ニナルティナ王家金銀財宝の行方……b 勘違い
雪乃フルエレがサーペントドラゴンと必死に戦っている最中に時間を戻す。
「たああああああああ!!!」
ナイフ状に踏んで成形した路面念車を、走りながら竜の首元の炎袋にズクッと突き刺す。
「はぁはぁ……兎幸ちゃんが寝ちゃってから何匹倒したか分からなくなって来ちゃった!」
自称行商人見習いと言いながら、フルエレは数字に弱かった!
「zzzzzzzzz」
死んじゃったとフルエレを心配させない様に、スリープモードに移行した兎幸は定期的に小さな寝息を立てていた。どこまでもフルエレに優しい兎幸だった。
突き刺した路面念車を抜き取って見ると、先はぐにゃりと曲がっており、もう使用に耐えれない感じになっていた。
「これは……もう駄目ね……ごめんね」
あれだけ乗りたい乗りたいと憧れていた路面念車をポイッと捨てる。
「でも……頭に金色の蛾の触覚みたいなのはあるし、羽根は生えて来るし、最後は蛾になっちゃったらどうしようかしら? そんなのいやだわ……」
兎幸が寝てしまい集中力が切れかけのフルエレは、再び自分を奮い立たせるとそこらへんに転がる路面念車を無造作に拾い、運転席を破り取ると再び足でガンガン踏み、薄い短剣状にして握り直した。
「さあどんどん行くわよ!!」
ユティトレッド王立魔導学園討伐部部長達の活躍もあり、とうとうサーペントドラゴンの総数は半分の二十五を切っていた。
それでも街は大変な被害を被っており、うかうかはしていられなかった。
フルエレが新たな獲物を狩ろうと元路面念車だった塊を握り直した時だった。海岸の方からドスンガシャン、ドスンガシャンと聞き慣れた音がした。
「何!? 何が来たの?」
フルエレは立ち上る多数の煙の間から、何が現れるのか必死に目を凝らして見た。
「あれは……魔ローダー? 群青の魔ローダーなの??」
灰色の煙の中から現れたのは、フルエレの魔ローダーと同じ、プレートアーマーを痩身にして巨大化した二十五メートル程度の全高の群青の魔ローダーだった。
フルエレの魔ローダーがクロームメッキの様なテカテカの銀色に、各所に金色の蛇のモールドが施された豪華絢爛な物であるのに対し、現れた群青の魔ローダーは黒光りする体に銀色モールドが全身に入り、シックな印象を受けた。
さらに額には一本の巨大な角が有り、言い様の無い凄みを感じさせた。
「ぎゃおおおおおお」
突然サーペントドラゴンの一匹が群青の魔ローダーに襲い掛かる。
群青の魔ローダーは見向きもせず、接近したドラゴンを持っていた長剣で無造作に斬りかかると、巨大なドラゴンの首が吹っ飛んだ。
首の無くなったドラゴンは緑の血を拭き出しズドーンと倒れこんだ。
「凄い……もしかして……この人が西側のドラゴンを倒して行ってくれてたのね?」
本人は苦労しているつもりだが、実は隠してはいるがフルエレは多少良い所の育ちであり周囲から可愛い可愛いと蝶よ花よと大事に育てられ、世の悪意なる物を根本的に理解していない部分があった。
こんな状況で新たな魔ローダーが出て来て、今一匹倒したという事は味方に違いないと一瞬で信じ込んだ。
「貴方が西側のドラゴン達を倒して行ってくれてるのですね? 有難う御座います。私は雪乃フルエレという者です。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
フルエレはハッチを開け、満面の笑顔で魔ローダーの手を差し出した。




