂に割って入った。
「あ、どうも初めまして!! 私メランと言います!! 元魔戦車乗りで今度濃い魔ローダーに乗る予定なんですよ! 見て行かれますか??」
「あ、あ、ども……」
笑顔で駆け寄ったメランに対して、セレネの余りにも素っ気ない対応に拍子抜けするメラン。
「ああ、メラン、実はこのセレネは初対面な相手には、心を閉ざしがちなのです。決して悪気がある訳では無いのですよ」
「変な言い方するなよ……本気で怒るぞ」
自分の触られたくない部分を言われて、いきなりムスッとするセレネ。
「え、あーそうなんだ、でもよろしくねー?」
「私こっちに来てから何回も冒険者ギルドに行って、フルエレさん達が居ないか探ったんだけど、影も形も無くてね、どこに居るの?」
三人はドームの中に入り、修理完了間際の群青色魔ローダー、ル・ツーを見上げた。
「これは……凄い物だな……」
セレネは思わず感嘆の声を上げた。
「凄いでしょー」
「私達は常に地下一階の喫茶店に勤めてますが……」
「え、えーそうだったの!? ギルド主になったって言うから、最上階になんとか行けないかって」
「行けませんよ。最上階はVIP専用の入り口から、合鍵使って行かないと無理です」
「なる程ね……しかもまだ喫茶店に拘ってるとは……今度お邪魔します」
「どうぞどうぞ、常に閑古鳥が鳴いているので大歓迎です」
「あははー」
「こ、この魔ローダーは、何か特殊な……アレが、あるの?」
何とか話題に入ろうと、セレネが勇気を振り絞って言葉を発した。
「よくご存じで! 実は最初大型蓄念池を装備しようと計画してたんだけど、実際乗ってみるとむしろ逆に疲れが取れちゃう謎の特殊効果があって……なんか普通に乗れちゃいそう。て言ってもフルエレさんみたいに無限に乗れちゃう訳じゃないけどね」
「フルエレさんはそんなに凄いのか……」
セレネは魔ローダーを再び見上げた。
「メランちゃーん、休憩終わり? もう一回チェックお願い!!」
女性魔法技術者が近寄って来てメランを呼んだ。
「あ、はーい今行きます! じゃ、又ね! 砂緒さんは悪い人じゃないから!」
何故かメランは最後にセレネに一言声を掛けた。
「なあ、ああいう事言うのは止めて欲しい」
修理ドームから出ながら、セレネが真面目な顔で言った。
「心を閉ざしがちという部分ですか、すいません、悪気は無かったのです」
「そうだろ、私の為に言ってくれたんだろうと思うが、言わんで欲しい」
「はい、すいません、土下座したい程反省しています」
「土下座はもういい……」
二人は再び魔輪に乗った。




