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抑えられないきもち…戦闘中に抱き締めないで…


「スースーzzzzzz」

「ん、兎幸(うさこ)には全く影響は無い様ですね、頑丈な子で良かったですよ」


 砂緒の電気攻撃にも全く影響されず、すやすや眠る兎幸を確認すると砂緒はシャッターを開けて上の操縦席に上り、再び雪乃フルエレの座席の後ろに立った。


「砂緒凄いよ! 竜達が全て活動停止になったみたいだわ!」


 フルエレが画面上の攻撃範囲の色が赤に変わった事を教えてくれた。


「奴にも効いていますかね?」


 画面の中央に座り込む三毛猫仮面の乗る魔ローダー、ル・ツーが見える。


「効くかーーーーーっ!!」


 突然立ち上がるル・ツー。


「効いて無かったーーーーーーっ!?」


 操縦席で二人同時に背中がびくっとしてびっくりする。そのままル・ツーは自分の外れた肩を掴むと、忍者の様にガチッと押し込み外れた肩を治してしまった。


「本当に不死身なのか……」


 リュフミュランの王城で変態行為に及んだ三毛猫を電撃で黒焦げにしたにも関わらず、走って逃げる場面を見て三毛猫は不死身ではと思った砂緒が、再び驚異的な回復力を目撃して驚愕する。


「では私がちゃんと戦いましょう。しかしどうしましょうか? フルエレが魔力供給しないと動かないですが……」


「そうだわ、私が前に座るから、貴方が座席の後ろの方に座って! 窮屈だけど我慢して」

「………………え?」


 フルエレの余りに斬新で無防備な提案に驚く。座席の前の方に座ったフルエレが無邪気に早く早くと催促する。


 恐る恐る砂緒はフルエレと座席の間に片足から滑り込み座り込んだ。案の定砂緒の眼前には戦闘で汗ばむフルエレの背中や華奢な首筋が飛び込んで来て、ごくりと唾を飲み込んだ。


「ふ、フルエレ……フルエレ……フルエレッッ」

「きゃあっ!? 何何、何なの??」


 突然砂緒は後ろからフルエレを抱きしめ、うなじから髪の匂いを嗅ぎ続ける。


「駄目だってば、変だよ……何してるの……兎幸ちゃんが起きちゃう……やめてっ」


「最近変なんです……昔は人間なんてハムスターと同じくらいにしか考えていなかったのですが……私自身何をどうしたいのか良く分かりませんが、止まりそうに無いです……」


 砂緒は真新しいシーツに交換したベッドにしがみ付く宿泊客の様に、滅茶苦茶にフルエレの背中に抱き着いて顔をスリスリする。


「だから、全部聞こえてると言っておろうがーーーーーーっ!!!」


 肩が完全に入ったのか、逆上した三毛猫のル・ツーが剣を振り上げて襲いかかって来る。


「あ、忘れてました」

「どうするのよ砂緒、ここら辺の人に全部聞かれたわよ……もう外歩けないわ」


 フルエレが大赤面して震え声で言った。


「どうかしていました。今のはさすがに私も後悔してます。フルエレ忘れて下さい……」


 忘れられる訳ないでしょーっとフルエレは心の中で思った。


 砂緒は気を取り直して魔ローダーの操縦の主導権を握ると、ひらりと攻撃をかわして既に倒された方のニナルティナ湾タワーに向かい、巨大な鉄骨を引き抜くと剣の様に握って構えた。


「もうここらで死になさいっ!」


 ガシイイインン


三毛猫の群青のル・ツーが剣を振り下ろすと、砂緒(すなお)と雪乃フルエレの銀色の魔ローダーが巨大な鉄骨で受け止める。


「死になさいと言われて死ねますかーーーっ!」


 今度は二人の魔ローダーが鉄骨を振り回し、ル・ツーに襲い掛かるがル・ツーは難なく剣で受け流す。


「まだまだーーーっ!」


 砂緒は受け流された鉄骨の勢いのままくるりとル・ツーの後ろに回ると、背中から鉄骨を打ち込む。

 バシィッ!


「ぐあっ!?」


 一旦外れた関節がまだ痛むのか、ル・ツーが片膝を着いて動きを止める。


「そのままお前が死になさい!!」


 動きを止めたル・ツーに向かって上段から鉄骨を振り下ろす二人の魔ローダー。


 しかし寸での所で転がり避けられてしまう。再びお互い得物を持って睨み合う二機の巨大人型機械の魔ローダー。


「基本的に魔ローダーは魔法が効かない様ですのでキリが無いですね……」


 砂緒がフルエレに話し掛ける。


「え、うん……そ、そうだね」


 砂緒は普通に話しかけてハッとする。


「……すいません、やっぱりさっきの事怒ってるんですね……もうこの戦闘が終われば、許可無くフルエレの十キロ圏内には接近しませんので許して下さい……」


 砂緒の声は普段の傲慢な態度からはあり得ない程ショボンとしているが、フルエレは恥ずかしくて振り返る事が出来ない。


「怒って無いわよ!」

「え?」


 モニターのル・ツーを注視しながら砂緒が驚く。


「怒ってなんか無いよ……そうじゃ無くて、どんどん人間に近付いて変わって行っている砂緒の事全然理解して無かったって、私ばっかりお願い事聞いてもらってて、砂緒に何もして上げてないって……」


 てっきり激怒していると思っていたフルエレの意外な言葉に安堵しつつも、狭い操縦室内で気まずい展開には違い無かった。


「べ、別に私はフルエレに対してどうこうして欲しい等と思った事はありません。一緒に居れればそれで幸せなのです!」


 直前にフルエレの背中から抱き着くという行動に出ながら、今度は直ぐに生来の性格の似非紳士ぶりが出て、見栄を張ってしまう砂緒。


「う、うん!」


 砂緒の見栄を張った言葉を、素直に百パーセントに受け取ってしまうフルエレだった……


「そ、そうだフルエレ、この敵を倒したらもう一度魔輪(まりん)に乗せてもらえませんか?」

「あ、そうだね! そう言えば最近砂緒は白い馬に乗っててたんだったね……」

「ああ、あの馬はどこかへ走って行きました……」


 白い馬とは、七華(しちか)王女が砂緒に買って上げた物とは皆が知る事だった。


「そうなんだ~。あ、じゃあさ、今度はリュフミュランの北海岸に行って見ようよ! 海に面した素敵な古代神殿があるんだって!」


 戦闘中なのを忘れてフルエレがときめく。


「海に面した古代神殿ですか……私も聞いた事あります。如何にも風光明媚そうな雰囲気です。ふ、二人で行くのですよね……」


「そ、そうだよ……距離的に日帰りで行けるしね……」


 最近喧嘩が続いていた二人がこの様に、楽し気に話すのは久しぶりの事だった。


「そうですね、考えただけで凄く楽しみです。イェラに何か美味しい物作ってもらいましょう!」


「うん! えへへ、本当は私が作ればいいんだけど、料理下手」

「いいえ、魔輪の運転はフルエレ担当なので、それで良いのですよ!」


 会ったばかりの頃に戻った様に久しぶりに笑い合った。


「だから、戦闘中に旅行の相談する奴がいるかーーーーーーーーーーーーっっ!!!」


 三毛猫のル・ツーが恐ろしい勢いで長剣を振り回して襲い掛かる。

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