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月 メルヘン、月面の二人と告白…


「どんどん月が近づいてくるね……」


「地球と月の関係に似ている惑星だとしても、相当な距離が離れているはずです。この魔ローダーは凄まじい速度が出ているはず。月に接近したらちゃんと減速しないと駄目ですね」


 二人は完全に戦闘の事は忘れ、呑気に月旅行に夢中になっていた。


「どんどん接近して来ました、確かアポロの月着陸ではゆっくり着陸してたイメージなので、軽く逆噴射しましょう」


 砂緒が言うと、蛾の羽根の鱗粉の様に、翼全体が金色に光ると粒子を降り注いでスピードダウンを始め、ゆっくりとふわりと月面への着陸を開始した。


「どんどん近づいてくる。怖いわ!」

「ははは大丈夫ですよ」


 等と言いつつ砂緒も内心このまま月面に激突したら間抜けだな等と、他人事の様に考えながらフルエレの手を握った。


「ほら、着地した」


 心配した結果にはならず、かなりスムーズに月面に着地した。


「何も無い……砂漠みたい。降りてもいいの?」

「ふわーーー絶対駄目です!! 絶対にハッチは開けないで下さい、凍って死にますから!!」


 砂緒はフルエレがハッチを開けてはいけないと思い、両手でぎゅっと体を抱きしめた。


「あっ」


 本当に偶然に今度はいとも簡単に、フルエレの両胸を握りしめていた。


「う、うん……分かったよ。開けないから……離して」


 何か変な展開になってはいけないと思い、フルエレは至って冷静に離す様に促した。


「は、はい……」


 砂緒も妙に生々しい感触がして、冗談や軽口の類が一切言えなくて、ぱっと離した。


「月って、本当に何も無いのね……もっと何か煌びやかな世界だと思い込んでいたわ……」

「荒涼としていますねえ、死の世界と言う感じでしょうか」


 二人は地上の争乱も忘れてしばし、ぼーっと月面とそこから見える宇宙と地球を眺めていた。


『はろ~~~~~~~~』

「うわあああああああああああああ」

「きゃあああああああああああああ」


 突如モニター画面に兎幸(うさこ)の顔がアップの大映しになり、大声を上げる二人。本来月面に空気は無いのだが、直接機体に触れているからか魔法の力か何かで兎幸の言葉が伝わっていた。


「兎幸ちゃんが外に出ているわ!?」

「何で死なないんですか!? あ……兎幸って確か魔法で動く人形でしたね」


 砂緒が座席の下を振り返ってみると、しっかり上下の操縦室を繋ぐ通路の間のシャッターが閉められていた。


「でも軽率だわ……」

『私……月に来るの夢だった……散歩して帰る……』


 モニター越しに兎幸が呑気な事を言っている。


「あの……兎幸ちゃん、いつ頃から起きてたの?」

『兎幸ちゃんが……起きちゃう……やめてっ……辺りから起きてた』

「へ~~~~??」


 赤面したフルエレが震え声になっていた。


「しかし散歩して帰るとは、どうやって地球に帰るのですか?」

『この子が……いるから大丈夫だよ……』


 いつの間にか、いつものミニUFOが兎幸の上を漂っていた。


「大気圏突入とか大丈夫なのですか?」

『大丈夫……それより二人の時間を……楽しんで』


 普段無表情な兎幸は今までに無い満面の笑顔で言うと、躊躇なくピョンピョン飛び跳ねて行った。兎幸の無用な発言が二人を突然の気まずい空気に陥れた。


「フル……エレ、どうしますか? 帰ります?」

「………………砂緒がお城勤めを始めて、久しぶりだね二人きりになるの。ごめんね冷たい態度とかして」


 フルエレが俯いて切り出した。


「いえ、私もお城に行って騎士ごっこなどして思い上がっていましたよ……」

「……………」

「……………」


 再び沈黙する二人。しかし内心二人の中でこのまま口付けに向かっているのは分かっていた。


「フルエレ……こちらを、向いて下さい……」

「……はい」


 上半身を反らし窮屈な体勢で後ろを振り向いたフルエレは目を閉じていた。砂緒はフルエレの頬にそっと指先を添えた。



 唇が離れた時、二人は指を絡めて手を握り合いながらトロンとした目で見つめ合った。


「分かりました……」

「え、何が?」


 突然砂緒が話し始めてドキリとする。


「私は何故いつもフルエレの言う事を殆ど無条件で聞いてしまうのか、これは一体何故だろうとずっと考えていたのです」


「……」


 フルエレの顔からトロンとした表情が消える。


「もしかして……私はこの世界に絶対の服従者として召喚されたり、絶対命令に従う呪いか何かをかけられたのでは? 等と疑っていた時もありました」


「………………」


 フルエレが先程までの天国の表情から色を失い、万引きをとがめられた女子高生の様に凍り付く。


「でも分かったんです。そんな馬鹿らしい事では無くて、単純にフルエレが私の好みだったという事なのです。つい最近まで物だった私にも好みがあって、それが人間になって最初に出会った女性がその好みに完全一致していた……たったそれだけの単純な事だったのです」


 砂緒はこれまでにない素直な柔らかい笑顔になっていた。


「ううっ」


 その表情を見た途端にフルエレは、両手で顔を覆ってポロポロと涙を流して泣き始めた。


「どうしたのですか!? また何か変な事を言ってしまいましたか??」


 砂緒が慌てておろおろとした。


「違う……嬉しいの。そんな事言われた事ないよ」

「まさか……フルエレならどこに行っても可愛い可愛いとちやほやされるでしょう」

「そんな事ないよ!!」


 突然フルエレが強く言った。


「そんな事無い……誰もそんな事言ってくれないよ。だから嬉しい」


 砂緒は何と言って良いか分からず、ポロポロと流れ続けるフルエレの涙を指で拭き続けた。

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