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砂緒さんは心配しよー 上

「とても美味しかったです。でも少し緊張しちゃった……」


 軽く赤面しながらも、にこにこしたフルエレが夕食会会場となった豪華な部屋から出て来る。


「僕も嬉しかったよ、先程の話……楽しみだよ待ってる」

「は、はい……私も皆さんにお会い出来るのが今から楽しみです!」

「お嬢さん……今度は二人きりでお食事なんて……無理ですよねーはいはい」


 和やかなフルエレとアルベルトの雰囲気に、どさくさ紛れにレナードがイェラを誘うが、恐ろしい形相で睨まれる。それを眼鏡が無言で見ていた……


「それではまた……」

「それではごきげんよう……」


 等と口々に別れの挨拶をするフルエレ達を、砂緒とセレネは少し距離を取って、無言で細目でじーっと見ていた。



 ハルカ城からの帰り道。


「ふぅ、やれやれです。ようやくブラジルから解放されましたね。疲れたでしょう?」

「変な言い方しないで、とても楽しかったわ」

「変な奴が一人居たが、食事はとても美味しかったぞ!」


 イェラが言う変な奴とは城の主であるレナードの事である。


「とても羨ましいです……次は私も仲間外れにしないで下さい。それよりも心配している事があります」

「何何ー?」


 フルエレは超ご機嫌だ。


「ああいう手合いはフルエレの様な可愛い女の子が居ると、かなりの確率で別荘に誘おうとします。もし誘われても絶対に断って下さいね……」


 砂緒はリムジン型魔車の中で指を立てて念を押した。


「え……もう今日誘われた……」

(はやっ、フルエレさんちょっと早いよ……)

「は? 即座に断ったのですよね??」

「んんん、行くって言っちゃった……」


 フルエレは事も無げに答えた。


「何ですと!? 何やってるんですかイェラ!」

「スマン、特殊事情があって、あまり会話に入れなかったのだ……私もどうかなと思ったぞ!」

(お、おい大丈夫なのかよフルエレさん……)


 セレネは会話には入らず無言で聞いていた。


「心配し過ぎよー、それにアルベルトさんのお友達が男女とも沢山来るのよ! 皆さんに私を紹介したいって!! 海の見える素敵な別荘らしいわっ」


 フルエレは、わくわくした目で両手を合わせてときめいた。砂緒は頭を抱え激しく振った。


「はぁ~~フルエレは何も分ってらっしゃらない。その別荘は小島とかじゃないですよね? ちゃんと陸上にあって脱出口は確保されてるのですよね??」

「城攻めじゃ無いのだから……大げさよ……何を言っているの??」


「はぁ~~~~~、いいですかフルエレ? 男女のお友達が沢山来ると言っていますが、そのお友達は全員急な用事が出来て、実際には一人も来ません」

「来るわよ」

「来ません! そして帰ると言うフルエレにこう言うのです、くっくっくっ此処まで来ておいて帰るだと! 帰らせる訳ねーだろ、バシッあうっっ、倒れこむフルエレ」

「きゅ、急に演じだした!?」


「逃げるフルエレの手首をガシッと掴み、野卑た表情でこう言うのです! へへへこんな所までほいほいやって来て間抜けな女だぜっ、そろそろジュースに入れた南蛮渡来の媚薬が体を巡って来る頃合い、体中が火照って来たであろう……」

「何時の間にジュースを飲んだ? 展開としてぎこちなさがあるぞ!!」

「うるさいですね……や、やめて下さい!! 人を呼びますよっ!! へへへここは海岸沿いの別荘、周囲には誰も居やしねえさ、もういい加減諦めて大人になれよ……びりびりびりっ!! いやあああああああ、こ、こんな事なら大好きな砂緒の言う事を聞いておけば……ううう」

「迫真の演技過ぎてキモイわ……」


 遂にセレネが声を発した。


「そして最終的にはブルーフィルムを撮影されて、それをネタに弄ばれ続けるのです! 私は想像しただけで卒倒しそうな程怒りに打ち震えていますよ。よしクレウ、一緒にやりに行きましょう!!」

「ブルーフィルムて何だよ……」


 呆れるセレネ。砂緒は何を思ったか、走行中のドアを開けようとさえする。


「止めて……本気で怒るわよ。アルベルトさんがそんな人な訳無いじゃない!!」


 フルエレは冗談が通用しそうにない表情で語気を強めて言った。


「い、いいですか、ふ、フルエレ……ああいう連中は……」


 砂緒も顔がひきつりながら必死に食い付こうとする。


「止めて……それ以上言ったらぶつわ」


 うっすら涙を滲ませながら、フルエレは手を上げる動作をした。皆はフルエレがそこまで入れあげている事に驚いた。もはやフルエレの想いは手が付けられない状態になっていた。


「あわ、あわ、あわわわわわわわわわ……」


 普段は清純でお淑やかな? と思っているフルエレにぶつとまで言われて、砂緒はもう言葉が出なくなった。初めてフルエレと出会った時野蛮なニナルティナ兵に襲われそうになっている所を、面倒ごとだとあっさりスルーしていた彼が今や父親の様に砂緒さんは心配性になっていた。

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