ウェカ王子と行き倒れの瑠璃ィ……
―北方列国、最西側の国ラ・マッロカンプ王国。
「ウェカ王子様は!? ウェカ王子さまはどこに行ってしまったのですか?」
セクシーなメイド姿の侍女が、しばしば城内で行方不明になる王子様を探しておろおろしている。
「ご安心を、ウェカ王子様なら新しく届いた魔ローダーを見に、新築した格納庫においでで御座います」
「そうなのですか、また城を抜け出したのかと……」
紳士な執事に教えてもらい安堵する侍女だった。
「ウェカ王子様、魔ローダーは大変危険な物で御座います! 血反吐を吐いて倒れる者もいるとか! とにかく直ぐに、お降りを!」
家臣達がユティトレッド魔導王国からようやく届いた二機の魔ローダー、ジェイドとホーネットのどちらかの操縦席に消えた王子様を、心配しておろおろする。
「これが……魔ローダー、ジェイド。行ける、全然動かせる!!」
王子が言う通りにジェイドの目がビカッと光った。おおおと声を上げる家臣達。
「これがあれば、僕の大切な許嫁の依世ちゃんを助けにいける!!」
依世ちゃんとは、ウェカ王子が幼い頃、幼稚園交換留学生として一年だけ一緒に居た、天使の様に可憐な幼女だった。しかし十三歳の今になるまで再会は果たしていない……
「依世ちゃんは僕が友達も出来ず、一人で三角座りをしていた時、優しく笑顔で話し掛けてくれた……それに悪い奴らにいじめられてる時も、依世ちゃんはまるで暴力を楽しむ様に、笑いながら悪い奴らを魔法でフルボッコのボッコボコにしてくれた……今度は僕が依世ちゃんを守る番だよ!!」
ウェカ王子が念じると、今度は魔ローダージェイドの腕が動いた。おつむの方はアレっぽいが本当に魔ローダーを動かす才能はあった様だ。
「そして……依世ちゃんは、ラ・マッロカンプの依世姫として末永く僕と幸せに暮らすのさ、ぐふふふふふふふふふふふっふ」
ウェカ王子の幼き日に依世という可憐な幼女がやって来て、数々の危機を救ってくれた事は事実だったが、将来を約束するだとか許嫁だとかは全て王子の妄想であり、今は依世は何故かメドース・リガリァに捕まっているという設定になっていた……
「んじゃー魔ローダーも見たんで、日課の依世ちゃん探しに市場に行って来まーす!!」
大して疲労した様子も無く、ウェカ王子は操縦席から飛び降りると梯子を伝い、元気に走って行った。
「また……依世ちゃん依世ちゃんと……」
周囲の者達はウェカ王子が、また妄想で作り上げた娘の話をしていると不憫に思っていた……
そして市場。ウェカ王子は敵国に捕まっているという自己設定の依世を、自国の市場で探すという矛盾した日課をこなしていた。
「依世ちゃん依世ちゃんどこかな~~~むふふふ」
「また……ウェカ王子様が来たよ……依世ちゃん依世ちゃん言ってる……魔性の娘だね、怖い怖い」
市場の人々は眉をひそめた。
「わ、若~~~い、いずこへ~~~」
棒を杖代わりにして歩く、ボロボロの姿になった瑠璃ィキャナリーだった。
「はぁはぁ……お供の者とはぐれてまうし、若君は見つからへんし、もう死ぬ~~あの方に殺される~~~はぁはぁ」
「はい、僕がウェカ王子ですが?」
ふらふらの瑠璃ィの目の前に突然ウェカ王子が顔を覗かせる。
「はぁはぁ……ぼんぼん誰やーっ。うちが探してる若君と違うわーっアホー」
数日間食事をしてないにも関わらず、本能と気力で突っ込む瑠璃ィ。
「僕だって、依世ちゃんを探してる最中なんだよ! こんな化粧の濃いバ、いやあ妙齢なお姉さまには用は無いやい!」
ウェカ王子は立ち去ろうとした。
「ぼ、ぼんぼん、飴ちゃんいるか……」
瑠璃ィはふらふらになりながらも、スッと掌の上の飴ちゃんを差し出した。
「な、何故!? そんなにお腹空いてるなら自分で舐めれば良いじゃん!」
「駄目なんや、人に上げる分の飴ちゃんは、自分で食べたらあかんのや!!」
瑠璃ィは号泣しながらも自身のポリシーを叫んでいた。
「ふっ、バいやお姉さん僕が王子様でラッキーだったねっ! 周りに隠れてる家来ども、このバいやお姉さまを、お城に連れて行くのだっ!!」
「ハハッ!!」
市場の商人や通行人に変装して紛れていた、お城の者達がささっと現れる。そのままぐったりする瑠璃ィを運んで行った。
「依世ちゃーーーん、見ましたかーーー?? 今行倒れのバ、いやお姉さまを助けました! 僕は立派な王子に成長していますよーーっ!!」
いきなりぐったりした女性を城に連れ去った王子を見て、一般の人々はこの王子ますます頭が怪しくなって来たと、ひそひそ悪口を言い合った。




