ちょっとした悪意、逃げるっ!
サクッ
「!!!!!」
群青の魔ローダーはハッチを開ける事も無く、無言で差し出されたフルエレの魔ローダーの掌の中心に、魔ローダーサイズの巨大な長剣の切っ先を突き刺した。
フルエレの掌に表現の仕様の無い激痛が走る。
「!!!! ぎゃあああっつ……いたぁいいいいいいい……」
一気に冷や汗が噴き出し、先程まで兎幸に対して騒いでいた痛み等大した事無いと理解した。
焼ける様な痛みがする掌を握り、ハッチを閉じて目に涙を貯めてガタガタと震えた。
「何!? 何なの? 何でこんな事するの??」
まだ敵だと理解出来ていないフルエレ。突然群青の魔ローダーのハッチが開く。
「おやおや、手を怪我されましたか? 安易に手を差し出さない! 切り落とされなくて良かったですね、高い授業料になりました。ややこしいですが確か……お初にお目に掛かります。三毛猫仮面なる怪盗で御座います。以後お見知りおきを……等と言っても直ぐにあの世に行かれるかもしれませんがね」
次々畳みかける様に話して来た相手は、巨大なつばが有り、ふさふさの飾りが付いた群青のマスケット帽子から覗く猫耳、顔には妙なマスク、群青のリボンを結んだ銃士服を着た、悪い三銃士みたいな服装の男だった。
三毛猫と名乗る男は、その帽子を取ると手を当てお辞儀をし大仰に挨拶をした。
「な、何故……こんな事をするの!?」
フルエレはなおも何かの誤解ではないかと外部魔法スピーカーで聞き返した。
「理由? 理由などありません。そこに美しい手があったから……とでも言いましょうか」
モニター画面で、口元を邪に歪ませて笑う三毛猫を見てフルエレはようやく理解した。この世には意味不明な悪意があると。
ジンジンと鈍い痛みを発する手で操縦桿を握り直した。
「ッつ……許さない! 街が大変な時にそんな力がありながら、何でこんな事するのかしら、絶対に許さない……」
フルエレは普段見せない様な憤怒の表情になっていた。
転がっていた路面念車を拾うとボンレスハムを持つ様に片手で盾代わりに構えた。
群青の魔ローダーもハッチが閉じられた。
「そう来なくては……燃える街、暴れる怪獣、対決の舞台としては最高のステージですね! ではどのくらい持つか試しましょうか! 行きましょうル・ツー」
三毛猫のル・ツーは走り出すと、フルエレと違って広い道路に放置された魔車や馬車を踏んで行く。
偶然では無く、小さな子供が意図的に水溜まりを踏んで行く様に楽しみながら踏んでいるようだった。




