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珍しい新規のお客さん


「何ですと!? 業務用レギュラーコーヒーが一Nキロ、三千Nゴールドですと!? 本当ですか?」


 砂緒(すなお)は珈琲ショップの店頭で商品を見て驚きの声を上げた。


「本当だよ……ちゃんと書いてあるでしょう」

「恥ずかしい奴だな、静かに買っておけよ」


 セレネがめんどくさそうに言った。


「いやいや店主殿、業務用レギュラーコーヒーと言えば、何の拘りも無い店が買う商品ですぞ、それが元々一Nキロ千二百Nゴールドだった物が三倍近くになるとは、暴利を貪り過ぎではあるまいか?」


 砂緒の主観である。


「だから素直に買っておけって、恥ずかしい奴だな、金はあるんだろう? てか拘りの無い店とか自分で言ってんな」


「いやそれがね、今までは主に海路を渡ってくる方法と、海路から陸路を通ってキィーナール島から運んでくる二つのルートがあったんだが、西側の海路の方は南の方で魔王軍が活動を盛んにして遠回りに行かなくちゃならなくなった、それで嵐に遭う確率が上がってな。それに陸路の方も中部小国群でメドース・リガリァ王国が戦争をおっぱじめやがって、隊商が通り辛くなってる。という訳で南の島々から来る商品は全部値上がりなんですよ! 嫌ならもう買わないで下さい」


「うぬぬ……仕方ない……沢山買っておこう……魔王軍? メンド何国とか?? よく分らんが許せんやつらですね……」


 砂緒は珈琲を値上がらせた魔王軍とメドース・リガリァを激しく憎悪した。


「すいません……この人頭が悪いんです。許してあげて下さい……」

「セレネ、半分持つのです、男女同権です」

「………………」


 セレネは文句も言わず半分持った。



 砂緒とセレネが珈琲を買いに行った後、喫茶猫呼(ねここ)には珍しく二人の新規客が来た。


「お、おかしいなここ……どうしてオーダーを聞きに来ないんだろうな」

「君の態度が不審過ぎて怖がられてるんじゃないかな……少し落ち着きなよ」


 フルエレは物陰から二人の客をそっと見ていた。


「ご、ごめんあのねイェラ……突然立ったり座ったり左右を凄い形相でキョロキョロ見ていたり、すっごく挙動不審のお客が来たの……怖い……変わって欲しいの」

「ほえ?」


 店のなるべく奥で豚の骨を煮込んでいるイェラに、雪乃フルエレが申し訳なさそうに頼み込んだ。


「あのだなフルエレ……私は白いスープ作りに忙しい……それにさっき皆がフルエレに色々な事を言っていたのに、凄くぞんざいな態度では無かったか?」


「う……そ、それは……あんまり深く考えずに……家族の様な存在だから、気を抜いちゃって」


 フルエレが小さく消え入りそうな声で言った。


「みんなフルエレが好きだから色々言ってくれてるのに、それを平気で無視して自分が困ったら助けて欲しいとは……少し自分勝手過ぎるぞ」


「うっ……」

「その変な客は自分で応対するのだ……」

「そ、そんな……怖いよ」


「……な~んて事言う訳無いぞ! 私の可愛いフルエレが困っている危機なのに、放って置く訳ないじゃないかっ、よし行ってやろう!」


 イェラは大きな胸でフルエレを抱きしめた。


「テヘーッ」


 なんだろうこのやり取り。


「久しぶりに大手を振って人間を斬れる、ふふふ真っ二つにしてやろう」


 イェラは調理道具や調味料に埋もれている大きな剣を無造作に取り出した。


「やめてっ! 店内でそんな事したら後処理が大変よ!」

「安心しろ、斬る時はちゃんと外におびき出すからなっ!」

「ホッ……」


 イェラは風来坊の様にふらりと店内に繰り出した。


「どんな奴だ~? ふふふ、あの二人組か」

「あ」

「あ……」


 目が合ったフルエレが不審な客と言っている男は有未(うみ)レナードだった。


「あ、お前……いやお嬢さんがいるって事は……ここにはもしかして……?」


 イェラは目を細めるとぷいっと二人を無視して厨房に戻った。


「あ、どうだった?」

「あれは不審な客ではない。恐らくは新ニナルティナ政権の関係者だ。用向きはフルエレお前にだろう。フルエレが出れば良い。危険は全く無い」


「知ってる人!? え、そ、そんなあ……」

「知らん」


 明らかに不機嫌になったイェラを見てフルエレはしぶしぶ接客に向かった。


「あ、あの何に致しましょうか? あ、そちらの方には厨房の者が何も作りたく無いそうで、私なら砂糖水なら作れますが……」


「俺はカブトムシか……」

「ぷぷっ愉快だね。て、もしかして君が雪乃フルエレ君かな?」


 イェラが嫌っている方では無い、なかなかの爽やかな美男子の好青年風がフルエレに聞いた。


「そ、そうですけど……何か?」

「僕は為嘉(なか)アルベルト、こいつは古くからの友人で有美(うみ)レナードだよ、悪い人間では無いから安心してね」


「あ、はい……それが?」


 フルエレは怪訝な顔をした。

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