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洞窟ミミズを倒す、 出口…


「さっもうとっととゴールしちゃって、鏡を取っちゃいましょっ!」


 美柑(みか)が気を取り直し、ゴールと書かれた方向に歩き出した。


「お、おい罠が無いか気を付けろよ!」

「ギャーー!!」

「どうしたの美柑ちゃん!?」


 大好きな美柑の悲鳴を聞いて、フェレットがエリゼの胸から飛び出して走って行く。


「うわ、何だこれ……気持ち悪い」


 紅蓮がゴールと書かれた看板通りに進み、通路から最後の部屋に入ると、部屋の奥に巨大なミミズがウネウネと立ち上がって這い廻り、その奥の7本のピラーに支えられた石の屋根のある祭壇の上に、取らなければいけない鏡があった。


「何で私の嫌いなモンスターばかり居るのよ!」

「私には存在しか分からないのですが、気持ち悪い物なのですね」

「つまりこいつらを倒して進まないと駄目って事なのかな?」


 美柑が躊躇無く魔法の杖を掲げた。紅蓮も剣を掲げる。


「よーし! フレイアバースト!!」

「エイチファイヤーブレード!!」


 美柑はいきなり強めの炎系魔法を一匹の巨大ミミズに撃ち放った。紅蓮も振り下ろした大剣から激しい炎が噴き出す。


 そもそも動きの遅いモンスターだったので、簡単に二つの激しい炎がミミズに直撃する。ギャーーとでも叫ぶ様にミミズがのたうち廻ると、すぐに炭になって倒れた。かなりの威力だった。

 バリンッッ!!


「え、何ですの!?」


 突然強い破裂音と共に、鏡の上にある石の屋根を支える七本のピラーの一つが砕け弾け飛ぶ。その拍子に屋根を支える他のピラーに、ミシッというひびが入った様な音が鳴った。


「ヤバイね。ミミズとピラーが連動してるのかな? よく見ると倒したの入れて七匹居る様だね」

「どうすれば良いのかしら?」

「じゃあ凍らせちゃえっ!!」


 美柑が魔法の杖を掲げる。紅蓮は実は炎系の技しか無いので何もしない……


「ドリフトアイス!!」


 美柑が少し強めの氷結系魔法を唱えると、一匹のミミズが一瞬でシャキーンと凍り付いた。


「うはーミミズの氷漬け、気持ち悪いね……」

「もう一匹づつ凍らせるのはめんどくさいから、氷山(アイスベルグ)で全部凍らせちゃいますよっ!」


 美柑が魔法の杖を掲げた直後だった。

 バシンッッ!!


 いきなりまた一本のピラーが弾け飛んだ。よっぽど微妙なバランスで屋根が支えられているのか、屋根が見るからにぐらつきだした。屋根が落ちれば鏡は簡単に割れて粉々になりそうだった。


「え、なんでーーーーーっ!?」


「よく見るんだ美柑、ミミズの首って言うのかな、そこに首輪が掛けられている。恐らくそれが念か何かで通じてて壊されても、氷で閉じ込められてもピラーが折れる仕掛けなんだろうね」


「何それーめんどくさいなあ……ミミズの間を抜けて、屋根を凍らせるのは無理っぽいなあ」


 ミミズは魔法で鏡を取る事が出来ない様に、巧にブロックする様にうねって動いている。


「美柑が飛んで取りに行くか、僕がミミズを攻撃しないで横をすり抜けて行くか……」

「や、やだなあ」

「ん、じゃあ僕が静かにすり抜けて行ってみるよ!」

「お、おねがぃ……」


 紅蓮はミミズの行動範囲らしきラインを静かに越えると、ミミズ達を刺激しない様にゆっくりゆっくり歩きだした。


「よーしいいわ紅蓮、その調子よ!」

「紅蓮気を付けて」


 女性二人に応援されて悪い気分じゃない紅蓮。と、油断した直後に突然紅蓮の一番近くのミミズがシャッと毒液的な物を吐き出した。


「わっほーーー!!」


 紅蓮は突然の攻撃にも物凄い反射神経で、変なポーズをしながら避けた。吐かれた毒液は床の敷石を簡単に溶かす様な酸性の物だった。ジューっと湯気が立ち上る。


「きゃーー!! 逃げて!!」


 紅蓮が避けると今度は、避けた先のミミズが毒液を吐き出し、それをさらにアクロバティックな変なポーズで避け続ける。それがラインを越えるまで連続で続いた。


「はぁはぁ死ぬかと思ったよ」

「ご無事でよかったです!」


 エリゼ女王が紅蓮に抱き着く。


「ちょっとー!」

「あ、ごめんなさい」


 慌てて離れるエリゼ女王。


「美柑がダンジョンの低い屋根を、ミミズに当たらずに鏡まで飛んで行くのは難しそうだね、どうすれば良いのだろうか」


「めんどくさい敵ね~もう! フェレットに毒液浴びさせながら進ませようか?」

「……やめなさい、骨にする気か?」

「あ、あの私先程から気になっていたのですが……」

「何何??」


「あのミミズですか? その敵の動きが私には良く分かるんです。多分そのミミズ達は私と同じ様に音と魔法で敵の位置を把握してるのだと思うの」


「ほうほう」


「ですから、私がミミズを一匹づつ呼び寄せて、それを美柑ちゃんがテクニカルに頭と胴体を凍らせて、紅蓮さんが剣で首輪の部分だけ輪切りにして、首輪を奪って行けば良いと思うの……」


「うっは! めんどくさい作業だね。でもそれが一番効率的かもしれないね」

「私に良い考えがありますの」


 エリゼ女王は少年からもらった笛を取り出すと、ミミズの行動範囲のラインに入る。


「危ないエリゼ!!」


 エリゼ女王は恐れる事無く、毒液射程ギリギリ外から、一番手前のミミズに向けて笛を吹き始めた。一匹のミミズが笛の音に釣られてズズズっと進んで来る。


 エリゼは後ろ歩きで毒液の射程から外れながら後ろに進む。ミミズが行動ラインぎりぎりまで来た。


「来たっ! フロスト!! ドリフトアイス!!」


 美柑が丁度首輪部分を残す様にミミズを凍らせる。すかさず紅蓮が大剣でシャシャッと首を輪切りにした。


「うっわシャーベット状になってて気持ちわるいっ!」


 紅蓮がシャリッとした巨大ミミズの輪切りの胴体から首輪を一つ奪いさった。


「では、残りのミミズも全て倒していきましょう!」


 急に自信のついたエリゼ女王が仕切り始めた。



「地獄……結局首輪を奪う役の僕が一番の地獄だったよ」


 紅蓮の腕にはジャラジャラと残りの首輪が全て揃った。


「では、皆さん参りましょう!」

「は~~い!!」


 三人揃って鏡の置かれた台座に向かう。


「では、エリゼが鏡を取りなよ!」

「え、良いのでしょうか?」

「鏡を取るアイディアはエリゼが思い付いたんだしねっ!」

「で、では……取っちゃいますね……ここかしら」


 エリゼが屈んでゆっくりと手を伸ばし、鏡を掴もうとした。


 ビュンッ!!

 突然屋根の中心から、鋭い金属の大きなタガネが飛び出して来た。紅蓮は恐るべき動体視力で落ちて来た直後に既にエリゼを抱き抱え、一緒に倒れこんでタガネの攻撃を避けた。


「あっぶな~~い! 何よ……って鏡がっ!!」

「え? どうしたのですか?」

「こりゃ酷い……折角苦労して取り掛けだった鏡が粉々だよ……なんだよこれ」

「見て紅蓮!! 台座の後ろに無造作に報酬金が置いてあるよ」

「凄いね、高価値の金のコインで、一人三百万Nゴールドはありそうだ」


 紅蓮が持ち上げずに剣の先で袋を破く。


「何か仕掛けとか無いでしょうね? てか手渡ししようよ……なんて無礼なのよっ!」

「凄いお、重いですわねっ!」


 エリゼ女王が細腕で持ち上げてしまう。


「うわーお! エリゼ駄目、置いて置いて!!」


 ガガガガガガ……

 何かが開く音がして周囲を見ると、祭壇のさらに奥の壁が開いて通路が現れた。太陽の光が差し込んでいた。


「出口っぽいね。親切設計なのかな?」

「やたー! いちいち来た道を戻らなくて良いのね!!」

「そういう事なのですね……貴嶋……これが貴方の意志……」


 エリゼ女王は二人に見えない所で悲しい顔をした。そうして割れた鏡の欠片を一つ拾うとポシェットにそっと入れた。



 通路に向かうと本当に出口だった。外に出ると城どころか街の中の、目立たない水路に掛かる橋の下から外に出る様になっていた。


「エリゼ……僕が君をパーティーメンバーだから等と言って、無理に外に出したのには理由があるんだ……」

(うわ、来たー)


 美柑はドキッとした。


「な、何でしょう……」

「僕の国には僕に恐怖政治を敷く姉上が居てね……なんだか君にイメージが重なってしまうんだ……」

「え?」

(ホッそんな事かーっ!)


 美柑は一瞬で笑顔になった。


「その姉上にはシューネという、目付きの悪い銀髪の陰険な幼馴染が居てね、僕は苦手なんだけど姉上とシューネは良く気が合って、密かに宮殿を抜け出して街に出たりしてたみたいなんだ。その事を嬉しそうに時々話すんだよ」


「まあ……」

「……それで、その同じ事をしたらエリゼは喜んでくれるかなって、ちょっと余計な事を考えてしまったんだ」

(や、優しいヤツじゃない……)


 美柑は我が事の様に嬉しかった。


「嬉しかったです……こんな楽しい事は久しぶり」


「あ、あのさ……お城の中みたいに快適とはいかないと思うし、介助の方も完璧に出来るとは思わないけど、前みたいな事は御免だけどね、良かったらさこれからも一緒に旅しないかな? あんな暗い城の中に戻っても仕方ないよ!」


「そうだよ! 二人よりも三人の方が楽しいかも! 私も色々手を引いて助けるからね!」

「紅蓮……美柑ちゃん……」


 エリゼ女王は涙が滲むくらいに嬉しかった。不自由な事が多いかもしれないけど、何者にも囚われない暮らしがあるかもしれない、確かに自分のこれまでには無い物だった……憧れもあった。


「私は………………」


 エリゼ女王は鏡の欠片が入ったポシェットを軽く握ると、城が存在するだろう上を眺めた。

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