海から現れた魔物…
ーハルカ城近郊
その頃緒砂を乗せたメランの魔戦車は、ライグ村を経由し敵国のニナルティナ王都ハルカ城にようやく辿り着こうとしていた。
その道中、建物の窓から隠れ覗く現地人がちらほら居るだけで、ハプニングは何も起きなかった。
その為途中から速度を落とし、少し以前のフルエレの様に物見遊山的になって完全に油断してしまっていた。
「あれがハルカ城ね! あんな巨大な城がもし攻城戦になってたらと思うとゾッとするわね」
キューポラから上半身を出しているメランが城を見上げて言った。
「しかし誰も出てきませんね。それに先行している義勇軍の連中も見かけない。ここまで静かだと不気味です」
なんだか砂緒とメランは話が弾み、一気に信頼関係が出来上がっていた。
それを車内からやきもきしながら盗み聞きしていた回復職の少年は、とにかく砂緒に早く消えてくれと願い続けた。
「ん、恐らくリズが門前で恐ろしい程高速で腕を振りまくっています。メラン、少し早く門前に向かって下さい」
「え? そうなの? 全然見えないけど」
砂緒の有料双眼鏡の地味な能力が発動して、城前の異変に気付いた。メランが回復職の少年に伝達すると、しぶしぶスピードアップして魔戦車は門前に到着した。
「はい折檻!! やっと来たわね砂緒、怒るわよ何していたの!!」
門前で指を指し、いつもは冷静なリズがまくし立てる。傍らには座り込んだラフも居た、というよりここには二人しか居ない。
「すいません、もたもたしておりました。一体何があったのでしょうか?」
「もう大変なのよ! 北の港湾都市で占領反対派か何かが巨大なサーペントドラゴンを沢山召喚して、街を破壊しているのよ! 城を受け取りに来た衣図も、明け渡しに従ってたニナルティナ兵達も関係無く北に向かって行ったわよ! とにかくてんやわんやの大騒ぎなのよ! 今ここにいるのはメイドさんとか女子供、じゃなければラフみたいな戦闘に役に立たない者だけよ!」
「酷い言い方~~」
座り込んで小石を触っていたラフが呟く。
「なんとそんな事が……むむ、確かに遠くに煙が何本も立ち込め、空が赤く燃えてますね……何故気付かなかったかっ!」
砂緒が魔戦車の砲塔の上で背を伸ばし、遠くを見つめて叫んだ。
「とにかく行ってみましょう! フルエレさんが心配ですね」
「そうです、フルエレがとてもとても心配です」
「わっ愛よね!? 愛!!」
メランが手を組んでときめく。
「はい愛ですが、それがどうかしたんですか?」
「少しくらい恥ずかしがってよね! 全然張り合いが無いのよね~~」
リズやラフを後にし、メランの魔戦車は大急ぎで北の港湾都市に向かった。
ーその一方、ニナルティナの雪乃フルエレ
「やっぱり利き手じゃ無い方だとやり辛いよ! もう限界だよ……」
当のフルエレは再びぐずり出した。
「うん……フルエレばかりに戦わせるの……やっぱり辛い……私やってみる」
いつの間にか魔ローダーの下の座席に移動していた兎幸が、操縦桿を握り魔ローダーを動かし始めた。
「だ、大丈夫なの?」
「一匹……二匹ならなんとか……なるよ!!」
言いながら既にドラゴンに向かって走り出すと、見事に喉元に手刀を命中させた。
「す、凄い本当に出来ちゃうんだ」
「に……二匹目行きます!」




