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フルエレの裁定、残った禍根


「撃て!!」


 二人の魔ローダーがハッチを毟り取ろうとするのを見計らう様に再び魔戦車部隊が攻撃を開始した。ここで繊細な癖にキレやすいフルエレが突然ぶち切れた。


「もう良い、止めろ!! 下がれ!!!」


 魔法外部スピーカーから大音響が流れ、一瞬攻撃が止んだ。


「構うな! 従う道理は無い! 撃ちまくれ!!」


 その声でフルエレがさらに切れた。


「砂緒、雷を出して。鉾を振り下ろす瞬間に雷を出して!!」

「いいですね! 面白そうです。魔戦車部隊全滅ですか?」


 フルエレが鉾を振り上げた瞬間に砂緒は雷を出した。


 砂緒はフルエレの指令が嬉しくてフルエレに影響があっては駄目だと同席では控えていた事を思い出したが、威力をなるべく抑えて出した。


「下がれ!! こうなりたいかっ!!」


 フルエレが鉾を海に向けて振り下ろすと、近くの小島に猛烈な太い雷が落下し、凄まじい爆発と衝撃波と轟音が周辺を襲った。


「きゃーーーーー!!」

「何をしているのだ」


 成り行きを見守っていたイェラが猫呼を庇う。凄まじい爆発を見てようやく魔戦車部隊の攻撃が止んだ。


「攻撃が止まりましたね、ここで各国軍に引き下がる様に促しましょうフルエレ」

「え、私が??」

「こういうのは女性の方が丸く収まる物です」

「分かったわ……」


 シーンと静まりかえる魔戦車に向けて少し歩くと鉾の柄を地面に突き立てた。


「各国の軍隊はご苦労でありました。旧ニナルティナの統治は最初からリュフミュランとユティトレッドが共同で行うと取り決めておりました……」


 操縦席内で緊張するフルエレは大きく息を吸った。


「中部各国の軍隊の皆様はこのままこの地に留まる事は私が許しません! 今すぐに引き返し、それぞれの国に戻るのです」


「そんな話が通るか! その群青の魔ローダーはメドース・リガリァが仕留めた! それは渡してもらうぞ!」


 メドース・リガリァの指揮官が最後までしつこく食い下がる。


「お黙りなさい!! この群青色な魔ローダーは私達が仕留めた私達の獲物です。嘘を付くのは止めなさい。今すぐ引き下がらないのならば、そのメドース・リガリァという国をすぐさま焼き尽くして来ます。良いのですね?」


「ぐぬうう……なんたる言い草。北でぬくぬくと贅沢三昧をしながら何を言うか……南から攻め上る魔王軍を防いでいるのは中部の我々ではないか……」


「司令官殿、ここは堪えて下さい。あの魔ローダーの力は尋常ではありません」


「……判った……しかしこの軍派遣に反対しておられた美しき優しき王女になんとご報告すれば良いのだ……領土の一つも献上出来ず……この屈辱絶対に忘れんぞ。どんな手を使っても借りは必ず返す」


 メドース・リガリァ軍の指揮官は恐ろしい形相で魔ローダーを見上げると、全軍に撤退を命令した。中部で一番躍起であった同軍の撤退によって、各国の軍は潮が引く様に撤退を始めた。


「魔法スピーカー切り。はぁ~~上手く行って良かったわ……」


「フ、フルエレ、最高です! ははははははは、国を焼き尽くす等とほぼ悪役の台詞ではないですか。傑作過ぎて抱きしめたいですよ」


 座席の後ろで砂緒が腹を抱えて爆笑している。


「止めて! 酷かったかしら? 今の人達に嫌われたかしら? 走って行って謝った方が良いかしら??」


 突然弱気になったフルエレがおろおろし始める。


「良いです良いです。どうせ大したこと無い連中でしょう。放っておけば良いのです」

「話している内になんだか役柄にノッてしまって……厳しき高貴をイメージしてみました」

「それで良いのですよ。高貴なフルエレもとても素敵でした。好きですよ」

「そ、そうかしら……」


 ブシューーーー!!!

 二人がいつもの様に馬鹿なやり取りをしている最中だった、ル・ツーの体中から猛烈に霧状のガスが噴き出し、辺り一面真っ白な世界になり視界が遮られた。


 魔戦車と各国軍が去り、最後の力を振り絞り中に乗る三毛猫が血路を開く為の最後の足掻きだった。


「またこのパターン! 逃がすか!!」


 砂緒が辺りの白い霧に向かって闇雲に鉾を振り回そうとした。


「駄目っ!! 生身の人間に向かって魔ローダーで攻撃しては駄目っ!!」

「何故っ相手は三毛猫ですよっ!!」

「それをしてしまったら本当に後戻り出来ないのよ、絶対に止めて……」


 再び二人の操縦が対立し、魔ローダーは動きをロックした。


「私はフルエレの事が本当に好きですが、少しは私の意見も聞いて欲しい物です……」

「……ごめんなさい」

「開けます! フルエレは出ては駄目ですよ! 直ぐに閉じて下さい」


 砂緒は無断でハッチを開けると躊躇なく飛び降りた。


「あっ砂緒! 待って!!」


 フルエレの声を無視して飛び降りた砂緒は、ズシャッと着地すると闇雲に辺りを走り回る。



 ボヨン!

いきなり砂緒の顔に覚えのある感触が当たった。


「うわ!?」

「砂緒か? おい心配したぞ! フルエレはどうした??」


 イェラは大きな胸で砂緒を受け止めぎゅっと抱き締めた。


「いえ、ちょっと嬉しいですが、今は離して下さい。この辺りに三毛猫が逃げています!」

「何!? 猫呼は?? おーーい猫呼!! どこだ??」


 イェラは霧の中で猫呼を見失っていた……


「二手に別れて探しましょう。イェラ、三毛猫は女好きの変態です。気を付けて下さい」

「舐めるな、これでも私もそこそこ強いのだ。それより猫呼が心配だ、急げ!」

「はい……では」


 砂緒は一瞬、霧の中で突っ立つ魔ローダーと目の前を走り去る頼もしいイェラを見比べた。


 フルエレが好きなのは当然だがイェラも好きで、人間の心を持ち始めたばかりの砂緒にとって、二人に対しての好きがどう違うのか、区別が良く分からなくなって来ていた。


「おやおや、こんな所で……ツッ、突っ立って、何をしているのですか?」


 声がする方を振り返ると、見るからにボロボロの三毛猫が口だけで無理に笑顔を作って立っていた。


「貴様……全身骨折とかしてるんじゃないんですか? 立っているのが大変そうに見えますが」


 砂緒の指先から電気がほとばしる。


「お待ちなさい! こんな霧が出ている状態で雷を使うとお友達達に影響があるかもしれませんよ! 先程の美人巨乳お姉さんとかにね」


 歪んだ笑いを見せる三毛猫。しっかりイェラの事を把握されていて、一瞬で殺意が湧いた。


「足腰ガタガタの今のお前なら殴れるかもしれませんよ!」


 砂緒は電気のほとばしりを消し、拳を白く透明化させた。


「おっと……こんな事する為に現れた訳では無いのです。耳よりな情報を一つ、今頃七華(しちか)王女が部屋の中でどうなっているのか……お知らせしたくて……ククク、ツッ」


 砂緒の顔から血の気が引いた。


「七華に……何かしたのか? おい!! 言え!!」

「ククククク……」

「こら待て!! 七華がどうしたんだっ!! 言えーーー!!!」


 笑い声を残して三毛猫は濃い霧に姿を消した。砂緒は一瞬にしてフルエレ、イェラ、七華誰に向かって走れば良いのか分からなくなってしまった。

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