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午後の七華リュフミュラン王女


 ―リュフミュラン王国王城、午後


 いつもの侍女達、いつものメンバーとリュフミュラン王国の第一王女、七華(しちか)はけだるくアンニョイな気持ちでお茶会を開いていた。


(……つまらない……いつもの面々といつも変わらぬ同じ下らない男女間の噂話の話題……)


 七華は知らず知らずの内に豪華な装飾が施された部屋の天井をじっと見る。また七華がつまらなそうに天井や壁を見ている……侍女達が内心気を使いまくっている事に七華は気付いていなかった。


「あ、あの……七華さま?」

「……なにかしら?」


 侍女の一人に声を掛けられて、ゆっくりと視線を戻す七華。


「こんなお話はご存じでしょうか? 今何かリュフミュランと新ニナルティナ間を結ぶ、新直通道路を建設中だとか……城の騎士達や兵達も人夫がモンスターに襲われない様に護衛に出てたりするとか……」


 七華が全く興味が無いという感じで細い目をしたので、慌てて他の侍女が会話に入る。


「あらまあっ両国の間の山を切り開いて直通道路を作るなんて凄いですわっ」


「ええ、そうなのです……直通道路が開通した暁には、リュフミュラン―新ニナルティナ間を結ぶ駅魔車も運行されるらしいですわっ!」


 それが一体何か? という顔で七華がさらに目を細め紅茶を飲み始めるので侍女はさらに焦って会話を続ける。


「まあっっそれでは女性一人でも安全に駅魔車で新ニナルティナに行けるのですね!」

「そうよっお天気通りや親孝行通りでお茶したりケーキを食べたりショッピングが出来るのっ!!」

「まあステキですわねっ!!」


 侍女達が七華の機嫌を取る事を忘れ、都会に遊びに行く事を想像して本心から心ときめかせた。


「あらこの国がお嫌いなのかしら……でもその駅魔車、料金はどのくらいですの?」


 興味が湧いたのかようやく七華が口を開いて侍女達がほっとする。


「い、いいえ、我らはリュフミュラン程素晴らしい国は無いと思っていますわっ!」

「ええっそれがリュフミュランから新ニナルティナ港湾都市中央駅までが二万四千Nゴールドらしいですわっ!」


 一瞬七華は眉をひそめた。


「新ニナルティナ港湾都市中央駅までが二万四千Nゴールドですって!? わたくし高貴な王女でありながらも下々の一般庶民共の感覚も忘れない優れた女として言わせてもらえば、暴利を貪り過ぎですわよ、誰がそんな物を利用しますの??」


 七華は何故か辛辣だった。


「で、でもですね、道路を切り開く時にモンスターや山賊等を排除して女子供でも安全に両国間を行き来する事が出来る様になるのですよ、安全代、用心棒代とすれば……」


「ふんっそこまでしてニナルティナに行きたい変わり者がいるんですの?」


 等と言いながらも七華が普段よりも話題に食い付いて来た感触を侍女達は得ていた。


「そう言えば新ニナルティナには砂緒さんという者がいらっしゃるのでは……簡単にお会い出来ますよ」


 侍女の一人が恐る恐る七華の表情を見つつ言ってみた。


「は? 誰ですの、砂ナントカさんって」

「ほ、ほら……七華様のお部屋に入って行った……」

「や、やめなさい……」


 新人の若い侍女が余計な事を言い掛けて、年上の先輩侍女が制止する。


「はあ? ああ~~~~~いましたわね、そんな男。今言われてようやく思い出しましたわ。それが……何か?」

「いえ、お会いしたいのではないかと……」

「はあ?? 止めなさい、今度あんな礼儀知らずの男の名前を出すなら、よくしなる鞭で打ち付けますわよっ」


 七華は怒りの表情で鞭でぶつポーズをした。


「ヒッよくしなる鞭で打ち付けるのはおよし下さい、出過ぎた事を言い申し訳ありませんでした」


 侍女は深々と頭を下げた。


(リュフミュラン‐新ニナルティナ間を走る駅魔車……)


 七華は紅茶が入ったティーカップを持ったまま、再び固まった様に天井をじっと見始めた。侍女達はその様子を腫物に触らない様に怪訝な顔で見守り続けた。



 ―新ニナルティナ冒険者ギルドビルディング、地下一階喫茶猫呼(ねここ)


 いつもの様に何の拘りも無い業務用レギュラーコーヒーの準備を終えた砂緒は、今度はモップで床を掃除し、それが終わればテーブルを拭き、食器を洗い紙ナプキンを準備したりおしぼりを準備したりせっせと仕事をこなして行く。


「いつも思うんだけどさ、砂緒っていかにも頭がおかしくてチャランポランな感じなのが喫茶店の仕事は真面目にするのに、見た目が天使みたいで凄く真面目そうなフルエレが何時も不真面目にさぼっているってなんかアンバランスなのよねえ」


 珍しく店内にいるオーナー猫呼が言いながら雪乃フルエレを見ると、いつもの様に客席でマンガ雑誌を読んでさぼっている。


「だって……このお店って大体お客さんより店員の方が多いじゃない、だから私が真面目に働く必要も無いって思うの。凄く合理的でしょう?」


「そんな事言う可愛い女の子知らない」


 直ぐに砂緒が走って来る。


「猫呼、今フルエレは熱心に漫画を読んでいるんです。邪魔をするのは止めて下さい」

「……お前は本当にフルエレさんに甘いな。そんなんだからどんどんフルエレさんが堕落するんだ」


 等と言いながらもする事がほぼ無いセレネも突っ立って居るだけだった。



 しばらく後。


「砂緒ー、またなんか変なお客さんが来たの……貴方が出てー」


 喫茶店に珍しくお客さんが入って来たが、客を見て選り好みするフルエレが砂緒に接客を押し付けようとする。よくある事だった……


「あ、はいはい! 今すぐ行きます!!」

「甘っっ」


 走って行く砂緒の後ろをセレネが付いて行く。


「いらっしゃいませっ! ご注文は何になさいますかっ」


 砂緒なりの満面の笑顔で接客した。入って来た客は数人の筋骨隆々の肉体労働者ぽい男性達だった。


 フルエレは自分の美し過ぎる外見に惹かれて入って来た冷やかしだと思って難を避けたのだった。しかし砂緒はライグ村の義勇軍で免疫が出来ているので何とも思わなかった。


「これを見てくれ!」


 等と言いながらリーダーぽい髭の労働者の男がヘルメットに入った一杯のお金をドサッとテーブルの上に置いた。


「こ、これは伝説のヘルメット支払い!!」

「理解力あるなお前」


 いきなりヘルメット一杯のお金を見せられても動じない砂緒にセレネが冷静に突っ込む。


「この中におおよそ五十万Nゴールド程の金がある。これで困り事を何でも解決してくれるってえ言う闇の解決人に頼み事がしてえ」


 砂緒は良く分からないという感じで首を傾げた。


「そんなヤツなど知らん! けえんなっっしっしっ」


 砂緒は無下に手を振って追い返そうとするが、その砂緒をセレネが引っ張って少しテーブルから離す。


「コラコラ、あの労働者達は、砂緒が広めた嘘の噂を真に受けた人々だろうが、お前が忘れててどうするよ、ちゃんと嘘だと教えてあげろよ」


「あ~~~アレですか、はいはい分かりました!」


 砂緒はスタスタとテーブルに戻った。


「……で、困り事とは何なのだ? 事と次第によっちゃあ闇のお助け人に伝えてやらない事もねえがな」

「ほ、本当かい!?」

「って相手の人達本気にするだろーがっ!」


 セレネが砂緒を止めようとするが、砂緒は一切気にしないで続ける。


「だからどんな仕事の内容なんだい? 誰かを暗殺してくれとか強盗とか悪事の手助けなんてのは御免だぜ」

「見くびっちゃなんねえ! 俺達はまっとうな労働者なんだ。その仕事で困り事があって……何でも助けてくれる人々が此処に居ると小耳に挟んだんだよ」


「お、おじさん達、そういう事は、ニナルティナ冒険者ギルドに依頼して下さい……」

「いや、あっちこそ暗殺だとか商売敵を消すだとか物騒な場所さ、そんな所に行くのは怖い」


 セレネが言ったが、ニナルティナ冒険者ギルドの過去の悪評は想像以上の様だ。


「で、困り事って何なんだい?」


「それが……今新ニナルティナ‐リュフミュラン間を結ぶ直通道路の工事中なんだが、その山を切り開く作業が難航している上に、途中でダンジョンだか何だか言う物にぶつかってしまって難儀してるんだ。しかもそのダンジョンには謎の武装集団が住み着いてて恐ろしくて工事を進めれねえ、どうかその連中を追い払ってダンジョンを攻略して危険を排除して欲しいんだ!」


 労働者達は切羽詰まった表情で困り事を訴えた。


「うむ……なる程な……断るっ!!」


 砂緒は腕を組んではっきりと断った。


「断るとかもうめんどくせーわ、サクっと受けとけや」


 セレネが砂緒の頭をパーンと叩いた。

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