海から現れた魔物…b
躊躇なく二匹目に向かって行く兎幸。フルエレは心の奥底で、ラッキー楽出来る……等と言う悪魔の囁きが無かったと言えば嘘になる。
その証拠に砂緒が敵兵を踏み潰そうとした時の様に抵抗する事無く、様子を見続けていた。
「はいった……つ……」
二匹目にも見事にスムーズに手刀が突き刺さる。むしろフルエレの時よりも淀み無く吸い込まれる様に突き刺さるくらいだ。
「凄い! 兎幸ちゃんって凄い!! ……あれ、兎幸ちゃん? 兎幸ちゃん!?」
フルエレが慌てて、通路を伝い下の座席に行くと、文字通りゼンマイが切れた人形の様に、カクンと俯いてピクリとも動かなくなった兎幸の姿があった。その目からは一切の光が既に無かった。
「嘘……嘘よ……いや、嫌だっ!! そんなの嫌!! 何か言って兎幸ちゃん、兎幸ちゃん!! いやああああああああああ」
フルエレは泣き叫びながら兎幸の身体を揺り動かした。全く無反応な兎幸の冷たい体。フルエレは自分はなんと愚かな馬鹿な人間なのかと、悲痛な叫びをあげた。
(こんなの嫌……絶対嫌……)
「はわ~……寝て……たわ~~~~~」
突然ガクンと頭を上げ、動き出した兎幸。
「寝てたわ~~~じゃないわよ! 一瞬心臓止まるくらいにびっくりしたのよ! もうっ!」
フルエレは涙を流しながら兎幸を抱きしめた。
「ごめんね、ごめんね、もう今度こそ真面目に戦う!」
そう言うと座席に戻ったフルエレは、遂に運休し竜達に転がされた路面念車の一両をおもむろに拾い上げると、運転席をバリッと引き剥がし、そのまま足でガンガン踏み続けて短剣状に成型した。
そして早速それを両手で掴んでサーペントドラゴンの喉元にグサッと突き刺した。
「雪乃……信じられない……西面でドラゴンの反応が数匹消えた……」
「ええ? 私達の他にも戦ってくれてる人達がいるのね!? 嬉しい、私一人じゃないんだ!! 頑張るよ!!」
「うん……」
再びやる気を取り戻した雪乃フルエレを見て、兎幸は微笑みながら静かにゆっくりと目を閉じた。
………………と言っても別に死んだ訳じゃなくてスリープモードに移行しただけだった。
ーニナルティナ港
「何だあれは! 今度は何だ!!」
湾に避難している大小多数の船の間を、サメ映画さながらの大きな棒が縫う様に通り過ぎていく。
やがてそれは港まで到達すると、ザバアっと巨大な角が生えたプレートアーマーの群青の兜として海上に姿を現した。
「あれは……魔ローダーなのか!?」
港や船上の人々が巨大な頭を指さして言い合った。そして巨大な頭がだんだんと前に進むと、とうとう巨大な上半身が海上から姿を現す。
「そろそろ私の出番でしょうかねえ、フルエレさんも適度に疲れて来た頃でしょうし、あの身体を可愛がるには丁度良い塩梅かと……ふふふ」
群青の魔ローダーの操縦席で三毛猫仮面が口元を邪に歪ませた。
そして遂にザバアっと大きな波を作り船達を上下に揺らして港から上陸し、足を大地に着ける群青の魔ローダー。
「海の中は鯛や平目の舞い踊りでしたよ! では行きましょうか私のル・ツー“千鋼ノ天”よ!」
全高約二十五メートルの群青の魔ローダー、ル・ツー千鋼ノ天は頭の角に巻き付いた昆布やワカメを毟り取ると、そこらへんの地面にべちゃっと投げ捨てた。
そのもう片手の手には妖しい光を放つ、魔ローダー専用サイズの長剣が握りしめられていた。
※大陸とか書いてますが島です。




