重臣会議でがんばりますっ!
「これより新ニナルティナ公、有未レナード様よりご挨拶がある、皆も良く聞くように」
家臣より伝えられると皆が改まった。レナードは間近に座るイェラの顔を見るとバチッとウインクした。イェラは遂に気付かれたかと、あからさまに嫌悪する顔をして背けた。セレネじゃない方の眼鏡はそんな様子を遠くから無言で見ていた……
「あーー、うーー、俺が、いや私がユティトレッド王より新ニナルティナ公に就任する様命令、いや推薦されたレナードだ。あーうー、スピーチとほにゃは短い方が良いなどと格言にも言うが……」
挨拶が始まって数十秒で、この場で聞いている皆が、この公は怪しいぞと感じた。
「アルベルト様、緊急の伝令が……」
使いの者が慌ただしく伝令を伝える。元々スピーチが拙いレナードはその動きに調子を崩して挨拶を止めてしまう。
「なんだ、なんだ、どうせなら緊急伝令とやらを皆の前で言ってくれ」
「は、はぁ……」
「いいよ、言いたまえ」
何か余程皆がアルベルトの方がしっかりしていると察知したのか、アルベルトの許可で動く。
「使いの者共からの緊急伝令では、メドース・リガリァが破竹の勢いで領土を広げ、遂にユッマランドにまで侵攻を開始したとの事です!!」
その報告に議場にどよめきが走る。
「なんだ何だその程度の事かよ……挨拶を再開するぞ、あーうー、ほにゃとスカートは短い方が良い等と格言にも言うが……」
これでも事前に余程練られた挨拶だったのか、同じ文言から再開する。
「お、おい伏字にする方を間違っているのでは……」
アルベルトが慌てていると、伝令の第二弾が部屋に入って来てアルベルトに耳打ちする。
「何だ何だぁ? また伝令かよ……」
「おお、まさにニュース速報ですね。私もニュース番組を観ていて、今入ったニュースです……とキャスターが言うとある種のときめきを感じた物です。でも大抵大したニュースでは無いのですが……」
「すまん、本当に何言ってるか分らん、ていうか話し掛けんな」
セレネはなるべく小さな声で応えたが、フルエレに聞かれてキッとした顔で振り返って砂緒を睨む。砂緒はシュンとして黙った。
「ほれ見ろバーカ」
「もうそれも皆の前で報告してくれ!!」
結局伝令第二弾の報告も始まった。
「はいでは……ユッマランドに侵攻したメドース・リガリァですが、両国の魔ローダーが激突、激しい戦闘の末、両軍の本軍は戦闘を開始しないまま和議が成立したとの事です」
「おおお……遂に列国にまで手を出したか」
「魔ローダー同士の戦い?」
会場がざわつく。時間的に半日程のタイムラグのある報告が一気に伝わった様だった。
「えーほにゃとほにゃは短めにだったかな……」
無理やり挨拶を再開したレナードだったが、グダグダ過ぎて訳が分からない状態になっていた。
「こらレナード、今の報告を加味した挨拶に組み立て直すんだ! 臨機応変な公の器量を見せて古参の連中の信用を得ろ!」
アルベルトが耳元でレナードに発破を掛ける。
「そうだな~メドース・リガリァは俺たちを避けて戦っている様に見える、俺たちが慌てる程の事でもないんじゃね? 俺たちには無敵の魔ローダーに乗る雪乃フルエレ君も居るしな、ナハハハハハハ」
レナードは衣図と戦いを繰り広げていた当時より知能が退化してしまった様だった。雪乃フルエレはいきなり自分の名前が出されてドキッとした。
(勝手に私の名前を出さないでっ)
(駄目だ馬鹿殿さまだ……)
(前王は専制君主、この公は馬鹿殿……ニナルティナはどうなるのか……)
この場で話を聞いている者皆が不安な気持ちになった。
「み、皆、前王は専制的な政治を行った為に、ニナルティナは無意味な戦争を繰り広げ、やがて亡びる結果となった。新ニナルティナはそうした過ちを繰り返さず、これからは多くの家臣の意見を聞こうと思う……そういう意味の事を公は仰っているのだ、皆も忌憚なく意見を言って欲しい」
アルベルトが何とか無理やり話を纏めると、あっこの人が実質的な国のかじ取り役だな……と皆が薄っすらと悟った。続いて大臣や将軍たちからの政策提言が始まった。
「北の荒涼回廊にある我らの飛び地との連絡が途絶えております。希少な金属や鉱物がどうなっておるか心配です……速やかに調査団を派遣するべきです」
「前ニナルティナが崩壊した時に、王城から大量の金銀財宝が運び出され行方不明になったままです。前王が蓄えた財宝を見つけ出せば財政の助けとなるでしょう……」
「そんな良く分からない財宝を探すよりも、税率を上げ確実な財源を確保するべきです」
「前王国が行っていた様に、域外の帝国に対して奴隷を売り、珍しい文物を手に入れるべきでしょう」
有効な物から物騒な物まで色々多種多様な意見が出た。
「我らが失った東ニナルティナの領土、そこに入った衣図ライグという者の動向が不明です。いつ何時奴らが攻め込んで来るか、早急に対処が必要でしょう……」
「ありえん!」
「衣図さん達が侵略するなんてありえないわっ」
砂緒とフルエレが同時に声を上げる。一斉に二人に視線が集中した。
「そうだ、今回の会議の目玉である子供大臣殿、この方のご発言がまだ無いようですな」
「おお、美しいフルエレ殿のご意見が聞きたいものだ」
「さぞ素晴らしい数々の提言があるのでしょうなフフフ」
古参の政治家達が口々に言い合う。
「良いんだよ、今日は話を聞くだけで、無理に何も言わなくても……」
アルベルトが優しく声を掛ける。
「よし、代わりに私が発言致しましょう。取り敢えず気に入らん連中を片っ端から指名して処刑します」
「ダメーッ!」
フルエレが慌てて砂緒を制止する。




