それは貰えないよ……からの好きだー連呼事件
砂緒は恐ろしい早さで店から出て来た。
「はい、ドンッ!」
店から出て来た砂緒が、満面の笑顔で袋も何も無い裸で手渡した物は、髑髏処か全身骨格標本を小さくした様なシルバーの人形が、プランプランしているイヤリングだった。
「………………ハハハ、言葉も出んわ。まーお前のする事なんてそんな物だろうな、気が向いたら付けてみるわ、まあ有難うな」
セレネはひきつった笑いで、骨がプランプランしているイヤリングを受け取ると、そのまま髪を持ち上げ、耳に装着するしぐさをしてみた。
「テッテレー! またまた大・成・功!! 本命はこちらです、どうぞお受け取りを。そしてその骨がプランプランしている、素晴らしきイヤリングも贈呈致します」
そういうと砂緒はさらに得意満面の笑顔で、なにか高級そうな真っ赤なベルベットの小さな宝石ケースを渡した。
「…………どらどら」
セレネは骨イヤリングの次に渡された宝石ケースをパファリと開けてみた。
「………………これは……五万Nゴールドとかの値段じゃ無いだろ……」
キラッキラ光りまくる大きな宝石のイヤリングだった。砂緒は先程提示した宝石類全てを、あらかじめ準備していた……
「……こんな物を貰う謂れが無い。骨がプランプランの方は有難く貰うが、こっちはお返しするわ」
セレネはポコリとケースの蓋を閉じると、スッとそのまま砂緒に返そうとした。
「………………何故?」
砂緒は得意満面の笑顔から、すぐさま泣きそうな顔になった。
「いや、泣くなよ、こっちが悪い事してるみたいだろ」
言われて、突然砂緒は両手をピシッとまっすぐ天に向かって伸ばすと、凄まじく美しいフォームでスッと土下座をした。
「セレネさん、私と貴方の友情とこれまでの感謝のしるしとして、どうぞお収め下さい、お願いします」
突然の路上土下座に、通りすがりの人々がチラッと見ると、見てはいけない物を見てしまった様に、無視して通り過ぎて行った。見た人の殆どが、哀れな男が逃げる彼女を引き留めるシーンにしか見えなかっただろう。セレネは戸惑って一瞬キョロキョロした。
「ヤーーーメローー!! 馬鹿かっ分かったから、貰うから立てって、マジで立て」
貰うの一言で上半身を上げた砂緒の片手を引くと、セレネは砂緒を連れて、そのままその場を走り去った。
「本気でああいう事は止めてくれ。分かった、貰うよ有難う」
先程の現場を見ていた人が誰も居ないだろう範囲まで移動して来ると、セレネはかなり本気で怒った様子で言った。
「申し訳ない……また宝石を見せれば、凄く喜ぶと思い込んだ私が浅はかでした……」
声も表情も暗く沈み込み、砂緒は珍しく反省している様に見えた。
「………………はいはい、もう怒ってないヨー、高そうな宝石有難うな。今度付けてみるから」
宝石ケースを鞄に入れた事でホッとしたのか、砂緒はすぐさま笑顔に戻った。
(お前は赤ちゃんかよ……どれだけ素直で単純な性格なんだ。にっこにこして、どうせ又物で釣ってあたしの魔力を利用しようとか思ってるんだろ、分かり易いヤツめ)
セレネも合わせて、にこにこして見せた。
「そうだセレネ、ここら辺りで喫茶店で何か食べましょう!」
「え? あ、ああ、うーん、そうだな……」
二人して喫茶店に入ると、服が汚れない様な同じ物を二つ頼んだ。
「ご安心を、お会計は全てお支払いしますので」
砂緒はレシートをスッと奪った。
「そこまでされたら怖いわ。何か魂胆でもあるのかよ?」
セレネは静かに食べながら訝った。
「いえいえ! 何も無いですよ! 前々からこういう事をしてみたかったのですよ! 先程ハッと気付いてしまったのですが、これはもうデエトという物ですよね……」
砂緒はぽっと頬を赤らめた。
「いやいや違う違うデートじゃない、キモイ事言うなよ。イヤリング返すぞ」
「私先程からドキドキしています」
「話聞いてるか?」
(キスより先に進んだとか自慢げに言ってただろ……どんな歪な経験順してるんだよ)
セレネは両手の上に顎を乗せ、肘をテーブルに着いた。
「はぁ~~~~~暇だわ、そうだ砂緒、好きだー連呼してみてくれ」
両手で頬杖したまま、砂緒も見ずに言ってみた。
「あー良いですねーコホンッ行きますよ! セレネ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ。ジャスト三十回、ご満足頂けましたかな?」
砂緒はにこっと笑った。セレネは頬杖のまま、砂緒も見ずに少しだけ赤面した。
「お前の言葉のインフレ率ハンパないわ、好きだーが紙くずの様だ」
「言うよね~~~~~~~~~~~~」
砂緒は両手の指先を、ピッとセレネに指した。
「な、今の何!? ヨシッ! みたいなポーズ??」
「分かりません……私も体が勝手に動いたのです……」
「美味しかったですね~次はどこに行きますか? ウフフフフフフ」
やたらと嬉しそうな顔をする砂緒を見て、セレネはそう悪い気はしなかった。
「そうだな、歩くの飽きた。そろそろ魔輪に乗って走って帰るか……」
「えええええーもう帰るのですか? 深夜まで遊び歩かないのですか??」
「何でだ、そんな気全然無いわ。フルエレさんに相手にされんからって、私で誤魔化そうとするなよ」
砂緒は表情が消えた。
「…………………………違います」
(分かり易い、なんて面白いヤツ)
「はいはい、では帰る前に海岸線でも走って帰りますか?」
「はい! 行きましょう行きましょう!!」
砂緒は喜び勇んで小走りで駐輪場に戻った。




