逸材を見つけてしまいました……
「え!? お前……な、ななななな、何だよ急に、別にそんなので喜ばねーよ、何のつもり……よ」
「え? 何を言っているのですか?? これは魔ローダーの始動鍵となる宝石です」
セレネはみるみるカーッと激しく赤面する。
「あ、そ、そうなの??」
両手で頬を隠す。
「セレネ……もしかして……プレゼントと勘ち?」
イェラは震える手で指を指した。
「うわーっちちちちち違います! 黙っていて下さい!!」
「?」
「そ、それがどうしたん?」
セレネは必死に話題を転換しようとする。
「セレネ、気晴らしに魔ローダーに乗りたくないですか? 良い機会です、あんなフルエレ見たくないので、早速二人で行きましょう」
「うっ……凄く見たいし乗りたい……何か悔しいけど行くわ」
「フルエレ、魔輪と蛇輪借りても良いですか?」
「どうぞ~?」
「あの、貴方と私の甘酸っぱい思い出の詰まった、魔輪と蛇輪に他の女の子と乗るのですよ? 嫉妬に狂わないのですか??」
「別に~? いってらっしゃ~い」
「変なダシに使うな、キモイだろーがっ」
早速駐輪場に置きっぱなしになっている魔輪にセレネが跨る。
「セレネ、運転出来るのですか?」
「いや、今初めて乗るわ。でも大丈夫私運動神経めちゃめちゃ良いから」
最初ガックンと走り出すと、ガクガクとしながらも徐々にスピードアップした。
確かに運動神経が良いのかどんどんスムーズに走り出した。セレネのストレートロングのつやつやの髪が後ろにサッと流れるのを砂緒は眺めた。
(確かフルエレとこんな風に走り出したのでしたっけ……)
気が付くと砂緒は無言で髪を触ろうと手を伸ばしていた。
「うっわキッモ! 止めろよ勝手に触んなボケ」
まるで後頭部に目が付いている様に、セレネは突然振り返るとビシッと砂緒の手を片手で弾いた。
「あうっ」
(痛い……)
セレネの手を痛めてはいけないので、硬化しないと意外に痛かった……
「ここですここです」
港湾都市の倉庫街に辿り着き、とある倉庫の前に立つと砂緒は普通の倉庫鍵を解除し、片足で巨大な鉄の扉を蹴ってジャッと開けた。
ガツーンと物凄い音を立てて止まる。片手で大男を持ち上げる程度の怪力はあるので簡単な事だった。
「もっと丁寧に開けろ……」
「ふふふ、これが魔ローダーですよ! 初めて見るのでしょう??」
砂緒が蓄念池式魔法ランプをパチッと付けると、巨大な倉庫の中に片膝を着いた魔ローダーが鎮座していた。
「すっげーーー!! でも、いやー魔ローダー自体は何回も見てるぞ」
「ええ、そうなのですか!? ちょっとがっかりです」
「でも乗った事は無いんだ、おじい様が乗っては駄目だと……怪我すると大変だと言ってな」
「乗りたいですか?」
「乗りたい……です」
「では、一緒に乗りましょうか」
「いやいや一人で乗るわ。では宝石を貸せ」
「ではこれならどうしますか??」
突然砂緒はスラックスパンツをくいっとひっぱると、宝石をポロっと落とした。
「うわーーーーー!! 何するんだ!? やっぱド変態か?? 最低最悪な奴……」
「どうしますか? これが無いと乗れませんよ。パンツの中に手を突っ込むか、一緒に乗るか、二つに一つ。安心して下さいこの機体は複座型なのですから」
「ちっしゃーねーな、じゃあ一緒に乗るけど、あんま話しかけんなよ……」
砂緒は言葉を聞いて、にやっと笑った。
「今確かに乗ると言いましたね? 剣士に二言は無いですね?」
砂緒が言った途端にワイシャツの袖からポロリと宝石が出て来た。
「テッテレー!! 大・成・功。いくら私でもフルエレが握りしめる可能性のある物を、下着の中に入れるなど、そんな悪趣味な事は絶対にしません!!」
「お前なら十分やりかねんと思ったわ……」
セレネは渋々、砂緒と一緒に魔ローダー蛇輪に乗り込んだ。
「セレネ! 立っては駄目です! 屋根は開きません、ずりずり前に進んで下さい!」
「マジかよ……」
片膝着きの状態でズリズリ、ズリズリ前ににじり出る。とても地味な発進だった。
「よっしゃ、出れた、立ってみるよ」
倉庫の外に出ると、すくっと立った。
「セレネ、異様にしんどかったり疲れたりしませんか?」
「いや全然~」
「これ乗ると血を吐いて倒れたりする人も居たそうです……」
軽く歩いてみるが体調に変化は無かった。
「はよ言えよ……」
「でも大丈夫そうですねセレネは……どうですか? 一度一緒に飛びませんか?」
「……言い方キモイけど、飛べるのこれ?」
「飛べます。鳥型に変形してどこまでも飛べます」
「変形? すげーな、ちょっと海岸まで走ってみてから試してみるわ……落ちたらヤバイ」
海岸線に出ると蛇輪は、あっさりと変形して大空に飛び出した。
「うわ……気持ちいい……」
「どこかおかしい部分はありませんか?」
「いやー別にー?」
鳥型に変形した蛇輪はくるくると回転したり急上昇したり、セレネはしばし飛行を楽しんだ。
(ククク……これは逸材を見つけてしまいました……)




