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本当の本当に偶然たまたまだったんだっ! 下


「い、いえ、入ります……」


 若い女性が恐々店内に入ると、残りの集団もぞろぞろ従った。


「何しやすかー? お勧めは砂糖水スー」

「じゃあ砂糖水八つ」


 冗談を真に受けた。余程余裕が無いのだろう。


「何か……他に用向きでもあるんでしょうか……?」

「……そうなんです……実は、私達フルエレさんに謝りたい事があって……」

「帰って下さい!!」


 雲行きが怪しくなって来た事を察知して、砂緒が珍しく突然怒鳴った。


「あの……私に……な、何か用かしら?」


 フルエレが恐々、しかし何かを期待して、不安と期待が入り交じりという感じで寄って来る。


「あ! フルエレ何故来ちゃうのですか!? 奥に居て下さいって!!」

「フルエレさんごめんなさい!!」

「ごめんなさい!!」


 若い男女数名が同時に立ち上がって謝罪する。


「ど、どういう事でしょうか? 何でしょうか……」

「実は親が突然ギックリ腰になって」

「兄の嫁が出産して」

「突然同僚が休んでのっぴきならない仕事が出来て」


 口々にどうやら別荘でのパーティーを休んだ理由を述べ始めた。


「あれからアルベルトにどえらい剣幕で怒られて……」

「普段怒らないアルベルトが半泣きで怒って来て」


 ここに居る男女はアルベルトの親友達の様だった。


「アルベルトさん、レナード公も居るんですね」

「済まない!! フルエレ君!!」


 突然立ち上がって謝罪するほっかむり男A。


「いやー俺なんて、政庁を港湾都市に移転する政務が入ってしまってさ~」

「あっ……」


 レナードはもうほっかむりを取って話した。それを見てアルベルトも変装を脱ぐ。


「本当に本気で怒られてね、私ら友達連中全員、本当の本当に偶然七人共用事が出来て、パーティーに行けなかったの」

「アルベルトがフルエレさんという人を、よっぽど大切に思っている事が判って、こうして皆で謝罪に来たのよ……本当にごめんね。彼、貴方を傷付けるつもりでも騙すつもりでも無かったの、そんな事をする人間じゃないのは私達が保証するよ!」

「な、何を今更……ねえ? フルエレ……」


 砂緒はフルエレを見た。


「皆さん……わざわざ私の為に……有難う……それにごめんなさい」

「ふ、フルエレ……あの、旅の話とか……その……」

「砂緒ごめんね、今ちょっと立て込んでるから……」


 フルエレはあからさまに態度を変えて邪険にした。


(はぁ……酷いよフルエレさん……砂緒、ぶてっ! 蹴れ! 蹴り倒せ!!)

「は、はぃ……」


 セレネはコケた。砂緒は何一つ口答えする事無く、力なく言われた通り店の奥に移動した……


(はぁ~理解出来んわこの二人……)


 シュンとして店の奥に消えた砂緒を見て、アルベルトは勝ち誇るどころか、凄く申し訳ないという顔をした。


「砂緒君は、よっぽど君の事を心配していたのだろうね……今日は仲間が来ないと判った時点で、君を玄関から奥に入れるべきでは無かった。仲間が来ないと知っていたのに、君を部屋に入れてしまえば、二人でもパーティーが始まると考えた僕は正直馬鹿だったと思う。反省している。今まで通り接して欲しいというのはムシが良すぎると思う。けれど大臣会議には出て欲しい。君にはそうした才能があるはずだから、そういう物を僕の馬鹿さ加減で壊したくないんだ」


 アルベルトは誠実に頭を下げた。


「い、いいえ頭を上げて下さい! 私が色々考え過ぎて、考える必要無い事まで考えてしまって、逃げ出す様に出てっちゃって、失礼しました……ごめんなさい」


 フルエレもペコリと頭を下げると、しばらくして二人して頭を上げ照れながら笑い合った。


「で、でも……砂緒君にも謝りたい……彼はきっと……君を」

「あ、ああ、違うんですよっ!! 砂緒はそういうのじゃ無いんです! なんていうか新しく出来た幼馴染っていうか、だから私から軽く言っておきますからっ!」



 砂緒は少し離れた奥でしっかり聞いていた。


「新しく出来た幼馴染……とな? そ、それはつまり最終的に一番大切な人……という意味ですよね?」

「あ、いやー私が(まんがを)読んだ限りじゃー幼馴染は大抵負ける」


 セレネの何気ない一言を聞いて、ついに砂緒は無言で膝から崩れ落ちた。


「あわ、あわ、あわわわわわわ……」


 ぶつぶつ言葉を発しながら呆然とする砂緒を見て、普段傍若無人で無神経な砂緒が、ここまで素直にフルエレの言葉に従う理由が良く分からなかった。


「フルエレ……ふ、フルエレ……」


 力なく名前を連呼する砂緒を見て、セレネは気付くと、何故か優しい笑顔で無意識に頭をぽんぽんしていた。


「ほえ?」


 幼子の様な目でセレネを見上げる砂緒。


「ち、ちちちちちち、違うっ! 程よい高さの位置に頭があったんで、バスケットボールと勘違いしてポンポンしただけだ、馬鹿ッ!」


 セレネは何故か赤面して去って行った。

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