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魔王、沿革・アウトライン 2 魔王だモン!  (抱悶顔①)


「シューネ、父上が、聖帝陛下がセブンリーフに親征する等と……私に秘密でその様な計画があるのですか?」


 シューネは少し驚いた顔をした。


「……どこからその様な? まぁ、大体は事実で御座います。大量の船の建造、魔戦車の調達、魔ローダーの整備、当然兵糧や兵士の準備……具体的に計画は進み、いつでも実行出来る様に軍部では話は進んでおります」


「ええ!? なんという事……ではシューネ、貴方はどう思うのですか??」


 深刻な顔をする姫乃を見て、再び頭をぼりぼり掻いた。


「まあ、無理ですね。聖帝陛下は親征の長旅には耐えられないでしょう」


 姫乃は慌てて周囲を繰り返し見た。


「貴方が私に……私達聖帝一族に絶対の忠誠を誓う忠臣である事は私が一番理解しています。しかし率直過ぎる物言いはあらぬ疑いをかけられます」


「では言い方を変えましょう、周囲の者が全力で聖帝陛下をお諫めしますので親征など起きません」

「ああ、そうなのですね……少しホッと致しました」


「しかし別の話もあります。軍の一部には魔王討伐の修行から帰らぬ若君様を待つより、姫殿下、貴方を親征の旗頭にしようとする動きも……どうぞ巻き込まれぬ様、お気を付けください」


 誠意の籠った顔で心から心配している事が判った。


「言われなくとも嫌です! その様な事はあり得ません!!」


「それともう一つ、私が姫乃、貴方の手を引いて歩く事は決して二度と金輪際もうあり得ません。もう絶対に昔には戻らないとお心得下さい。それが臣下の道なのです」


「……シューネ……」


 部屋から出ていくシューネを見届けて、姫殿下・姫乃は黙ったまま目を閉じて下を向いた。



 ーセブンリーファまおう軍……


 舞台は再びセブンリーフ大陸に戻る。セブンリーフ南部大火山のふもと、人々が魔王軍と呼ぶ地域の鬱蒼とした森の中に建つ魔王の居城。


「わはははははは、やめるのじゃ! そこはくすぐったいのじゃ!! それ以上舐めるとコンプライアンス的にマズイのじゃ!! わはははは、止めろベアー!」


 黒いコスチュームに身を包んだ小さい女の子にしか見えない魔王が、巨大熊達と戯れ遊んでいる。ベアーとは魔王が飼っているお気に入りの巨大な熊の名前であった。魔王はペットとして多数の熊を飼っていた。


「こら! ベアーは飼っているペットでは無いのじゃ! ベアーは友達なのじゃ!!」


 魔王はその凄まじい魔力により、地の文にまで突っ込みを入れた。


抱悶(だもん)様、ココナツヒメ様がおいでになりました……」


 禍々しい魔王の椅子で熊と戯れる魔王・抱悶に家臣の者が謁見を報告する。名前を聞いてそれまでの年齢にそぐう屈託の無い笑顔が消え、うえーっと鬱陶しい者が来た……という表情をした。


「何なのじゃ~またあやつなのか? ベアー達が怖がるので避難しに連れて行ってやるのじゃ……」


 家臣達が大量の巨大熊達を熊牧場に連れて帰る。


「抱悶さま、お会いしとう御座いました。貴方の忠臣、ココナツヒメに御座います」


 真っ青なドレスに氷の様な蒼い瞳、さらに氷の様な艶やかな長い髪をした神秘的な女性が現れた。


 しかしその表情にはどこか南洋的な名前とは裏腹に冷たい、何者も信用していない底知れない性質の暗さが見え隠れしていた。


「何なのじゃお前は! 名前はトロピカルフルーツみたいな感じなのに、氷の女王のお前が来ると室温が下がって体が冷えるのじゃ! 炎の国にはお前は不釣り合いなのじゃ!」


「申し訳御座いません……愛ゆえにその様に厳しいのですね?」

「違うのじゃ、嫌いじゃ。で、用は何なのじゃ?」


 魔王はココナツヒメに全く興味が無いという感じだった。


「まあ、つれないのですね! 魔王さまお可愛い!」


 ココナツヒメは我々の世界で言う所の、昭和のぶりっこの様に両手を頬に当てふりふりと体を振った。しかしクールな外見と全くそぐわない態度に余計に寒さが漂う。


「話が通じぬ奴じゃ! 何用か早く言って帰れ!」


「はい……実はメドース・リガリァに魔ローダーを与えても良いでしょうか? ユティトレッド王が北方列国を纏めようとする動きがあり、ここ炎の国・魔王城にいつか攻めて来ぬかと、抱悶さまのお身が心配で心配でなりません。防波堤にメドース・リガリァを利用したいと思いますの……」


「はぁ? 儂は儂の身くらい自分で守れるのじゃ! 余計な心配等せずとも良い」

「そ、そんな……ココナ、いつもいつも抱悶さまの事ばかり考えておりますのに……」


 魔王抱悶はこれは拒否すると長くなりそうだな……と思った。


「ああ? 良い良い。儂の魔ローダー、ル・スリー以外なら与えても良いぞ! では帰れ!!」

「ああ、有難き幸せです!!」


 聞くだけ聞いてココナツヒメはぼうっと闇に消えた。


「どこまでも不気味な奴じゃ……」


 魔王は熊達と比べてもココナツヒメを全く信用していない様であった。



『ココナ、僕の可愛い子猫ちゃん、今日もセブンリーフ大陸は民を顧みない悪い王様達の下、争いが絶えないかい?』


『一緒に戦争の無い平安楽土な世を作りたいね……君は氷の女王でもハートはホットだね……早く逢いたいよ……ココナ』


 クリアー系の雑貨や家具が並ぶ、魔王城の中のココナツヒメの自室で彼女は凍ってバリバリになりかかっている手紙を、青いドレスの胸に押し当てた。手紙の文面は赤面する様な熱い文字が並ぶ。


「はぁ~~聖帝さま、今日も魔王さまにメドース・リガリァへ魔ローダーを与える様に工作して来ました……立派に各国の分断に貢献致しております……と書き書き」


 ココナツヒメは乙女の様に、ときめきながら手紙の返事を書いた。ココナツヒメは神聖連邦帝国聖帝の事を年若いイケメン美青年と勘違いして文通を続けていた。


「早く、お逢いしとう御座います! 私の聖帝陛下さまっ!!」


 今度は書き上げた情熱的な手紙の返信を、自分の胸に押し当てるココナツヒメ。ココナツヒメ、雪乃フルエレと砂緒(すなお)の最大の敵となる氷の大魔女であった。



・まおう抱悶顔絵①

挿絵(By みてみん)

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