ストレス解消に小悪党をやっつけましょう… 下
「泣きながら言う事?」
「正当防衛という事でなんとかなりませんか?」
「いいだろう、こんだけ囲まれてんだ」
セレネは鉄パイプを構えた。
「舐めんな!」
セレネの動きを見た小悪人共が二人目掛け、一斉に弱い魔法や魔銃を猛烈に撃ちまくる。
「遅い!!」
セレネは紅蓮にも劣らない速さでジグザグにビュンビュン弾や魔法を避けながら進み、いきなり三人ほどの魔銃を鉄パイプで撃ち落とす。
「イテッ!」「ギャッ!」「なんだぁ!!」
ほぼ三人同時に叫んで武器を落とし、衝撃で痛む掌を触る。
「す、凄い……セレネって生身でも相当強いのですね……」
砂緒は攻撃を全く避ける事が出来ず、いきなり結局硬化して攻撃を弾き返すだけの状態になった。
「な、ななんだこの二人!? こんな話聞いてないぞ! 思い上がった奴がいるから叩きのめせば良いってだけだったんじゃ、兄貴??」
「俺たち元ニナルティナ兵が……ここで新たな商売始めるのに邪魔になりそうな奴を……潰すだけって……」
そう口々に言い合っている間にもセレネは物凄い速さで、小悪党どもを打ちのめしていく。
「躍動する肉体、しなやかな身体……流れる長い髪、嗚呼、何故剣を持った強い女性はこうも美しいのでしょうか……」
砂緒は猛烈に魔銃の弾や魔法を弾きながら、変態的な目でセレネの戦う姿を眺めていた。
「いやいや、こうもしておれぬ。毎朝の剣の修行の成果を御覧じよ!!」
砂緒も鉄パイプを振り上げると、わぁーと叫びながら悪党に殴りかかる。
「ヒッ、いや……なんとかなる」
てっきり砂緒も恐ろしく強いと勘違いした男が最初ビクッと避けるが、割と普通の速さだった為に立ち向かう。
「むむ……やはり実戦ともなると難しい!!」
カキンカキンと剣と鉄パイプでしばし斬り合いをする。
「ガハッ!!」
砂緒はようやく一人を鉄パイプで倒した。周囲の者は全員思った、割とコイツ中途半端な強さだなと……
「我ながら凄い! スライム一匹倒せず、三毛猫にかすりもしなかった私が、ついに剣で人を倒したぞーっうおーーー!!」
しかし鉄パイプだが剣での初勝利に異常興奮した砂緒は、残りの敵に向かって走り出した……
「ほっほっほっ、遂に貴方達数人になりましたね、言い残す事はありますか?」
ほぼほぼ悪人にしか聞こえない台詞を砂緒が言う。
「もう……いいんじゃないか? 正当防衛越えてるだろ……」
一人で数十人の悪党を倒したセレネが息も切らせず言った。
「仕方ねえ!! アレを出せ!!」
ボスらしき男が言うと、別の倉庫から魔戦車が一両現れた。
「ど、どうだ驚いたか!! 先の戦争を生き残った一両、びびったら逃げていいんだぜ!!」
悪人は起死回生の切り札を出して、勢いが復活してふんぞりかえって乗り込んだ。
―五分後。
砂緒が砲塔の上に乗っかり上面装甲がへこみ、無限軌道をセレネの氷魔法でガチガチに固められた魔戦車が居た。
「弱い……今更魔戦車を一両出されても……」
「魔ローダーを出せ、魔ローダーを!!」
口々にグチを言う二人。中に乗っているボスは死を覚悟した。
「お願い! もう止めて! 兄さんを許してあげて!! はぁはぁ……」
「はぁはぁ……何故お前らが魔輪で私だけランニングだ……はぁ」
依頼者の女の子とイェラだった。
「ごめんなさい……兄に頼まれて……間抜けな情報流している馬鹿がいるから……その馬鹿な連中の裏をかいて一網打尽にしようって言われて……本当にウインクはキモかったけど、ごめんなさい!!」
依頼者の女の子を演じていた、ボスの妹は半泣きで必死に頭を下げた。
「あれは……挑発と受け取って良いのですよね?」
「あたしも一瞬どっちか迷った」
「酷い……一人くらい残して欲しかったぞ! はぁはぁ」
砂緒はしばし考えた。
「そうですね、誰か元ニナルティナ兵とか言ってましたね……他にもこんな食い詰め浪人が居て、治安悪化の原因にもなっているのでしょうか……ではフルエレに頼んで新ニナルティナ兵にでも編成し直しましょうかね……」
砂緒はよいしょっと、砲塔から飛び降りた。下部の脱出ハッチから出て来たボスが妹と抱き合う。
「まあ良いでしょう、今回は多少のストレス発散になったので許す!!」
「あ、有難う御座います!!」
兄妹は泣いて喜んだ。
数日後。
「すいません、プリンアラモードと今週のケーキセットと、抹茶あんみつと、三Nリットルパフェスペシャルと、スペシャルパンケーキとふわふわかき氷練乳がけを下さい」
喫茶猫呼でほっかむりをした少女が次々と注文を頼んだ。
「あ、貴方本当にそんなに食べれるの? 様子が変よ……あっ!」
フルエレが良く見ると以前の少女だった。
「すいません……実は砂緒様に定期的に一定量の注文をして、経営を助けろと命令されていて……」
「まあ、酷い……今砂緒とセレネは買い出しで居ないけど、今度そんな事は許さないと言っておくわ!」
「あ、有難うございます!!」
「でも……今日の注文はもう受け付けたわ……」
「ええっ」
「って嘘ゝ、クレウさん居るんでしょう? 出ておいで!!」
「はい、今ここに……良いのでしょうか」
クレウは壁の食器棚の下の方に隠れていた。
「一緒に食べましょ! 割り勘で! イェラも聞いてるでしょ!」
「そうだな、私も一緒に食べるとするか!! 大急ぎで作るから待ってるのだ!!」
「あ、どうも、私クレウと申します……暗殺者です……」
「か、かっこいい……」
依頼者の少女は目がハートになった。
「大量注文はもう良いから、時々来てね……良い? 友達になって欲しいの」
フルエレは恥ずかしそうに聞いた。
「もちろんです!!」
イライザは元気よく笑顔で答えた。




