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フルエレ、聞いていた話と微妙に違いますが… 上


「ほら見て! ほら見て! 薄い桜色のスーツ、似合うかしらっ!?」


 薄いピンク色のフォーマルなスーツを着て、フルエレが嬉しそうにくるくる回っている。


 エレベーターガールが好きな砂緒(すなお)にとっては、大好物なジャンルだがフルエレが何故これほど、うきうきしているかの理由は明白なので、褒める気にならなかった。


「そうですね、それも良いですが、今日は敢えてTシャツとデニムジーンズで庶民感を演出してみてはどうでしょうか?」


「そんなの良い訳無いでしょっ!! アルベルトさん何て言ってくれるかしら? 似合うって言ってくれるかな……」


 砂緒はさらにうんざりした顔になった。


「フルエレ……私にそれを訊きますか?」


(あれーフルエレさん無神経過ぎるな……さすがの私でも砂緒が可哀そうに思えて来るよ……)


「セレネ、どう思いますか!? 酷いですよね、あんなド変態野郎のご機嫌をシュミレートしろ等と、正常な私には判断しかねます」


「ヒャハハッ!! せいぜいフルエレさんの練習台としてしっかり役目を果たすんだなっ!」


 いつぞやの学校の制服を着たセレネは指を差して笑った。


(素直に……なれない)

「練習台……? わ、私はフルエレの練習台だったのでしょうか……??」


 エレベーターホールからイェラが走って来た。イェラもフォーマルなスーツを着ている。高身長のイェラが着るとまさに颯爽としたモデルその物の綺麗さだった。


「イェラ……美し過ぎですよ! 見惚れてしまいます!!」

「有難うなっ!」 


 イェラは少し照れてにこっと笑った。


「そうだそうだ、もう表にリムジン型の魔車が待っているぞ、早くしろ!! 猫呼(ねここ)、留守を頼むぞ!!」


「なんだか久しぶりだわぁ……百名もの部下にそれぞれ新しい役目を与えるのって、骨が折れるのよね……でも、皆よく働いてくれるの……私、そういう才能があったのかなあ? イェラも皆をよろしくね、それにクレウ、フルエレをちゃんと守るのよ!」


 なんだかちょっと嫌味っぽくなった猫呼がクレウに指示した。


「ね、猫呼さま……猫呼さまぁーー! お会いしたかったです!! うっうっ」


 背の高い大人の男のクレウは、突然猫呼に足を折り子供の様に泣いてすがり付いた。


「良い子良い子、クレウは良い子ね、泣きたい時は泣いて良いのよ、むしろ泣きなさい……」


 クレウが抱き着いても一切たじろぐ事無く、猫呼はクレウの背中をポンポン叩くと優しく撫ぜた。


 周囲の者達は何か直視してはいけない物の様な気がして、無言で視線を逸らした。砂緒だけは面白過ぎるシーンをにっかり笑って凝視していた。


「では、しゃんとして行って来なさい……」

「は、はい、行ってまいります!」


 クレウは涙でぐしゃぐしゃになった顔をハンカチで拭くと、元のクールなイケメン顔に一瞬で戻った。


「皆、もう本当に時間が厳しい、さっさと早く出発しろ!!」

「そうね、それじゃ行きましょう!!」


 砂緒だけ意地でも着替えないと言って、ウエイター姿のままリムジン型の魔車に乗り込んだ。魔車は一路、新ニナルティナ公の前での政策会議が開かれるハルカ城に向かった……



 港湾都市から前ニナルティナ王国時代より存在する、巨大な王城ハルカ城に到着すると、城の周囲にはユティトレッド王国の騎兵隊や魔戦車がずらりと並んでいた。


 否が応にも実質的に新ニナルティナはユティトレッドが支配していると思い知らされた。


 途中何回も城壁の門番から身元照会を受けるが、セレネの顔を見てうっとなって黙った兵も居た……セレネは地元では有名人なのかもしれないと皆思った。セレネは澄ました顔をして黙っていた。


「よくぞおいで下さいました、特別大臣扱いのフルエレ様、皆さまがお待ちで御座います、どうぞ第三会議室においで下さい……」


 リムジン型の魔車のドアを開けた使いの者が、にっこり笑いながら案内した。フルエレはオブザーバーという触れ込みだったが、実際にはレナードとアルベルトの計らいで発言権のある大臣扱いとなっていた。


「ちょっとお、第三会議室ってどこぉ!?」


 ようやくフルエレが焦り始める。そこで他の係の者が大人数の連中を呼び止める。


「その他の方々は何でしょうか??」

「秘書一号ですが?」

「秘書二号だっ!!」

「ひ、秘書……さ、三号です……」


 セレネは緊張の為か、最近着けて無かった瓶底眼鏡を装着していた。


「暗殺者です」


「駄目、暗殺者ダメよ、暗殺者じゃないの、暗殺者から身を守ってくれる警護官なの、というよりも話を通してませんでしたか? IDカードも持っていますよ!」


 フルエレが砂緒の胸のカードをガッと持ち上げながら多少不満気味に言った。人見知りだが、怒ると強気になれるフルエレだった。


「ピョ〇吉じゃないのですから、名札ちぎれます……少しは優しくして下さい」

「あ、そうでしたっけ……」


 恐らく長年城に仕えるだろう係の者はくすくす笑うだけだった。


「行こう! 時間の無駄だ!!」



「あれ……誰もいませんねえ……」

「本当だおかしいよっ!」


 砂緒が言う様に、指示された第三会議室という場所は魔法ランプも付いておらず、暗くガランとしていた。


「あのう、会議は第一会議室で開かれますが……」


 横から半笑いの別の係の者が出て来た。また半笑いの時点でセレネと砂緒はぶち切れかけていたが、察したフルエレが二人を制止する。


「行こっ!」

「イエ~ス」

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