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路面念車に乗って

 二人して階段を上り魔輪(まりん)を停める駐輪場に向かった。セレネは赤面が解け、すっかりいつもの調子に戻っていた。


「なあ~お前も一応冒険者ギルドの関係者なんだからさ、普通は事前にこっそりダンジョン攻略とかしておいて、希少なドロップ品とかを用意しておいて、それを何かの拍子にサプラーイズつって渡す方が感動しないか?」


 プレゼントを貰う本人が、どうすれば感動するかの指南を始めた。


「それで……本当に涙をポロポロ流して感動してくれるんですか?」

「いやー唐突過ぎて不気味がって終わりだろうなあー」

「でしょう。ですから最初からセルフチョイス方式でプレゼントしようと思った次第です。その方が嫌悪感もショックも少なくて済み、欲しい物があれば白物家念だろうが、魔車だろうが何でも良いですので……」

「プレゼント上げるのに嫌悪感とショック前提て、切な過ぎるだろ。てかバイト仲間からのプレゼントで、いきなり魔車もらったらそれも変だろ」


 二人は魔輪の前で出発せずに立ち話を始めた。


「確かに……猫呼(ねここ)から小遣いをもらっているので、うなる程金はあるのですが、だからと言っていきなり数百万Nゴールドの物を買い与えるなど、悪質なパパ活みたいですね……」

「パパカ? モンスターか? 金貰ってるのかよ……その金でプレゼント買うとか良い根性してるな」

「パパカはまあ確かにモンスター的な物ですね、では数万円程度のアクセサリーとか年相応な物としましょう。それなら猫呼に貰った金とは無関係に、喫茶店でのバイト代から捻出した程度の支出ですから。私のせめてものキス強要の反省の気持ちと思って下さい……」

「だからそれ言うな。べ、別に気にしてねーって。なる程……数万Nゴールド程度のアクセサリーな……だったらこっから北に向かって、大中州の近くの御天気通りにそんな店がいっぱいあるわ」

「それではそこに連れてってくだされセレネさんよ……」


 行先が決まり、セレネはスカートを押さえ魔輪に跨った。



 セレネが長時間かけて服を選んでいた頃、雪乃フルエレは路面念車・大中州駅で為嘉(なか)アルベルトと待ち合わせをしていた。冒険者ギルドのビルがある港湾都市中央駅から北に向かい、大中州駅から東に向かうと港湾市庁舎駅、西に向かうと離宮公園駅があった。


「やあ! こんにちは、待ったかい?」


 アルベルトさんが手を挙げて現れた。


「あ、いいえ今来たばかりです、こんにちは、今日はよろしくお願いします!」


 フルエレはペコリと頭を下げた。


「いやいや堅苦しくしないで。一緒に君のアイディアの、市庁舎と離宮どちらが政庁移転先にふさわしいか考えて欲しいんだ」 


 アルベルトさんは手を振った。


「私のアイディアだなんて……みんな考えていた事だと思います……」

「結局会議場を借りる程度じゃ無くて、本格的にハルカ城からこっちに政庁を移転する事になったからね。移転するとなると、市庁舎に間借りしつつ新たな建物を建てるか、前王様の離宮に移転するか、二つに一つだろうね」

「両方を……という手もあると思います。市庁舎に間借りするというのも限界があるでしょうし……」

「でも……豪華な離宮に移転してしまうのもどうかな……とも思う」

「それでも使用せずに放置するのも、それはそれで勿体無い気が……」


 港湾都市にある歴代ニナルティナ王達が遊んだ離宮の城は、今は使用されず放置されたままになっていた。


「お、念車が来た……」

「うわ……すっごい混んでる……あれに乗るの??」


 二両編成の路面念車は身動き取れない程……という訳では無いが、パーソナルスペース等は皆無な程の混雑となっていた。


「でもこれに乗らないとね」

「は、はい……」


 二人は三十センチ程離れて、向かい合って念車に乗っていた。熱い議論を交わした先程とはうって変わって、お互い黙り込んでいた。まだ破壊の跡が生々しい市街を通る、混雑した車内で移転とか政庁とかの会話はしたく無かった。


(うわーなんか気まずい)


 雪乃フルエレは何か話題はないか必死に探した。


「何だか凄く混んでますね。路面念車がこれだけ混んでるなんて……ゆっくり景色を見るなんて雰囲気じゃないですねっ」


 景色が見れたら見れたで、破壊されたビル群等を見てしまう事になるが……


「そうだねーはは」


 ぎこちなく会話をする二人。


「そりゃーね、雪乃フルエレとか言う人が大中州を中心に大暴れしたからだよ! あの人が路面念車をぜーーんぶ壊しちゃって、残っているのはこの二両だけ! それで混んでるのよ、嫌ゃ~ね!」


 突然二人の真横に立っていた、上品なマダ~ムが話し掛けて来た。


「………………」


 黙り込んで俯くフルエレ。


「違いますよ! 路面念車を潰したのは、突然現れた魔竜達と濃い色の魔ローダーですよ、私目撃しましたから!」


 今度は別のサラリーマン紳士が訂正してくれた。ナイス紳士! とアルベルトさんは思った。


(路面念車をボンレスハムの様に盾に使ったのは本当だし……何も言えないよ)


 フルエレはとにかく違う話題に転換したかった。


「あ、アルベルトさん先程から何回も喉をごくごく鳴らして、凄く喉が渇いているんですね!」

「え!?」


 フルエレは本当に何の気無しに、思った事をぽろっと言ってしまっただけだった。


「あははははは、嫌ゃ~ね! 彼氏さんは可愛い彼女さんとこんな近くに居て、緊張して生唾飲み込んでいるのよ許して上げてお嬢ちゃん、良家の許嫁同士かしら? まあ初々しいわぁ……私までドキドキしちゃいそう、ほほほほほ」


 またもや上品なマダ~ムが凄く余計な事を言ってくれた。

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