突きの嵐、わーーーっ泣きながら戦う そして羽根
「きゃあっ路面念車が危ない!!」
逃げ惑う住民が叫ぶ。プワーと魔笛を鳴らし、巨大なサーペントドラゴンが仁王立ちする方に、吸い込まれる様に走り抜け様とする一両編成の路面念車。
子猫が玩具ででも遊ぶ様に爪をたてようとする竜。その直前、フルエレの魔ローダーが飛び蹴りを食らわし、ドラゴンを遠ざける。
なんとか路面念車は難を免れ走り去る。すかさず倒れたドラゴンの喉元に手刀をザシュッと差し込む。
「頭おかしいの!? 何でまだ運休してないの!? 何でモンスターに向かって行くの!? 魔笛で竜が避けてくれるとでも思うの? いい加減に運休してよ馬鹿っ!!」
イライラして先般の観光客気分の時とまるきり逆の事を叫ぶフルエレ。
「雪乃……イライラしないで、今ここでは……雪乃だけが街を救えるの……その事忘れないで」
「イライラなんてしてないわよ! 兎幸ちゃんは見てるだけなんだから余計な事言わないでっ!」
遂にイライラが爆発し始めたフルエレは兎幸にまで当たってしまう。
「うん……兎幸見てるだけ……ごめんね。雪乃の事大好きだから……雪乃が大変なの……判るから……」
当たり散らされた兎幸は怒り返すでは無く、一人座席でにっこり笑ってなおも雪乃フルエレを励まし
た。フルエレの目からは、ぽたっと涙が一粒落ちた。
「ごめんね……兎幸ちゃん」
「でりゃああああ!! ニナルティナ湾タワーが危ないっ!!」
今度は何故か闇雲に港湾都市の港口に立つ高い塔の根元を、ガンガン攻撃し始めた一体のサーペントドラゴンに殴りかかって動きを止め、肩を無理やり掴んで後ろに引き倒し、両膝で動きを封じると喉元に手刀を突き刺す。
「はぁはぁはぁ……兎幸ちゃん、今で何体目?」
「今ので……十五体目……」
愕然とするフルエレ。
「う、嘘……まだ残り三十五体も居るの……無理よもう無理だわ」
「雪乃……やれるよ、地道に……続けるの……」
「ち、違うの……もう手が痛いの。何か外部の衝撃が私に伝わるみたいなのよ! もうかなり前から指先とか関節が凄く痛いの!! 何なのかしらこの謎仕様は!」
操縦席でフルエレは激痛が走る軟弱な自分の手を握りながら涙を流した。
想像と思念で動かす仕様のこの魔ローダーは、硬いプレートアーマー部分への衝撃や攻撃はほぼ無敵に跳ね返すが、関節や骨格への外部の衝撃が余りにも連続して強すぎる場合、操縦者の神経にも悪影響を及ぼす様であった。
「雪乃……あそこ!」
兎幸が指示した方に警告のマーカーが付与された。そこにはサーペントドラゴンに踏みつけられ様としている、こけた小さな女の子が泣いていた。
すかさずドラゴンをタックルして庇う様に少女の上に覆いかぶさり、バシャッとハッチを開けるフルエレ。
「どうしたの? お名前は何て言うのかな??」
「え……?」
ハッチを開けて話し掛けて来たフルエレは、目は真っ赤で涙を流し尋常な様子じゃ無かった。




