ストレス解消に小悪党をやっつけましょう…
ひとしきり飛行を楽しんでいるとやおらセレネが訊いて来た。
「あのさあ……今ふと思ったんだが、普段不愛想なお前がいきなりグイグイ話し掛けて来て……なんか妙だな~って思ってたんだが、もしかしてあたしを魔ローダーの魔力供給源に利用しようと画策して、一生懸命機嫌を取ってたんか?」
「…………………………いえ、セレネは可愛いな、もっと仲良くお友達になりたいな、そういう気持ちがポロリと発露してしまった事は事実です。嘘偽りはありませんよ!」
「いやそこは一Nミリも気にしてねーわ。訊いてんのは、魔ローダーの魔力源に利用しようと最初から計画してたんかって聞いてるんだが」
(……サバサバしてるのかと思いきや割としつこいですね、何に拘っているのでしょう……?)
「違います………………所で良いアイディアがあるので聞いてくれませんか?」
「誤魔化すの下手か!」
「実は最近フルエレが冷たいのでストレスが溜まりまくりでした。その上あの変態の出現です。今私のストレスフルはマックスです。そこで! 一緒にストレス発散の為に、ニナルティナの小悪党どもをぶちのめしませんか? 正義の名の下に振るう暴力なので、誰にも文句は言われませんよ!」
「うっ……悔しいけど面白そうじゃん……私もやりたい……です」
「具体的な手はずは決まり次第ちゃんと発表します。楽しみに待っていて下さい、ふふ」
悔しいが何故か砂緒と意見が合ってしまうセレネ。早速二人は魔ローダーを再び中腰でずりずり倉庫に収納すると、魔輪で走り出した。行きより帰りの方が早く着いた……
「ふぅ、砂緒が色々なポーズを要求するから、なんかクタクタになった……いい汗掻いたよ」
「いえいえ、セレネもあんな激しい動きを1時間以上繰り返して、こうして立っていられるなんてたいした物ですよ、次はもっとアクロバティックな動きを追求しましょう!」
「やめろ、これでも女の子だぞ! 華奢な身体が壊れるだろ……」
ガシャッ!
二人の会話を聞いていたイェラが、激しく赤面して食材の入ったボウルを落とす。
「お、お前らフルエレがちょっと今居ないからって……さ、最近の若い子は理解出来んな……」
「? お、そうだイェラも正義の裏稼業ごっこをやらないですか?」
「正義の裏稼業ごっこ……とな?」
イェラの目が光った。
「細かな設定を決めましょう……くく」
―そして再び現在に戻る。
「猫呼お助け隊って……はいはい、前に言ってたヤツだな、じゃ仕方ない砂緒、横に乗れよ!」
「よし、出動!!」
セレネと砂緒が乗った魔輪は軽やかに動き出した。二人共イェラの事は既に忘れている。
「奴隷売買組織か……所でどこに向かえば良いのだ?」
「はい、ピルラにお願いしてピルラの配下の者共に調べさせると、一瞬で場所が割り出せました」
「わー手抜き!」
「ストレス解消の為に暴力を振るうのに、いちいち足で調べるとか新たなストレスを作ってどうするのでしょう……ピルラもこういうのは久しぶりだと大喜びでした」
「んで、場所わえ?」
「魔ローダー倉庫近くの倉庫街でした……」
セレネは魔輪を運転しながら軽くコケた。
「……魔ローダー意味無くない?」
「いつか魔ローダーが必要な敵が出て来る事を祈りましょう……」
そして倉庫街……とある倉庫の前を、見張りらしき怪しい男が数人。
「あの建物に無慈悲な奴隷売買の連中がいるそうです……」
「ほほぅ……で、どうするんだよ?」
「証拠も何も不要です。と、とにかくは、早く暴力を振るいましょう!!」
砂緒はいつも練習で使っている剣を興奮気味に握りしめる。
「ヤバイ奴だなお前。一応生かしておいて証拠掴まないと謎の大量殺戮にならないか?」
「確かに……私は何の攻撃も受け付けませんが、貴方のその美しくしなやかな身体が傷付けられないか大変心配ですが」
「言い方がいちいちキモイわ。私の方こそ絶対安全だ、魔法無しでも多分お前の十倍は強いわ!」
「じゃ、お互いどっかそこらへんに落ちてる鉄パイプででも戦いますか?」
「オーケー」
二人は剣を収め、適当に落ちている鉄パイプを拾った。
「そこまでだ! おい周りをよく見ろ間抜け共! お前らが来る事は分ってたんだよ!」
声がして言われた通り周囲を見ると、本当にぐるりと怪しい野郎どもに囲まれていた。
「へっ、お誂え向きだぜっ!」
砂緒は大昔の怪しい無国籍映画で観た、どうしても一度言いたかった台詞を無理やりねじ込んだ。
「なんだよオアツラエムキって……」
「おいおいおい、貴様らが無慈悲な奴隷商人だってな証拠が挙がってんだ! やいやい大人しく神妙に縛につきやがれ!」
これも言ってみたかった台詞だった。
「何でも言えば良いってもんじゃないぞ砂緒」
セレネは砂緒がふざけて、ただ言いたい事を言ってるだけだと気付いた。
「ハハハ、奴隷商だって? 域外の帝国に向けた奴隷売買は王様の専権事項さ、俺たち小者がどうこう出来るって商売じゃねーんだよ! そら見ろ、倉庫の中には誰もいやしねえよ!」
そう言って、見張りが居た倉庫の扉をガラリと開けると、猫の子一匹居ない中はもぬけの殻だった……
「ははは、どうする正義の味方さんよぉ、しゃしゃり出て来て証拠も無し、嵌められたんだよ!」
「す、砂緒……出直すか?」
セレネは砂緒を見た。
「わ、私は……振り上げた拳を……どうしても降ろしたくない! 今夜どうしても暴力を振るいたいのですっ!!」
砂緒の目には涙が流れていた。




