観光気分で侵攻!
「そこの魔戦車、待って下さい!」
砂緒はようやくライグ村に近づきつつあったが、どうせもう誰もいないであろうと思っていた所、思いがけず一両の魔戦車を発見して呼び止めていた。
しかし魔戦車は止まろうとせず馬で並走する。
「あ、あれ!? 砂緒様じゃないですか?? 何故ここにいるんですか?」
キューポラのハッチが開き、黒い魔導士服を着たメランが顔を出して驚く。
「大軍勢率いて大屋台街に侵攻するなんて正気の沙汰じゃない。私も義勇軍の皆さんと城明け渡しに同道する事にしました。こちらの方がハプニングが起こる可能性が大きいでしょう!」
砂緒は白い馬を並走させながら答える。よく見ると魔戦車の砲塔に手の込んだ速き稲妻の紋章が描かれている。
「フルエレさんはどうしたのですか?」
「フルエレは屋台街占拠に向かいました。彼女は平和なピクニックの方が向いていますよ」
「やっぱり好きなんですか? 付き合ってるんですか?」
恐れを知らない無垢な少女がにこにこ笑顔で聞いてくる。
「はい、好きですよ」
赤面してば、馬鹿な事を聞くなよ! 的な誤魔化しでは無く、全く照れる事が無い砂緒も表情を変える事無くストレートに答える。
「きゃーっ! でわでわ七華王女とフルエレさんとどっちが好きなのですかっ!」
「……フル……エレ……です、ね」
急に答えが濁りがちになった砂緒を見て、この話題は止めようと思った。
「私達ちょっと遅れがちなんだけど、では一緒に義勇軍に合流しましょうか?」
「では私も上に乗せてもらって良いでしょうか?」
「ええ、歓迎しますよ! でも馬は?」
言うか言う前に砂緒はひらりと馬から砲塔上に飛び移った。白い馬はぱかぱかと走り去って行く。
「また七華に高い馬を買ってもらいますので!」
「あーー~~~?」
メランはお金はもらっちゃうんだ……と思ったが言わなかった。
「あの、メラン何かどんって音がしたけど何があったの?」
足元で回復職の少年が聞いてくる。
「ん、砲塔に砂緒さんが乗ったの! 一緒に行くんだって」
「え? 挨拶とか必要なのですか? 緊張するなあ……てか重くなるの禁止で」
魔法剣士の少年も驚いて言った。回復職の少年は三人でわいわいがやがや和気あいあいだったのに、いきなり異物が混入して来て内心嫌でしか無かった。
「はははははははは、やはり私はこれがお気に入りですね!」
砂緒は二人の少年の気持ちなど露知らず、砲塔上で仁王立ちすると腕を組んで大笑いした。
「あ、脚が邪魔なんです!」
メランは砂緒の足を無造作にどけにかかった。
ーその一方ニナルティナの侵攻軍
「す、凄い……大きな港に大きなレンガの倉庫が沢山……それに見て! 港にあんな高い塔が二本も立ってる! 凄く綺麗な所ね!」
まるで観光客の様に雪乃フルエレがはしゃいでいるが、彼女は今ニナルティナ王国に侵攻中の敵国に所属する人間である。
彼女が乗る全高二十五メートルのプレートアーマーを巨大化した様な魔ローダーの方こそ、現地の人々にとっては目を見張る恐怖の対象となっている事を忘れていた。
「雪乃はしゃぎ過ぎ……危険が無いかちゃんと周囲を警戒して……」
兎幸にまで叱られる始末になっていた。港をニナルティナ中川を遡って南に進むと五階建て六階建てのタウンハウスやアパートが立ち並ぶ港湾都市が広がって来た。




