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眠れぬ夜、 ダンジョンへ


 しかしすぐに気を取り直した。冷静に考えなければならない、旅のパートナーであり美人の女王とは言え相手は盲目の女性。


 ここで無用なエロ目線行為を行えば、人道に反し末代までの汚名を着よう……さらにはセブンリーフ大陸における神聖連邦帝国の評価をも貶める事になりかねない。


 ……ふふっこの試練、必ず乗り切ってみせますよ父上……等と心の中で思った。


 ストッ

 そうこうしている間に上着を脱ぎ捨てるエリゼ女王。


「いや、話聞いてるっ!?」

「なんでしょう??」

「なんでしょう……では無いよ! まだどう段取りするか決めて無いよね? 自分勝手とか言われない!?」


「いえ……言われません」

「いや、女王だからね言われないよね!? でも今ちょっとは話聞いてくれるかな? 取り敢えず手止めてよ?」


 ストッ

さらに一枚脱ぎ捨てた。


「だーかーらー! 脱ぐのやめてっ!! ねえ?」

「はぃ?」

「はぃー? じゃないのっ! 手止めて!!」


 恐ろしい事にどんどん脱ぎ進めるエリゼ女王の手を掴んで止める。


「なんだか……こうやって手首を掴まれると、赤の他人が見たなら、無理やり脱がされてるようにも見えますねっ」


 エリゼ女王がにこっと笑って言うと、紅蓮は思わずぱっと手首を離す。


「えーい、スカートも脱いじゃえ!」

「いや、やめんかい! 何故そこまで急いで脱ぐ?」


 エリゼが少し屈み、スカートに両手を掛けた場面で、紅蓮は堪らずくるりと回転して背中を向ける。


「ではこうしましょうか? 僕は目に固くタオルを巻き目隠しをするよ。普段から洞窟など明かりの無い場所での戦闘の鍛錬をしているので、ある程度の行動は出来るし。これで介助する、いいよね」


「だめです!」

「え、即答で駄目? なんで?? 良いアイディアだろう」


「それでは私とほぼ同じ条件です。ちゃんと確実に周囲を目視で確認する介助じゃないと……もし転倒して頭を強打したりするとどうするのですか? あ、それと今全部脱ぎました」


「え全裸? どうして最後まで脱ぐの??」

「だって……美柑(みか)さんのお姉さんの話の時、素潜りの時は全裸か? と聞きましたよね?」

「いや、ギックッッ!!」


「あんな事普通は聞きません。あの話の時、海を泳ぎまわる健康的な若い女性の裸を想像していたのでしょう」

「………………」


 図星だった。


「……それで」

「いや、それでって話繋がらないよね!? ちょっとバランス悪いよ君! もう取り敢えず着てくれないかな!?」

「はぃ……ごめんなさい、喜んでもらえるかと……」


 背中から聞こえるエリゼの声は、はっきりとシュンとしていた。紅蓮はきつく言い過ぎたかと悪い気がして来た。


「きゃっ!!」

「え?」


 声がして振り返ると、相撲の突っ張りの様に両手を押し出して、こけて倒れて来るエリゼの姿があった。

 ドンガラガッシャン!!


「ああ!?」


 スカートか何かに引っ掛かって倒れて来た全裸のエリゼ女王を、下敷きになった紅蓮が両手で支える形となっていた。


 しかし問題なのは、その両掌は下向きになった豊かで柔らかな胸を、はっきりと包むように掴んでしまっていた。


「う、うわああああぁ!?」

「ま、まあ、ごめんなさい足が……」


 ガラッ!!


「んも~凄い音! 何やってるのですかっ? ……? ギャーーーー!! ゴ、ゴメンナサイッッ!!」


 バンッッ!!

何故か最悪のタイミングで健康的な深い眠りが解け、物音を聞いて美柑が様子を見に来てしまった。


「うわ、うわあああ、あああああああ!? 早くどいてくれないかな、それに服も着てよ!」

「あ、はい……すいません……何か誤解されたみたい……ね」


 紅蓮は無言で首を振ると、急いで美柑を追いかけた。


「あ、紅蓮!!」



 美柑は窓側のソファーで細い目で外の景色を見ている。虚ろな手でフェレットを遊ばしていた。


「あ、やあ! 美柑目が覚めたんだね。変な物が入って無くて本当に良かったよ……」


 一縷の望みを託し、全力で無かった事にしてみた。


「何まだ爽やか芸してるのっ? 乳揉んでたくせに……」

(爽やか芸!? やっぱりガッツリ見てるーーーっ!!)


「もういいですよっ! 紅蓮も男の子だし、エリゼは美人だし、当然ですよねっ!」


(終わった!? 爽やかで優しいお兄さんポジションで可愛い美柑と二人での楽しい旅が終わった!? またあの一人での辛い修行の旅に戻るのかよ!? いやだはあああああああ!!)

「違うんだ! あれは誤解なんだ! 全く違うんだ!!」


「何っ……誤解って」

「あれは………………医療行為なんだ!!」

「あぁ、いりょうこういね……判りますよっ! って判るかあっっ!! もうあっち行ってて下さい」

「いや……ほんと、ちが……」


 紅蓮は震えながらその場を去った。入れ違いにやってくるエリゼ。


「本当に違うのよ、私が無理に介助をお願いして事故っただけなの!」

「うふふ、そんな感じでしょっどうせね」


 エリゼの声を聞いて、美柑は少し笑顔になり、両手でフェレットと遊び始めた。そこにフラリと剣を持った紅蓮が戻って来た。


「今から少し超高速素振り一億回やってくる。先に寝ててくれないかな?」


 声も顔も元気が無い、灰色のゾンビの様になった紅蓮が力無く言った。


「ど、ドシタッ!?」


 美柑が許してやろうと思っていた矢先の話だった。


「うううほおおおおおおおおおおおお!!!」


 紅蓮は叫びながら走って行った……


「なんだか悪い事を……してしまったわね……」

「ま、こういうのもいいと思うよっ」



 チュンチュン、スズメが鳴き次の日の朝になった。


「おはようございます……」


 昨日の灰色の顔から、一睡もせずに素振りを続けた紅蓮がさらに顔色が悪く、力なく二人に朝の挨拶をした。


「おっはよ~~紅蓮!」

「おはよう御座います……紅蓮」

(およっ!? 忘れてる?? 昨日の事は幻だったのかも……)


 一睡もせずに頭がヘロヘロになりおかしな思考回路に陥った紅蓮は、昨日の事が幻だったのではないかと一瞬思った。


「昨晩は、お楽しみでしたねっ!」


 美柑が意地悪く言うと紅蓮は、ぴしっっと固まった。



「おおよくぞ参られましたな。それでは城地下のダンジョンに眠る王家の鏡を取る儀礼を行いたいと思う。よろしいかな?」


「は~い!」

「お願いしますわ」

「……はぃ……」


 城の大広間に集った紅蓮、美柑、エリゼ女王だったが、若干一名魂の抜けきった灰色になった者が混じっていた。

 ギギギギギギ

貴嶋が城の中を案内し、隠し扉を開けると地下に通じる階段が現れた。


「それでは二人共、エリゼ女王をしっかり守るようにな」

「は~~~いっ!」

「……ぃ」


 ズザッズザッと階段を降りて行った。



「しょっぱなから、何なんだこれは!?」

「イケメン戦士用の門、美淑女用の門、ガキ用……?」

「なんか一枚だけ悪意のある門が混じっているわね」


 階段を降りて進むと、丸い広間に到達しそこには三枚の石の扉があった。


「安心してください、ここには死の危険は殆どありません! 王族の儀礼用な訳ですから……」

「じゃあ取り敢えず指定された扉の前に立ってみる?」

「……そうだ……ね」


「もう! いつまで引きずっているの? 乳揉んだ事なんて皆忘れているわよっ!」

(いや、言っちゃっているじゃないかっ)


 三人がそれぞれ指定された扉の前に立つと、扉が光りそれぞれ扉の中に吸い込まれて行った。



「ここは……どこなんだ!? うおーい、美柑無事か!?」


 一人になった紅蓮は必死に美柑を呼び続けて歩き出した。どんどん石で出来たダンジョン内を歩いていく。遠くに薄っすらと人影が見えた。


「美柑か!?」

「あ、紅蓮! 良かった。すぐに合流出来た!!」


 紅蓮の声を聞いて、エリゼが走り寄って来る。


「エリゼ無事かい? 美柑は近くにいるのかな?」

「い、いいえ知らないの。私も一人で誰か探していたの」

「ふーむ、離れ離れになってしまった。とにかく先に進んで美柑を探そう!」

「はいっ!」


 エリゼは紅蓮の手を握った。



「ちょっとーー!! 紅蓮ーーー! 怒ってないから出ておいでっ!」


 美柑が左右をキョロキョロしながら歩き回る。肩の上の魔法のオコジョ、フェレットも不安そうにおろおろしている。


「はぁ……誰もいない。ここって最後はちゃんと救助してくれるのよね? テーマパークみたいに……」


 魔法の杖を握り締め、ゆっくり歩みを進める美柑

 ドシーン、ドシーン


「うあ……何か来たー!」


 明らかに紅蓮やエリゼじゃない重い足音がドシンドシンと迫って来る。

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