フルエレ、泣きながら帰る……
砂緒らはなんとかフルエレが別荘に入り込む前に間に合った。別荘の周囲には私費で雇った警備兵が何人か居たが、クレウの完璧な隠蔽魔法によって感付かれる事は無かった。
「ああ、いらっしゃい!! よく来てくれたね……どうぞどうぞ入って!!」
「はい、お、お、お邪魔します……」
「凄く可愛い服だね……」
「有難う御座います……」
段々二人の会話が聞こえなくなる。
「向こうに砂浜が見える、大きなテラス付きの見晴らしの良い部屋がある。そこから中を覗くと料理や飲み物がずらっと並んでるから、そこがパーティー会場らしいな」
セレネが早速建物の概要を把握して小声で砂緒らに報告する。
「セレネ様凄いです……速さ正確さ、とても熟練した戦士の様ですね」
クレウが目を見張った。
「でもなあ……料理は並んでるが……他に人が一人も居ないぞ……複数の男女の友達てなどこだよ」
「…………許せないです……フルエレがあそこまでうきうきして、自分を友達に紹介してくれる事を期待しているのに、フルエレの純粋な気持ちを弄んで……殺します」
砂緒はいつものふざけた表情では無く、本気で殺気立った顔をしていた。
「ま、まあもうちょっと待て、サプラーイズでどこかに隠れてて、クラッカー撃ちながら出て来るかもしれないぞ……」
(そんな気配は無いけど……)
セレネは思ったが何も言わなかった。少しだけ砂緒の前でフルエレがショックで泣く姿を見せてやりたいと、残酷な気持ちが出ていたからだった。決して性格が悪い訳では無いセレネが、何故そんな意地悪な事を思ったのか、彼女自身も分からなかった。
「パーティー会場はここだよ!」
アルベルトがドアを開くと白い砂浜が見える絶好のロケーションの素晴らしい部屋だった。テーブルの上には料理や飲み物が並び……しかし居るはずの人々が誰も居なかった。
「……まあ凄く綺麗な所!! ……あの……お友達の方達は??」
ガラスの向こうには砂緒達がヤモリの様に張り付いているが、もちろん彼女らには見えない。
『お、おい何言ってるのか全然分からないですが』
『防音ガラスになってますね……』
『防音ガラスって時点で変じゃないかっ! 突入だ突入!!』
『しーっ砂緒殿、静かに! 声は消えませんぞ!』
「………………済まない……男女の友達七人が来る予定だったんだが、突然全員急な用事が出来て来れなくなったんだ……」
アルベルトは突然頭を下げた。
「…………………………えっ?」
それまでのうきうきしたフルエレの表情が消え、思わぬ報告にみるみる曇った表情になる。
(はぁ~~~~~、いいですかフルエレ? 男女のお友達が沢山来ると言っていますが、そのお友達は全員急な用事が出来て、実際には一人も来ません)
(来るわよ)
フルエレの頭の中に砂緒との会話が蘇る……
「………………で、でも折角料理や飲み物も用意してしまったし、一緒に景色を見ながら、た、楽しま……」
(逃げるフルエレの手首をガシッと掴み、野卑た表情でこう言うのです! へへへこんな所までほいほいやって来て間抜けな女だぜっ、そろそろジュースに入れた南蛮渡来の媚薬が)
「ご、ごめんなさい……私家族の者に、二人きりは絶対駄目だと言われてて……今日は帰ります……」
フルエレは泣きそうになって、終始下を向いたまま小声で話した。
「あ、で、でも……折角だし少しだけでも……」
明らかにいつもの冷静なアルベルトと違って、狼狽した様子でフルエレの手首を軽く掴んだ。フルエレはその途端に驚いてアルベルトの顔を見た。あせった彼はいつもの輝いた顔には見えなかった。
「いっやっ離してっっ!!」
フルエレは全身を揺すって手首を振ると、アルベルトは抵抗する事無く、ぱっと手を離す。
「済まない、痛かったかな?」
「……私もう帰ります」
「あ、じゃあせめて玄関まで送るよ……」
「大丈夫です、もう出口まで把握しました。じゃあ」
フルエレは再び終始下を向き、アルベルトの顔も見ないで小走りで出て行った。軽く涙が出ていた。
『あ、私がフルエレ見て来る、もし見つかっても一番ショックが少ないだろうからな!』
イェラとクレウが走って行った。隠蔽魔法をかけている同士はお互いの姿が見える為、セレネが砂緒を見ると砂緒は涙を流していた。
『お、おいなんでお前が泣いてるんだ……』
『あれだけうきうきして出て行ったフルエレを泣かして……可哀そうでなりません』
『お、お前……案外優しいヤツなんだな……』
『もう……良いでしょう、一緒にアレを八つ裂きにしましょう』
「さっきから、あそこで物音や話し声が聞こえないか?」
「ん、言われてみれば……おい! 誰かいるのか!!」
『やばい見つかった! 私らも行くよ砂緒!!』
『八つ裂きにするのはいつでも出来ます。フルエレに承諾を得て実行しましょうか』
砂緒とセレネは警備に見つかって大事になる前にその場を離れた。




