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ダンジョンに住み着いた怪しい連中


「ふっよござんしょっ、あたーしゃがお助け人とやらにお仕事をつたえておきやしょう。そこのお金は持ってけえんなっ!」


 セレネに叩かれるや一転して仕事を引き受ける気になった砂緒はしゅるっと腰に巻いたエプロンを脱ぎ去った。


「も、もしやアンタがその闇のお助け人じゃ……」

「シッそれは言いっ子無しだぜ」


 等と言いながら砂緒は依頼人の髭の労働者の唇に人差し指を当てた。


「砂緒ちゃんと後で手を洗うのよ、客商売なのよ」

「シッフルエレがっつり聞こえてます!」


 等という事があって、新ニナルティナ‐リュフミュラン間の直通道路作りに協力する事になったのだった。



 という訳で後日砂緒と雪乃フルエレと砂緒に無理やり連れてこられたセレネが工事現場にやって来た。当然重機代わりに蛇輪で来たので驚かれたが、操縦席から降りて来た三人を見て労働者達は納得した。


「な、なんだあ結局あんた達だったかー」

「はい、他言は無用ですから。で、どこまで工事は進捗しているのですかな?」


 工事のおじさん達は地図を広げた。


「だいたいこっちからはこの先の物見山までしか進んでねえ。硬い巨岩がごろごろ転がっててなかなか進めねえんだ。見つかったダンジョンてのは、さらに向こうの東の山の中だ」


「ぜんっぜんじゃないですか! 山賊が出るとかモンスターが出るとか関係無い、ただ単に困難な工事を我々に丸投げしてるだけじゃないですかっ」


「実はそうなんだーてへっ」


 工事のおじさんはウインクして舌をぺろっと出した。


「可愛く無いです止めて下さい目が腐ります」

「ああっ酷いっ」

「どうするの砂緒? 貴方の拳で一個づつ岩を砕いて行く? 砂緒の得意な動かない相手よ」


 付いて行きたいと言っていたイェラを押しのけついて来たフルエレが聞いてくる。


「うーーん、それでは時間が掛かり過ぎてしまうでしょう……セレネどう思います?」

「なんであたし? まあ蛇輪に乗って砂緒の雷攻撃で削岩したら良いんじゃね」


 セレネが提案した。


「それだわっ!! 砂緒それよっ」

「はいはい分かりました分かりました」


 という訳で三人は蛇輪に乗り直した。


『皆さん後ろに下がっていて下さい、破片が飛ぶかもしれません!!』


 労働者達が充分後ろに下がったのを確認して蛇輪が鉾を置き、両手を広げた。途端に上空にもくもくと雷雲が湧き両手から発生した雷が上空に吸い込まれて行く。


『行きますよっとりゃっっ』


 バリバリバリバリバリドドドーーーーン!!

凄まじい雷が山のあちこちに降り注がれる。山肌のあちこちで発破の様な煙が上がり、岩が砕かれた……


『どうですか? 凄い物でしょう!!』


 砂緒が魔法外部スピーカーで聞くと、男達が道路工事予定の場所をしゃがみ込んで調べ始めた。


「駄目だっ! 山肌ががけ崩れみたいになってて土砂を運び出すのに凄い手間が掛かる! もっとスマートにやって欲しい」


 髭のリーダーは手をバッテンにして大声を張り上げた。


『知るかーーーーー!! お前らがやれ言うからやったんじゃーーー! ふっざけんなーーーっつべこべ言うなーーーっ』


 それまで黙っていたセレネがいきなりブチ切れた。


「セレネやめて、どんな仕事内容でも一度引き受けた以上は最後までやり遂げるべきだわ」

「は、はいフルエレさんすいません……」

「全くフルエレの言う通りです。フルエレはセレネと違い姿形だけで無く、心まで清らかなのですよね」

「お前に言われたくないわ。じゃ、どーーーすんだよ?」


 砂緒はしばし考えた。


「うーむ、ただ散漫に雷を出すと周囲の瓦礫を吹き飛ばして増やしてしまう……ならば複数の雷を一点に収束させて、レーザーカッターの様に工事出来ない物でしょうか? やってみます」


「がんばってー」

「なんだか良く分からんが、よしやれっ!」


 二人に励まされて砂緒は目を閉じて集中した。そして再び雷雲を呼び出しあちこちの岩石に向けて浴びせるつもりで出した雷の攻撃範囲を確認すると、お参りで合掌でもするかの様に両手をゆっくりと合わせた。


 ピーーーーーーッ

 すると複数の目標を示す攻撃範囲が一点に集約して行く。


「行きます! うりゃあああああっっ!!」


 ズドオオオオオーーーーーン!!!

 砂緒が突然両目を開けて叫ぶと集約された太い雷が道路工事予定先の岩石に落ちてさらに山肌を穿ち瓦礫も何も跡形も無く消し去った。


 シュウ~~~シュウ~~~~

 あちこちから白い煙が立っている。


「凄いわっ定規で正確に削り取ったみたいに、山肌が凹型に見事に整形されてしまってる……さすが動かない敵には無敵の強さを誇るわね……」


 フルエレが感嘆の声を上げた。


『どうですか? これで良いですかな?』


 砂緒が髭のリーダーに訊くと満面の笑顔で両腕で大きな丸を作った。


「砂緒、この調子でどんどん行くのよ!」

「フルエレそのつもりですから!」


 砂緒はフルエレとセレネの魔力のサポートも受けながら、疲れる事も無く次々と山肌を綺麗に凹型に削り取って行く。その後ろを労働者達が土を盛ってローラーで平に整地して行く。


「アオーーーーンン!!」


 突如工事現場に野犬の遠吠えの様な声が響く。


「やばい、野良ガルムの群れだっ! 皆避難しろっ!!」


 工事現場の男達の顔に緊張が走った。


『逃げんでも大丈夫です。あたしが全て片付ける!! 工事はそのまま続けて!!』


 そう魔法外部スピーカーでセレネが叫ぶと、突然ハッチを開けて飛び降りた。


「だ、大丈夫か姉ちゃん一人で……」

「ま、まかせて……下さい……」


 蛇輪を降りた途端に目線を合わせられず小さな声になるセレネだった。


「大丈夫か本当に……」


 しかし長い髪をなびかせて物凄いスピードで走って行くと、迫りくる野良ガルムの群れをズバズバ剣で切り刻んで行く。さらには魔法の氷で遠くのモンスターまで撃破して行く姿に労働者達はあっけに取られた。


「よ、よし大丈夫そうだな、俺達は工事を再開しよう!」

『よし私も削岩を再開しますよっ!』

「砂緒頑張って~~~」


「ふふ、久しぶりに二人きりになれて嬉しいです……」

「うんうん、良いから早くやって」

「はい……」


 フルエレに促されて砂緒は両手を広げバリバリと雷の準備を始めた。



 皆の得意分野を使って協力し工事はどんどんはかどり、問題のダンジョンがあると言われる地帯にまで辿り着いた。二人は再び蛇輪から降りた。


「ここが謎の武装勢力が籠るフェンリル谷大ダンジョンだー、本当に困っているんだー」


 急に訛り出した髭のリーダーが指差した谷にダンジョンの入り口らしき石の門があった。


「セレネ、このダンジョン知っていますか?」


「あーこれ私知ってるわ、聞いた事ある。フェンリル谷大ダンジョンは、常に野良フェンリルがうろつく深い谷にある五層の広大なダンジョンで攻略には何週間も掛かるって。しかも各層にはボスモンスターが居てそれを倒せば貴重なドロップアイテムを出すという」


「え……攻略に何週間も掛かるの? いやだわ、私今日中に絶対帰るからっ! こんなへんぴな所に泊まりなんて絶対に嫌よ」


「へんぴな所て」


 フルエレはふるふると必死に首を振った。


「フルエレがこう言っている以上、この仕事は終わりです。お疲れさまでした!」


 砂緒は早速蛇輪に乗り込んで帰ろうとする。


「ちょ、ちょちょちょっと待ってくれ! じゃ、じゃあ第一層に住み着いてる武装集団だけでもなんとかしてくれ。アンタ達凄い強いのだろう??」


 髭のリーダーは必死に砂緒に頼んだ。


「可哀そうよっ! 砂緒、それくらいやってあげたら?」

「フルエレが帰ろうって言ったのですよ……お忘れですか」

「もういいだろ、戦うのはあたしなんだからサクッと行くぞ!」


「気を付けてくれ、住み着いてるのはフードを被った謎の怪しい連中で、近付く人間を全て半殺しにして金品を奪い追い返し、回復魔法を掛けてくれるんだっ!」


「回復魔法を掛ける? 訳の分からんヤツらですね、興味が湧きました」


 早速砂緒は蛇輪でダンジョンの入り口に接近した。


『あーあー、犯罪者集団に告ぐ、君達は完全に包囲されている、大人しく武装解除して投降しなさいっ! 十秒経っても返事が無い場合、魔ローダーでダンジョンを埋め立てる』


「滅茶苦茶だなお前……」

「砂緒、冗談よね?」


 砂緒は巨大な月の鉾を刃を下に逆さに持ち上げるとカウントダウンを始めた。


『いーーーーーーちーーーーー、じゅーーーーーーーうう。はい終了!』


 砂緒はそのまま鉾をダンジョンの入り口に突き立てようとした。


「わーーーーーーーやめやめ!!」

「やめろーーーーーー!!」

「我らは怪しい者では無い!」


 突然ダンジョンの入り口からフードを被った怪しい連中がわらわら出て来た。


「あからさまに怪しいだろ!」


 セレネがフードを被った連中に指差して言った。


「あれ砂緒……あの人達、見覚えない?」


「むっ……そう言えば……天空庭園に遊びに行った後、フルエレと麗しい思い出の海岸で、変な言葉を操る野蛮人に出会った……?」


「そうそう、その時リーダーの女性の後ろにあんな人達が居た様な……」

「ちょっと会話して来ます!」

「気を付けて~~」


 バシャッとハッチを開けると砂緒はローブを被った怪しい連中の前に歩み出た。

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