新ニナルティナ公からのお願い…と初恋
「ほら、お前が挙動不審だからフルエレ君が怖がっているよ、何か言えよ」
「あのーえーっと、ユティトレッド王から今度新ニナルティナ公に指名されたレナードだ。よ、よろしくな……」
と、言い終わるや否やで突然レナードと名乗る男は床に土下座した。
「頼むっ殺さんでくれっ! 俺は何もしないっ!! だから殺さんでくれい!!」
「何ですか止めて下さい怖いです!!」
突然土下座を始めたレナードにフルエレは戸惑った。
「こら、止めろ! フルエレが怖がっているだろう! 斬るぞ!!」
イェラがようやく割って入ってフルエレを守る。
「お、おいお前ももう止めろ、フルエレくんが怖がっているじゃないか、済まないね」
腕を引かれようやくレナードは席に着いた。
「一体用向きは何なのでしょう……」
横にイェラが座り、腕を組んで睨む中、フルエレ達はようやく普通に会話を始めた。
「俺は今度新ニナルティナ公に選ばれたまでは言ったな、それでその時にユティトレッドの使いの者がな、表の権力者は俺だが、裏の権力者は雪乃フルエレなのだから、全てはフルエレに相談して決めろ……と言われてな。挨拶に来ようと思っていたんだが……」
アルベルトという青年に交代する。
「それで挨拶に行こうと思っていたんだけどね、それがフルエレくんが住むのが、悪名高い冒険者ギルドのビルだと聞いて、殺される殺されるとびびってしまってね」
「そ、そんな事言われても、私もセレ、いえ使いの者にここに入る様言われただけですから……」
「そうだろうね! 君を一目見て、実際こうして会ってみて噂が如何にいい加減で嘘だらけか分かったよ。むしろこんな可愛らしい少女に大きな負担をかけてる。僕はいい加減な事を言ってる奴を見かけたら、全部嘘だと言って廻りたいよ」
アルベルトはやけに熱弁した。
「そんな事言ってもらったの初めてです。みんな同じ名前だねから始まって、あれは怖い魔女だねって話ばかり……もう慣れっこになっちゃいました」
フルエレは少しホッとして笑った。
「それに……裏の権力者とかも止めて下さい。私も訳が分からないです……ただ引っ越そうと、心機一転しようってだけだったのに」
「それは……ユティトレッド王が君を何か……アイドル的に利用しようとしてるんだろうね。もちろんそういうのは君自身の意志があってこそ、勝手に利用する様な事はするべきじゃないね」
初めてまともな大人の男性に、凄く安心出来る事を言われてさらにホッとする。
「は、はい……そうなんです。私はただいち国民の代弁者として登庁出来ればいいなって思っているだけです」
「ほ、本当か!? 本当に殺さんのだな? 良かった、安心してくれ俺は何もしないから。マジで何もしないお飾りで十分だ、毎日遊んで暮らすからな!」
「しつこいぞお前! 二人の話聞いてたか?? 斬るぞ」
「レナードさんもやめて下さい! 遊んで暮らすとか困ります!! 私だってグルメやショッピングとかしようと思ってるんです! 貴方が遊び惚けたら私が困りますっ!」
「なんて……醜い争いだ……」
イェラは呆れて言った。
「ははは、二人共冗談はそのくらいにしなさい、崩壊したニナルティナの再建は二人にかかっているんだよ。二人で力を合わせると約束して欲しいな。でないと戦災した人々が不幸になる……」
アルベルトから戦災という言葉が出て途端にフルエレは静かになった。
「はは、脅しじゃないよ、もちろん僕もこいつもちゃんと可愛い君を手助けする。だからおいおいと頑張って行こうか。では握手してくれないかな」
アルベルトは手を差し出した。フルエレは目を合わせられず、視線は下を向き気味にゆっくり手をさし出してぽうっと赤面した。
「よろしくね!」
「あぅ……よ、よろしく……お願ぃします……」
「およ?」
フルエレの今までに無い態度をイェラは見逃さなかった。
「どうしたんですかっ!! 何故フルエレが不審人物に手を握られているのですか!? 今助けます!!」
「不審人物はお前だバーカ!!」
突然乱入した砂緒をセレネが激しく突っ込んでいる。
「ちょっと止めて……お客さまなのよ……」
「どうしたのだ、セレネの性格が変わっているぞ……」
「早くその手を、フルエレから手を離しなさい!!」
普段紳士気取りの砂緒が怒鳴り気味に言った。
「本当に止めて!! 一体どういうつもりなの!? アルベルトさんの前で恥ずかしいよ!!」
フルエレは席から立ち上がると、少し涙を貯めて怒りの声で叫んだ。
「どうしたのかな、ああ君が砂緒君か、よろしくね」
「ほ、本当にごめんなさい、この人凄く空気が読めなくて、本当に恥ずかしい」
フルエレは砂緒を無視してアルベルトという男にぺこぺこ頭を下げた。砂緒もイェラと同様に少し赤面して男を見るフルエレの態度が、今までの彼女と違うという事を微妙に感じた。
「お、遂に用済みの時が来た様だなヒャハハハハハ」
何だか良く分からないが、普段異常なくらいに自信家の砂緒が戸惑う姿を見て、セレネは腕を組んで勝ち誇った。




