砂緒と美女アルラウネ……
「ど、どうするの?」
フルエレは固まったまま聞き返した。
「フフフ、こうするのですよ、役得っ」
「あっ」
雷を出した後は操縦席の後ろに立っていた砂緒が、中腰でフルエレが握る操縦桿にそっと手を重ねて握った。最近疎遠になっていた砂緒にとって久しぶりのフルエレの感触だった。
「行きますよっ証拠隠滅っ!!」
ザシュザシュザシュザシュッッ!!
「ギャアアアアアアアアア~~~~~」
砂緒が操縦桿を激しく動かすと、切り刻まれた第二層のドラゴンが断末魔の声を上げた。
「あわあわあわあわわわわわわわ」
「今だっフルエレ、席を離れて下さいっ!」
するりとフルエレと砂緒が操縦席を入れ替わると、すぐに掌から雷を発生させる。
「とりゃっっ!! 証拠隠滅ッ」
さらに砂緒は両手をあわせた。
ドドドオーーーーーーンン!!
大急ぎで出した雷雲から複数の雷が収束され、一本の大きな太い雷となって第二層ドラゴンの遺体が含まれる瓦礫の山を綺麗に消し去った。
「ふぅ、セーフです……」
「そうね……」
「セーフな訳あるかっ! フルエレさんもそうね……じゃないです!」
突然の大きな雷に驚いた工事のおじさん達がフェンリル谷大ダンジョンに空いた大きな穴を覗き込む。
『何か見ましたか?』
砂緒は魔法外部スピーカーで労働者達に訊く。
「い、いいや、俺たちゃ何も見てねえ」
「うんうん、全く見てねえ」
「ほら、皆もああ言っていますよ!」
「軽く脅してるだろ! とても貴重なドロップ品があったんだぞ、お前らには冒険者としての矜持は無いのか?」
ここでセレネの言うドロップ品とは分泌物や皮革、角や歯や羽の事であり、ゲームの様に謎空間から宝箱が湧いて出て来たりする訳では無い。
「無いですー」
「じゃあセレネ、第三層は頼むわね。早くしてね」
「失敗した途端に丸投げ、酷い人だ!」
等と言いながらも真面目なセレネは引き続きダンジョン破壊に勤しんだ。
第三層には宝箱を守る、宝箱ゴーレムというボスが居た……
「うわ……私ゴーレムが嫌いなんですよね。兎幸の氷のモンスター博物館でゴーレムを見た時に心が泣いていました」
「ごめん、私が貴方の事をゴーレムなんて言ったせいね」
「いえ、言ったのは旧ニナルティナのならず者兵ですから」
いや、フルエレもはっきりとゴーレムさんと言っていた。
「………………」
セレネは何の話かよく分からなかったが、何か少し悔しい感じがした。
「……じゃ、ゴーレム倒して来ます」
「行ってらっしゃーーい」
ハッチから飛び降りるセレネにフルエレは手を振った。
グゴゴゴゴグゴゴゴゴゴ
謎のゴーレム語を話しながら目を光らせ、巨大なゴーレムが腕を振りセレネに襲い掛かろうとする。
「よし、久しぶりに骨のある奴と戦えそうだよっ!!」
セレネも細く長い剣をスチャッと構えた。
ガラガラガラ……
その時、蛇輪によって剥がされていた中ボス部屋の天井が完全に崩れ去った。幾つかの岩や瓦礫が巨大なゴーレムのボディに当たるが、もちろんそんな事ではゴーレムはびくともしない。
「ふふっまずはあたしの氷攻撃を受けなっ!!」
今まさに激しい戦いの幕が切って落とされたのだった。
しかししばらくの後、とぼとぼと浮かない顔をして戻って来たセレネが居た。
「どうしたの、ゴーレム倒して来たのじゃないの?」
「それが……」
「それがどうしたのよ?」
魔法モニターに映るセレネは何故かやけにしょんぼりとしていた。
「天井が破けてそこから日光が差し込んだ途端に巨大なゴーレムは砂の様に崩れ去りました……サラサラサラって」
長い年月に渡って日光を浴びていない地下奥深いダンジョンのモンスターにはいきなりの紫外線は危険極まり無い物だった。
「まあ、儚いわねえ。蜻蛉の様ね……」
「や、やめろーーーーーーー!!!」
突然砂緒が頭を抱え叫び出した。
「ど、どうしたの?」
「ほっときましょうよ」
「あのゴーレムは砂の様に崩れ去ったけど、砂緒貴方は別にパウダー状の砂の様にサラサラと消え去る訳じゃないのよ、落ち着いてちょうだい砂は砂でも全然関係無いのよ」
「やめて下さーーーーーーいっ、ちょっと酷くないですかっっ!?」
砂緒はさらに頭を抱えて首を振った。
「フルエレさん、ワザと言ってます?」
しばらくしてようやく砂緒が落ち着きを取り戻した。
「しかしどうするのですか? 日光を浴びた途端にボスモンスターが死んでしまうのなら、天井を開けてボス戦をするのは不可能では無いでしょうか?」
今度は第四層の殆どの天井をひっぺがし、中ボス部屋を残すのみとなって砂緒が二人に聞いた。
「工事現場のおじさんがくれた地図には第三層までしか解説が無いなあ」
セレネが地図を見つつ言った。
「よし、それでは一つ私が天井を残したまま第四層の中ボスを倒して来ましょう。セレネだと属性や相性で万が一って事もありますからねえ、レイディを守るのは騎士の務めですからね、フフフ」
「一切感謝しないし、お前騎士じゃないし」
セレネの愛想の無い言葉を無視して、砂緒が蛇輪を降りて中ボス部屋に向かった。
「むむ、何も居ない?」
「うふふふふふふ」
「何奴!?」
砂緒が暗闇の中、妖しい声がする方を見ると、全裸の妖艶な女性が居た。もっと正確に言うと全裸の妖艶な美女の全身に美しい花の咲いた蔦が絡まっている。
アルラウネというセブンリーファ大陸ではめったに見ない珍しい亜人種型モンスターだった。
「あっうっ……」
砂緒はぼうっと光るアルラウネにふらふらと近寄って行く。近寄るにつれて絡まる蔦の間の肢体がとてもグラマラスである事に気付く。しかもその女性型の顔は砂緒の好みを具現化した様な感じに見えた。
「うふふふふふふふ、いらっしゃい……いいのよ、もっとこっちに来て」
「はぁはぁ……この妖怪変化めっそんな誘惑になど……はぁはぁ」
等と強がりながらも砂緒はさらにふらふらと近寄って行く。ちょうど蔦の絡まり具合によって、何スラとも言われる様に強調され張り出した二つの美しい乳房を見てしまった砂緒が、目を丸くして固まる。
「ささっわらわの身体を遠慮のう好きなだけ触ってたも……」
「ふーはーふーはー、ゆ、誘惑になど……」
何故か砂緒の片手は催眠術にでも操られた様に、ふわっと浮き上がり白い乳房に向かって伸びて行く。
「や、やめろ、やめるんだ私の手っ」
「うふふふふふふふ」
しばらくして、砂緒は何事も無かった様に蛇輪に戻って来た。
「ふぅ~~~後世に語り継がれる激しい戦いでした」
「ぎゃーーーーーーーーー」
戻って来た砂緒を見てフルエレは叫び声を上げる。砂緒の全身には何かぬとぬととした粘液が絡まっており、着ていたウエイター服はその粘液によって溶けて殆ど無くなっていた。
砂緒が本能で無意識に硬化していなければ、身体も溶かされていた事だろう。




