ちょっとした悪意、逃げるっ!c
「なんと……フルエレが一人でですか? それは心配です。彼女は見た目から沈着冷静な聖女の様に思われがちですが、実は大変繊細かつ粗忽な部分が多々あるのです。一人で戦い続けているのは心に相当な負担のはずです。とにかく早く合流して上げたいものです。馬か何かありませんか?」
「何を言っているの!? もしかして一人で向かうつもりじゃないでしょうね?」
いきなりメランが割って入る。
「一人で行くつもりですが、何でしょうか?」
「ちょっといい加減にしてよ! 私達もう友達でしょう、何故頼まないの? 何故一緒に行こうと言ってくれないのっ!」
メランはえらい剣幕で砂緒に迫った。
「命の危険があります。そんな事に巻き込ませられません。貴方はここに居て防衛線のエースとして活躍するべきでしょう」
「ちょっと! 貴方達も砂緒の為に行ってくれるのよね?」
いきなりメランが回復職の少年と魔法剣士の少年に振る。
正直に言って内心二人共そんな事に付き合いたくは無かったが、紅一点のリーダー的存在のメランに言われて渋々合意した。
「おー」
「そ、そうですね……」
「ほら! 二人共やる気まんまんよ!」
「私には嫌々にしか見えませんが」
「ほら、乗って!」
とにかく強引でぐいぐい前を行くタイプなメランの指示で、砂緒は魔戦車で港湾都市内部に向かう事となった。
「私達ももうすぐ怪我人救出で向かうつもりだ。恐ろしいがフルエレだけに苦労はさせられない」
「お兄様、群青の魔ローダーにもしかして三毛猫が乗っていても……殺して下さって結構です……」
大急ぎで向かう魔戦車の後ろから二人が手を振りながら走って追いかけ叫んだ。
「猫呼、イェラ気を付けるのですよ! 帰ってまた4人で楽しく夕食を食べましょう!」
砂緒も遠ざかりながら手を振って叫んだ。
「ああ、お兄様がまともな事言いだした……怖いです」
「今確実に兎幸の事忘れていたな」
二人は砂緒の魔戦車が見えなくなるまで手を振り続けた。




