スピネルとおべんとやの娘
メドース・リガリァ侵攻軍、本陣。
「貴嶋様! 貴方の仰る通り我々が隣国に侵攻を開始したにも関わらず、ニナルティナは一切干渉してきませんな! これなら手当たり次第に領土を広げる事が出来そうです!」
貴嶋の部下が嬉しそうに言った。
「うむ、ニナルティナは壊滅状態、他国に干渉する様な状態では無い……という事なのだろう。この隙に出来る限り侵攻を進める。出来ればユッマランドまで手中に収めたい物よ。我々の侵攻に御裁可頂いた女王の期待を裏切らぬ様に必ず巨大な成果を上げようぞ!」
「ははっ。お、魔ローダーが戻って来た様ですぞ!!」
「ふむ……魔ローダーが居らず、魔戦車すら居ない……詰まらない戦場だな。これでは虐殺ではないか……」
魔ローダーデスペラードの操縦席でスピネルは独り言を言っていた。
「スピネルさーーん! スピネルさん! 僕は砦を三つも落として来ましたよ! 凄いでしょうはははは」
魔ローダーディヴァージョンのサッワが外部魔法スピーカーで話し掛ける。
(元気なお子様だな……何が楽しいのだ……)
「おお、お見事ですな! しかし何時敵に魔ローダーが出て来るやも知れぬ、サッワ君も気を抜くな」
「はい! 有難う御座います!!」
サッワは魔ローダーで敬礼すると、そのまま自分のテントに向かって行った。
「サッワ、凄いじゃないか!! 俺たちは大金持ちだな、俺は鼻が高いよ」
わざわざ敵国の侵攻にまで付いてきている楽団の団長が、テントでサッワにお茶を入れる。
「はぁ? サッワだって……サッワさんでしょう?」
「な、何!? い、いえ……そうですねサッワさん……」
楽団の団長は完全に立場が逆転して、サッワのコップにお茶を注いだ。
「もうまた剣士さまったら生野菜にソースだけ付けて食べてる!! そんなんじゃ力が出ないでしょう!!」
スピネルの大型テントには何度か見た娘が勝手に居た。
メドース・リガリァ軍には、魔ローダー二機を擁する事から勝ち戦を皆が信じ、実際その通りになっていたので多数の民間の商売人も随伴していた。
彼女もその一人で、弁当屋の娘で最近何かとスピネルの周りに出没していた。
「はあ……」
「はあ……じゃないですよっ! 剣士さまったらそんなんだから女の人達に相手にされないんですよっ! どうせ剣一筋に生きて来て、女っ気の無い人生を送って来たんでしょ……ふふ」
「……はぁ」
「はぁじゃないですよっ! 覇気がないのよっ! まあそんな事はどうでも良いの……そ、その……材料が凄く余ってて、捨てるのも勿体無いし……暇だったから、お弁当作って来ちゃった。あ、で、でも勘違いしないでよね、べ、別に剣士様の為だけに作った訳じゃないんだからっ偶然よっ」
(何なんだこの娘は)
娘は赤面しながらお弁当を差し出した。
「あ?」
「あ? じゃないわよっ有難く食べ……てよねっ。別に……凄く美味しかった、とか感想とかは要らないから……」
「はぁ……すんません」
スピネルはぼそっと言うと、お弁当を受け取った。即、無言で食べ始める。
「……それにしてもこのまま勝ち進むと、私達の生活がどんどん豊かになるわね! さっきも珍しい珈琲豆が安くいっぱい手に入って皆で言い合っていたの、このままメドース・リガリァがセブンリーフの中心になって、女王様が全ての国々を統べる女王になるんじゃないかって! 凄いわぁ」
「………………そんな単純なもんスかね」
無言で食べ続けるスピネルがまたぼそっと言った。
「まあ、剣士さまって剣士さまなのに、吟遊詩人みたいに戦反対の人? おっかしいの!」
弁当屋の娘は食べ続けるスピナを眺めながら無邪気に笑った。




