ユティトレッド魔導王国の特使
「はははははははは、フルエレが恐ろしい冒険者ギルドの女主人ですか、傑作ですね! いやある意味当たっているとも言えます! はははははは」
セレネがフルエレの事を恐ろしい人物だと想像していた事をイェラや猫呼に言うと、横で盗み聞きしていた砂緒が興味津々で近寄って来て爆笑しながら言った。
「誰ですか……この馴れ馴れしく不気味な目付きをした男子は……」
セレネはあからさまに嫌悪感丸出しで砂緒の事を聞いた。
「気にしないで! この人は評判の悪いただの従業員よ。無視すれば良いのよ。ちょっとあっち行ってて頂戴!」
フルエレがしっしっと砂緒を遠ざける。
「私女子高なので男子に免疫が無くて……すいません」
「颯爽とした見た目と話し方とギャップが凄いな」
イェラもセレネをじろじろ見て興味津々という感じだった。
「こここ、この美しいお姉さまは……??」
セレネはイェラを見てあからさまに赤面する。
「イェラだよろしくな。フードメニュー調理を担当しているぞ。眼鏡を取れ!」
「ええ!? 恥ずかしいです。無理ですよ」
セレネは眼鏡をぎゅっと押さえた。
「最近兎幸を見ないと思って暇だったけど、新しい変なのが来て嬉しいわね」
猫呼も久しぶりに猫耳をぴくぴく動かした。
「話が一向に進みませんね! 一体この眼鏡女子高生は何しに来たのかいい加減聞いてくれませんか? 盗み聞きしててイライラするのですが」
「貴方は本当にあっち行ってて!! 今度来たら怒るわよ」
フルエレが立ち上がって殴る振りをすると、砂緒は無言で遠くのテーブルに向かった。
「……なんだかフルエレさん、あんな変な生き物と親しげに話すのですね……」
「同僚だから! 仕方なく接しているのよ!!」
「そうなのですね、心中お察しします……」
セレネは本当に嫌悪感丸出しでゴキブリでも見る様に、砂緒をちらっと見た。イェラも猫呼もこの二人が、時々だがラブラブな事がある等決して言えなかった。
「そうね、そろそろ冒険者で無いなら、何しに来たのか教えてくれないかしら」
フルエレがセレネに飲み物を差し出しつつ切り出した。
「あ、あの……私これでもユティトレッド魔導王国の特使なのです。私、これを貴方にお渡しする為に来ました。ユティトレッド魔導王国国王からの親書です!」
緊張して軽く震える指先で、鞄から封蝋された手紙を取り出すとフルエレに渡した。
「あ、ありがとう……ユティトレッド王? なんで私なのかしら??」
フルエレは親書を読み始めてずっと黙り込んだままだった。
「どうしたのだ?? いい加減何が書かれているか教えて欲しいぞ」
しびれを切らしたイェラがフルエレに聞いた。
「……うん、ごめんなさいね、何か建国されたばかりの西ニナルティナ、新ニナルティナ事ね、の国政にオブザーバーとして参加して欲しいですって。何かしらこれ? 訳が分からないわ」
セレネがにこっと笑った。
「オブザーバーとは名ばかりで、実際にはフルエレさんに国主として裏の全権限が与えられるらしいですよ!」
「……嫌です! そんなのいいです。何故私??」
フルエレは即座に断った。
「凄いですよフルエレ! 若くしていきなり国の主として裏から権力を振るえるなんて、〇れん坊〇軍や水〇黄〇と同じポジションではないですか!」
再び砂緒が割って入る。
「何をまた訳の分からない事を言っているの?」
「二人で自分達好みのパラダイスをこさえましょう! まずは国費からブランドバッグや高級靴を買いあさりクローゼットにずらっと並べたり、毎日美味しい物を食べ続けましょう! 何かあっても表の代表者に責任を押し付ければ良いのですから」
「駄目でしょ! 知らない間に貴方、物凄いスピードで俗化が加速してないかしら? 食べるのが嫌だとか不正は駄目だとか言っていた貴方はどこに消えてしまったの?」
フルエレは飽きれて頬杖を付く。
「この男を斬っても良いか? 横で聞いていて恥ずかしいぞ」
イェラが剣を持ち出す。
「あ、それなら私もお供しますっ!」
セレネも同調する。
「駄目っ! それに硬さだけは凄いからやっても無駄よ……放っておきましょう。やっぱりあっちへ行ってて……」
「何故ですか!? こんな良い話は無いですよ。今すぐにでも受けるべきだと思います! 新しい土地で新しい生活、わくわくしませんか?」
何故かしつこく食い下がる砂緒に不審がるフルエレ。
「もしかして貴方、何かこの土地から私を遠ざけたがってないかしら? 私をここから遠ざけて何を企んでるの?」
余りにも鋭い点を突かれて砂緒が黙り込む。
「………………」
「え? 何故野良猫と目が合ったみたいに、ハッとした顔して固まるの? 図星なの??」
「一旦私は引き下がります。でもまだ諦めていませんよ……」
内心七華と外で会いやすくなるな……等と薄っすら思っていた事を、見抜かれそうで砂緒は一旦撤退した。
「あの変な生き物の事は一旦忘れて下さい。決してあの人と同調する訳では無いのだけど……フルエレさんに来て欲しいのには二つ理由があります」
「行く気は無いけど……何かしら?」
フルエレは真面目に聞くだけは聞いて再び断ろうと思った。
「一つ目はフルエレさんは心ならずもニナルティナの破壊に関わってしまったという事です。壊してしまった以上は再建にも関わって欲しいのです」
「それは……壊したのは事実だけど、救う為の不可抗力だわ! 私が率先して壊した訳では無いもの」
「もちろんそれは判っていますよ! けれど金色の翼の魔ローダーが空から降りてくる姿を目撃した人が多いのです。そんな影響力の大きいフルエレさんがニナルティナの再建に関わる事で人々の気持ちがとてもアガります。それに凄く怖い人だと思っていたフルエレさんが、こんな魅力的な女の子だったなんて知ったら皆喜びます」
「褒め過ぎよ……全部機械の能力じゃない」
「いいえ、中に乗ってる人の力です!」
「彼、砂緒も乗っていたのだけど……」
「え?」
セレネは信じられないという感じで絶句した。
「でもそれだけでは無いです。もう一つの理由は実はユティトレッド王は、今回軍事力に物を言わせていたニナルティナが崩壊した事を契機に、リュフミュランと新ニナルティナとユティトレッドの三国で列国同盟を結びたいとお考えなのです。もしこの同盟が成れば、これまで戦乱続きのセブンリーフ大陸に、新しい局面が来ると考えられているのです!」
セレネは自分自身も賛同者なのか机に手を着き、かなり熱心に同盟の重要性を説いた。




