雪乃フルエレの一喝、 港湾都市への遷都提案
「わ、私が言います。アルベルトさんにも迷惑が掛かるといけないし……」
「大丈夫かい? 無理しないで」
フルエレが発言するとあって議場は静かになった。フルエレは極度に緊張して深呼吸を繰り返した。
「はぁ……あの……私は……戦闘中に、両親を探す、子供と出会って……孤児のケアが大事だなって……あと、建物の再建も進めないと……」
フルエレはいつもの砂緒への剣幕と違って、緊張で消え入りそうな声でぼそぼそとしゃべった。セレネは我が事の様に応援して、力を込めて手をぎゅっと握って見つめた。
「それだけですかな?」
「孤児のケア等と、如何にも女性が好みそうな話題ですなあ」
「小鳥のさえずりかと思いましたぞ……」
注目のフルエレの発言が終わると、古参の政治家達は口々に言い合ってゲラゲラ笑った。
「あいつと、あいつとあいつ、これが終わったら即座にやりましょう」
「お、意見があったな砂緒、あたしももう我慢ならないよ」
セレネと砂緒がわざとフルエレに聞こえる様に大きめの声で話したが、意気消沈したフルエレはもう振り返って睨む事すらしない。
「良くやったよ、初めてでこれだけ多くの重臣の前で発言出来たんだ、これから頑張ろうね」
「は、はい……ごめんなさい、いろいろ計らってくださったのに……」
フルエレは自分でも意外な程声が出なくて、意気消沈して消え入りそうな状態だった。
「天使の様な容姿じゃ、大方アルベルト殿かレナード公に可愛がられているのだろう、ベッドの上程大きな声は出ませんでしたな。私事と公務は区別して欲しい物じゃ、ほほほ」
「ちょっと待て! 今なんつった??」
最後の老人の言葉を聞いて、繊細だがキレやすいフルエレが突如ぶち切れした。
「大体貴方達何なのかしら、前ニナルティナが崩壊した戦いの時に、真っ先に前王様を置いて、逃げ出した連中でしょ! それが何で今大きな顔で戻って来れるの??」
突然雪乃フルエレが大きな声で話し出して議場はシーンとなった。
「今愛人がどうだとか言っていた人達、私にはいろいろ調査出来る人がいっぱいいるのよ、一人一人財産を調査してあげましょうかしら? 色々面白い物が出て来るのじゃないかしら?」
フルエレのこの言葉を聞いて大半の者が血の気が引いた。砂緒が満面の笑みでガッポーツをした。
「衣図さんが侵略して来る訳無いでしょう! それにそんな事言うくらいなら、この城は一体何なのかしら? この城全てユティトレッドの兵達に守られて、自分達の城も自分達で守れないでどうするのかしら?? ここにいる古参の大臣の皆さん自ら剣を持って、今すぐ衛兵と交代されたら如何かしら?」
セレネとイェラが無言でハイタッチした。
「港湾都市には浪人となった旧ニナルティナ兵が溢れています。彼らを再雇用し一刻も早く新ニナルティナ軍を再建するべきでしょう」
事前に砂緒が言っていた事を、雪乃フルエレは危うく忘れる所だったがようやく言えた。
「私今日ここに来て強く思いました、ここハルカ城に居ては駄目になると。ここに居ては市井の事は何も分かりません。私は政治の中心をここハルカ城から、人口が最い多い港湾都市に移すべきだと思いますわ!!」
雪乃フルエレの一喝から、今度は突然大胆な遷都の意見が出て多くの者が衝撃を受けた。
「そ、それは……言い過ぎではござらんか」
「そうだ……政治の中心を移すなど」
「自分が通うのが楽になるからであろう……」
再び口々に不満が漏れ始めた。
パチパチパチ……
突然レナードとアルベルトが拍手を始めた。
「実は……ここハルカ城から北の港湾都市に政治の中心を移す……それは僕もレナードも考えていた事なんだ。しかしそうすると僕の本貫地に我田引水している様に思われる……そう思って言えずにいた。だけどフルエレ君の発言を聞いて決心したよ、僕もレナードもその案に賛成だね」
「フルエレちゃんに俺も賛成っ!! うん、そういう訳だ、という事で次回の会議はどこか適当に港湾都市の会議場を借りて行うわ、皆もそのつもりでな!! んじゃ閉会!! やれやれ」
二人があっさりと雪乃フルエレに賛成して、さらに皆が衝撃を受けた。フルエレ一味はざまあ見ろという感じで笑顔でふんぞり帰った。ぞろぞろと重臣達が議場を後にしていく。ちらちらとフルエレ達を恨めしそうに見る連中も居た。
「怖かったぁ……色々言ってしまって……凄く恥ずかしい……」
フルエレは冷静さを取り戻し、激しく赤面してアルベルトの顔が見れず俯いた。
「いいんだよ、あれで良いんだ。素晴らしいよ、それでこそだ」
アルベルトはフルエレの肩に手を置いて励ました。
(み、未〇や〇えか?)
砂緒はすぐさまアルベルトにぶりっこしたフルエレを呆れて見た。
(フルエレがあんな感じだと言うのは私が先に開拓した事ですっ! 偉そうに語るなっ!!)
砂緒は二人の様子を無言で見守り続けた。




